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9話 お土産

「それで? この子はどうしたんだい?」


 俺達はそれぞれシャワーを浴びた後、応接室のような部屋に案内された。サヤカも昨日は野宿だったし、俺に至っては前に川で水浴びをして以来、体を洗えていなかったので大分匂いがきつかったのだろう。色々聞きたいことがあるが何よりもまずシャワーを浴びて来いとサヤカの母親に強い口調で命令された。


 そしていざ話をしようと言う所で、ずっと玄関でダウンしていた父親が復活してきたのだ。


 今はサヤカの母、父、姉がそれぞれ高そうな椅子に座り、これまた高そうな机を挟んだ対面の3人掛けのソファーに俺とサヤカが座っているという形だ。


 ソファーは3人掛けなんだから俺とサヤカは端と端に座れば良いと思うのだが、サヤカは俺の真横にピタッとくっついて座っている。


 そのせいで先程から母親と姉からは好奇の視線、父親からは殺気が感じられてすごく居心地が悪い。てか父親の目付き怖すぎッ! 完全にサヤカの目付きの悪さは父親譲りだ。


 そんな父親の質問にサヤカは答える。


「森で、拾った……」


 俺はペットか! 


 ずっと思ってたが、サヤカは喋るセリフを端折りすぎである。これでは伝わるもんも伝わらない。


「ふむ、森でたまたま会ってここまで連れて来たといった所かい?」


「うん……」


 この親父すげーな! よくあれだけでちゃんと伝わるよ。伊達にサヤカの父親やってねーな。


「しかしまだ小さいこんな子供が何で森の中に? ここらにはうちの村しか人の住んでいるところは無いハズだよ?」


「桃は、旅してる……」


「旅?」


 あ、流石に今のセリフじゃ伝わらないか。俺が自分の口で説明するしかないな……。


「どうも初めまして。俺の名前は桃太郎。訳あって一人旅をしています。この村には水や移動手段が欲しいと思って来ました」


「ほぉ、まだ小さいのにしっかりしてるねえ。私の名はゲンジロウ、サヤカの父だ。この村の村長をやっている」


「妻のアヤコです」


「サヤカの姉のカヤよ」


 小さいって言われても俺は前世で15年、今世でも2年生きてるから精神的には17才なんだけどね。


 てかこの親父村長だったのかよ! どうりでデカい家に住んでるわけだ!


「それで桃太郎君は何故一人旅を? 家族も心配しているだろう?」


「いえ両親はいないので……」


 ていうか桃から生まれたので。


「育ての家族には色々と修行を付けてもらって免許皆伝と言われたので、こうして一人で旅をしているのです。旅の目的は秘密です」


 今の旅の目的は第一目標が鬼退治の運命から逃げる事だが、第二目標は海の幸を堪能することだ。前者は当然言えないし、後者も目標がしょぼすぎて恥ずかしくて言えない。


「ほぉ、それでその年でか。立派だなぁ。そうだ、今日泊まるところが無いのだろう? この村には宿が無いからね。うちに泊まっていきなさい。幸い部屋は沢山ある」


 なんか体が小さいと何しても褒められるな。これで実はまだ2才なんです……、とか言ったら俺を胴上げでもしながら、くす玉でも割って褒めてくれるんじゃないだろうか。


 それにしてもラッキー。こんなすんなりと宿泊を認めてくれるとは。若い女がいる家だし、子供の身体じゃなかったらこうも簡単にはいかなかっただろう。


「どうもありがとうございます。一晩お世話になります」


「しかし水はいいが、移動手段と言うと車や自転車だろう? そういったものはこの村には無いんだ。この村はこんな辺鄙なところにあるだけあって、他の村やら町に頼らなくてもいいように完全に自立しているからね。それに森の中ではどちらもまともに使えない」


