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7.魔王とデュラハン、試験に臨む

 ちょっと所用で執筆が止まっていたので、ストック0になってしまいました。出せたら来週木曜に出します。


「それでは、始め!」


 ギルド職員、イザベルの試験開始を告げる声に、試験官である"蒼炎の飛竜"の戦士、ロッドは、右手の幅広剣と左手の三角盾を構えて臨戦態勢に移っていた。


 しかし、次の瞬間――空気が、変わった。


「なッ!?」


 目の前に飄々として立っていた、鎧姿のシャノンという戦士。その姿が、一気に一回りも二回りも大きくなったように見えた。そのような存在に相対した自分の全身が、粟立つような感覚に襲われている。


 異変を感じたのか、近くの林から飛び立っていく大量の鳥たち、それすらも影絵のように無音で、遠くに感じていた。


 シャノンの頭は板金兜に完全に覆われていて、その表情は全く見えないが、まるで、暗闇の奥で目が赤く光っているようにすら見える。


 初心者時代、強敵が目の前に立った時の事を思い出す。膝が震え、身体が言うことを利かない。ロッドは次第に息苦しくなり、自然に荒く息をつき始めた。


 シャノンは大剣を中段に構えたまま、こちらの様子に構わず、緩やかに前進してきている。


「くっ……」


 そしてついに、ロッドの目の前にまでたどり着いてしまった。シャノンは無言のまま、大剣を大上段に振り上げ、ぴたりと静止する。


 あとは己の頭上に振り下ろされるのを待つしか無い。ロッドは自由が利かない手をなんとか動かし、剣と盾を頭上に掲げて大剣を防ごうとしていた。そして、大剣がついに――


 がつんっ!


 と、シャノンの兜のあたりで何か堅い物が当たる音がして、その頭が大きく揺れ動いた。


「あほう! 威圧を使ったのでは意味が無いじゃろうが!」


 どうやら、後方に控えていたイセスという魔術師?が、シャノンに向けて石を投げつけたようだった。シャノンは慌ててイセスの方を向いて言い訳を始めている。


「も、申し訳ありません、ついうっかり、いつもの癖で!」


「これは試験なんじゃろう。剣の腕前だけで勝負せぬか!」


 いつの間にか、シャノンから感じていた圧迫感は雲散霧消していた。見回すと"蒼炎の飛竜"の他の面々もそれまで圧迫を受けていたのか、肩で息をついている。審判を務めていたイザベルも、ようやく動けるようになったのか、慌ててイセスに注意していた。


「い、イセスさん、介入はダメですよ!」


「うむ、すまんな。あとは此奴等(こやつら)に任せよう。これで仕切り直しじゃ!」


 イセスがパンパンと手を叩くと、シャノンは再び開始位置に下がっていき、ロッドに向かって剣を構え直した。


「それじゃ、改めて、お願いしますね!」


「あ、ああ、掛かってこい!」



              ◇   ◇   ◇



「くっ……なんて重さだ!」


 試合が再開されて10分近くが経過していた。確かにシャノンなる戦士は、純粋に剣術のみでロッドと戦っている。しかし、右、左と自由自在に襲いかかってくるシャノンの大剣に、ロッドは防戦一方に追い込まれていた。


「このまま、勝負あり、お見事!でもいいんだろうが、せめて一矢報いなければ、な!」


 素早く重い攻撃は、盾で防御してもじりじりとロッドの体力を奪っていく。なんとかかいくぐって至近距離に持ち込まない限り、勝機は全く見えなかった。ただ、何度も繰り返される攻撃を受ける内に、タイミングを取るためか、一定のパターンがある事に気付く。


「右からの斬り下ろし、左からの斬り下ろし、右からの水平斬りが入って、下からの大振りの斬り上げ――」


 連続攻撃の〆として、下段からの強打による斬り上げが必ず含まれていたのだ。恐らく目的は、こちらの防御をかち上げて隙を作り、そこに突きを打ち込む事にあるのだろうが、今のうちはなんとか防御が間に合っている。


「最後の斬り上げを(かわ)すことさえできれば――」


 力を込めた大振りだけに、逆に大きな隙を生み出せるはず。


「右、左、右……ここだ!」


 ロッドは、これまで盾で受け止めていた大振りの斬り上げを、体勢を崩さぬ程度にのけぞり、紙一重で回避する。


「避けた! これで!」


 躱されたシャノンの大剣はぶぅんと頭の上まで振り上げられて行く。ロッドはその大剣が戻ってくる前に一気に勝負をつけるべく、剣を構えて前に突っ込んでいった。


「がはぁっ!?」


 しかし、胸の辺りに強烈な打撃を受け、もんどり打って吹き飛ばされる。――見ると、振り上げられたはずの大剣が、既にこちらを向いて構えられていた。そこにカウンター気味に突っ込んでしまったようだ。


「ばかな――!?」


「残念ですが、つけ込めそうな隙は意図したものでして」


 シャノンは、刀身の()()を持っていた右手を離し、動きを確かめるように開いたり閉じたりしている。


「つまり、オレは誘導されてしまった、と……?」


 これまでの攻撃では、左手で握っていた大剣の末端、(つか)の部分を回転軸として大きく振り回していた。しかし、斬り上げを外したと同時に刀身の半ばを右手で掴み、重心近くで回転させる事によって、瞬時に方向を入れ替えたのだ。