「そうでしたか。では水だけ買っていこうと思います」


 マジかぁ……。ということはまだまだ徒歩での旅は続きそうだな。


「しかしサヤカ! いつもみたいに森に修行に行ったと思ったらこんな小さな友達を作って帰って来るとはね! はっはっは、良かったじゃないか!」


 話がひと段落付いたところで、ゲンジロウさんはサヤカにそう話し掛けた。


 娘に新しい友達が出来たと知って大喜びしている。


 そんな上機嫌なゲンジロウさんをサヤカは地獄の底に叩き落す。


「友達じゃない……。桃は、夫……」


 ――空気が凍った。


 マズイ! と思った時にはもう手遅れだった。サヤカは実の両親と姉がいる目の前で俺を友達ではなく夫と断言してしまう。く、こんなの阻止できるわけねーよ……。


「…………」


 ゲンジロウさんはサヤカの言った言葉が理解できなかったのか、それとも脳が理解してはいけないと判断したのか、完全にフリーズしてしまっている。


 反して母のアヤコさんと姉のカヤは興味津々という目で俺とサヤカを凝視している。


「やっぱり……! ほらお母さん! サヤ、夫って言ったよ、夫って!!」


「あらあら。サヤちゃんってばいきなり婚約者を連れてくるなんて。ママびっくりしちゃったわ? 今夜はご馳走ね!?」


 ヤバい、思いの外歓迎ムードだ。ぱっぱと誤解を解かないといつの間にかそれが真実になってしまいそうな空気感になっている。


「それに、昨日は、一緒に寝た……」


 サヤカは2人の反応に気を良くしたのか、さらにこんな爆弾まで投下する。


「えぇぇっ!?? ちょっとあんたら気早すぎ!」


「ヤダー!! 素敵じゃない!!!」


 くそサヤカめ。確かに寝たは寝たけど、ただ単に近くで寝ただけじゃねえか! わざと誤解されるような言い方しやがったな?


「違います。それは違うんです! 昨日は野宿だったからたまたま近くで寝ていただけなんです! それ以上でもそれ以下でもないんです!」


「ふふ、犯人はみんなそう言うのよ!」


 犯人ってなんだよ! 俺は無実だ!!


「それに夫とかはサヤカが勝手に言っているだけで、俺は! ちゃんと! 断ったんです!!」


 家族の前で言うセリフでは無いかもしれないが、俺はちゃんとサヤカを振っているということを強調して伝える。元はと言えばサヤカが何度も何度もホラを吹くからいけないんだ。少しくらいの恥は我慢してもらおう。


「あぁ振られちゃったのねサヤ。それでもまだ諦めてないと……。くぅうう、お姉ちゃんより先に恋を楽むなんて、なんて子なの! 後で話聞かせなさいよ!!?」


「まあまあまあっ! サヤちゃんは運命の人を見つけたのねぇ! ママもサヤちゃんの恋バナ聞きたいわぁ!」


「うん、あとで話す……!」


 ヤバいこの家族超ポジティブ! 娘が振られたというのに何故かさらに盛り上がってしまった。


 だが夫という誤解が解けたのならまぁいいか――


 ッ! 殺気!??


 突如、俺は途轍もない殺気を感じる。


「もぉもたろおくぅーん、ちょっと話をしようかぁ?」


 殺気の発生源はさっきまでフリーズしていたゲンジロウさん。こんな殺気を受けたのはジジイと修行してた時以来だ。おいおい洒落になってねーぞ?


「げ、ゲンジロウさん、お早い復活ですね?」


「ハハハ、娘に悪い虫が付いたのなら、それを払うため、私は地獄からでも蘇る!」


 ゲンジロウさんは完全に瞳孔を開いた表情のままそんなことを言う。いやいやいや、死ぬほど悪い目付きも相まって超怖いんだけど!!


 この顔に深夜に出会ってしまったら、ちびるどころかそのまま気絶してもおかしくない。ゲンジロウさん、あなた天職は村長じゃなくて、ヤクザかお化け屋敷のお化け役(ノーメイク)ですよ?


「父親として、悪い虫は排除しなくちゃいけない! 無論! 娘が住むこの家に泊まるなど言語道断ッ!!」 


 え? 娘を心配するのは分かるけど、それは困る! てか俺は振ったって言ったじゃん。もしかして夫という言葉にフリーズして、その後の話聞いてなかった?