 この状態では左手は逆手(さかて)になっているため、大した力は入れられない。しかし、相手が自分から突っ込んでくる分には、全く問題が無い打撃力を発揮できたのだった。


「ええまあ、貴方ならば無策に削り倒されるなんて事は無く、必ず打開しようとすると思いましたから」


 シャノンは大剣を地面に置くと、未だ倒れているロッドに向かって右手を伸ばし、立ち上がらせようとした。


「怪我はありませんね? 一応、鎧が分厚そうな部分を狙いましたが、刃がなくても、うっかり喉元に入ってしまってたら大怪我ですからね」


「ああ、すまない、大丈夫だ」


 ロッドの鎧、大剣が当たったあたりを確認して、少しへこみができているものの、怪我はなさそうである事を確認したシャノンは、イザベルの方を向いた。


「さて、イザベルさん、こんな所で如何(いかが)でしょうか?」


 一方的な試合展開に呆然としていたイザベルは、慌ててロッドに確認する。


「あ、は、はい! ろ、ロッドさん、試合終了でよろしいでしょうか?」


 イザベルの声に、ロッドは力なく首を左右に振るしかなかった。


「ああ、無論だ。――見ての通り、こてんぱんだよ。間違いなくCランクのオレを越えている事を保証しよう」



              ◇   ◇   ◇



 出番が終わったデュラハンとロッドは後ろに下がっていった。代わってイセスと魔術師のレナが前に出て行く。


「次は余の番じゃな! どうすれば良いのじゃ? お主と戦うのか?」


「魔術師は戦わない。自分の得意な魔法を見せればいい」


 静かに説明した"蒼炎の飛竜"の魔術師、レナは、ゆっくりと周囲を見渡した。そして、デュラハンが抱えている大剣に目を留める。


「その大剣、この辺りに突き立てられないだろうか」


「はぁ、できますよ」


 先程戦っていた辺りの地面を指差されたデュラハンは、ぐいっと勢いをつけて大剣を地面に突き刺した。刃が入っていないだけで十分な強度を持っている大剣は、手を離しても安定して自立する程度にめり込んでいる。


「よっ……と。こんな感じで?」


「上等、ありがとう。あなたは離れて」


 小さく肯いたレナは、大剣を指差しながらイセスの方を向いた。


「では、これを目標に魔法を。そのレベルによって判断する」


「うむ、魔法じゃな!」


 腕を組んで大きく肯いたイセスは、デュラハンを手招きして耳打ちする。


「のう、デュラハンよ、何か案配良いこの世界の魔法を知らぬか?」


「や、やっぱり、ご存じありませんでしたか……」


 まさかとは思ったが、予想通りの質問に、がっくりと肩を落とすデュラハン。イセスはなぜか得意げに胸を張っている。


「当たり前じゃ。余は余の技能(スキル)があるからの。この世界の(ことわり)による魔法なぞ知るよしも無いわ」


「えーと、自分も専門外ですが……確か、中堅冒険者の必殺技みたいな感じで、"雷撃(ライトニングボルト)"と言う魔法があったような……あれ、結構痛いんですよねぇ」


「"雷撃"じゃな! よし、分かった! シャノンよ、離れておれ!」


 デュラハンを下がらせたイセスは、なぜか右肩をぐるぐる回しながら、レナに向かって宣言する。


「ではこれより、"雷撃"を放つぞ!」


「"雷撃"……それは術式魔法、第6環の攻撃魔法。私もまだ使えない、高度な術」


 レナは表情を露わにするタイプではないようだが、それでも目を僅かに見開いて驚きを示している。


「らぁいとにんぐぅ、ぼぉるとぉ!」


 イセスは、魔法を詠唱する事無く、魔法の名前だけを大きく叫んでいた。そして右手を空高く振り上げ、指をぱしんと鳴らす。


 次の瞬間、空高くから何の前触れも無く、轟音と共に稲妻が大剣に降りかかってきた。



              ◇   ◇   ◇



「なっ!?」「落雷!?」「落ちたぁ!?」


 突然の轟音に、思わず身を屈める"蒼炎の飛竜"の面々。見ると雷の直撃を受けた大剣は、溶けたり壊れたりこそはしていないものの、全体が黒く焦げ、柄に巻かれた革からは炎が上がっていた。


 呆然と立ち尽くしている魔術師のレナに、イセスはどや顔で宣言する。


「どうじゃ、余の"雷撃"は!」


 そのレナはしばらく固まっていたのだが、ようやく動きだし、小さく首を振る。


「違う……これは、"雷撃"じゃない」


「なんじゃとぉ!?」


 レナの却下にショックを受けるイセス。その後方では、デュラハンが頭を抱えているようだ。


「"雷撃"とは、目の前に魔法陣が現れて、そこから稲妻が飛び出す魔法。今のは、自然の落雷のように見えた。でも、こんな晴天で、前触れなしに落雷なんて、あり得ない……あなたが何かを行ったのだとは思うけれど、それが何なのか。私には理解できない」


「ふむ、ま、余の技は、この国の魔術と少し違う事は否定せぬがな。しかし、基準が違うのでは評価もできまい」


 しばし考え込んでいたイセスであったが、ぽんと手を叩くと、邪気の無い笑顔を見せながら、レナの方へ顔を向けた。


「――そうじゃ、こうしよう。何か、手本を見せてくれぬか?」

 モンスターとしてのデュラハンは、様々な特殊技能と、眷属の馬車を含んだ状態で、モンスターレート13と、実はぎりぎりSランクくらいの強さがあります。ただ、純粋に剣術だけならBランク程度としています。

 ところで、イセスのアホ子ぶりが増してきているような気がしますね。

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