「いやいやそれは無いでしょう? こんな小さい子をこんな夜中に外に放り出すなんて、鬼畜のすることだよ?」


「うちの人がごめんね? この人、家族のことになると頭のネジが飛んで行っちゃって。当然、家には何日でも泊って行っていいから、ね?」


「ヒゲ、ウザい……」


 しかしカヤさん、アヤコさん、サヤカの3人がゲンジロウさんの言葉に反抗する。サヤカに至ってはもうただの悪口だ。


「ぐぬぬ……」


 ゲンジロウさんもここまで家族からめちゃくちゃ言われると思っていなかったらしく、かなり狼狽えている。


 何も言い返せない所を見ると、この家は女性の力がめちゃくちゃ強い家なんだろう。


「し、しかしだな。他人の家に泊まりに来るというのに、土産の一つも持ってこないような非常識な奴は――」


「あなた? そんなことを言うあなたの方がよっぽど失礼で非常識よ」


 あーあ、アヤコさんが怒った。


 だが、なるほど確かに普通は家族でもない人の家に泊まろうというのなら土産の一つや二つは持ってくるべきだ。ゲンジロウさんの言い分はもっともである。ずっと旅をしていたせいかそういった礼儀や常識に欠けてきた気がするな。


 うーん、お土産になるような物、俺持ってたかなー?


 あ、そう言えば先週狩ったくそ旨い肉がまだ20キロ分くらい残ってたよな? ババアの魔法が掛かったリュックに入れてるから鮮度も問題無いし。


「えっと……、これつまらないものですが」


 俺はそう言ってリュックから出した肉を机の上に上げる。ちゃんとカットして袋の中に入れてあるから見た目もグロテスクじゃない。


「あらー、ごめんね? うちの人が催促したみたいで」


 いやみたいでってか完全に催促だったよねあれ。


「いえいえ、旅をしているもので丁寧に包装もしていなくてすいません」


 アヤコさんがカヤさんに肉の入った袋を手渡すと、カヤさんはそれを持って部屋から出て行った。多分冷蔵庫にでも入れに行ったんだろう。


 ……渡しておいてなんだが、これ迷惑じゃなかっただろうか。


 勿論、肉の味は俺が保証する。くそ旨かった。しかし狩った俺自身も、なんていう動物だったのかいまいち分かっていない。熊みたいにデカくて、手足が細い謎の生き物だったので珍しくてつい狩ってしまったがあれは一体何だったんだろう。


 娘が連れて来た人間とは言え、他人の持ってきた正体不明の肉など恐ろしくて食えたもんじゃない気がする。ちょっとお土産のチョイスをミスったかなぁ?


 そうだ! ついでにきびだんごもお土産として渡してしまおう! 


 何度も言うが、俺は昔話通りの桃太郎ルートを生きていくつもりは一切無い。だからこの際、きびだんごをここで全て処分してしまおう。きびだんごさえなければ、獣人か動物かは知らないが、イヌ、キジ、サルが仲間になるなんてことは無いだろうし。そうすれば自然と鬼退治ルートから逃れることもできるだろう。


「ついでと言っては何ですが、これもどうぞ」


 俺は机の上に今度はきびだんごが一杯入った袋を置く。透明なビニール袋に入っていたので、中に沢山だんごが入っているのが見える。これまた魔法のリュックに入れていたから新鮮なままだ。


「あらぁ、いくつもすいませんねぇ? それじゃこれを――」


「ふむ、ご機嫌取りのつもりか知らんがそう簡単にこの私が――」


 あれ? なんか2人共固まっちゃったんだけど……。視線がだんごに釘付けになってるし、もしかしてだんごに何か問題があった?


「……?」


 だが隣りにいるサヤカは特に反応を示していない。むしろ俺と同じく2人の反応を不思議がっている。


「あの、どうしまし――」


 一体どうしたのか聞こうと俺が2人に話し掛けたその瞬間、



「「きびだんごだッ!!!!!」」



 ゲンジロウさんとアヤコさんが同時に叫んだ。


 え? きびだんごってそんな有名だったの……? 

ちょっとこの村での話がひと段落するまで投稿のペースを上げようと思います。

自分的にはもっとラブコメというかギャグというか、そういったものを書きたいのですが、ある程度主要キャラが揃わないとそれも難しいという事でペースアップです。

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