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18.魔王、帝国軍を殲滅する

 ちょいグロかもです。

 敵将ニコラウス・フォン・フォルマンは、当初ファーストネームのニコラウスで呼んでいたのですが、クラウスと似すぎ問題が出てしまったので、ラストネームで呼ぶ事にしました。まあ、敵だし。

 その日の昼頃、魔王イセスと領主クラウスは、街を囲う城壁の上にあった。脇にはシャノン、コンラートと数人の兵士の姿もある。


「汝の予測通りじゃな」


 イセスの前には、クラウスの予想通りの位置に展開している帝国軍1万5千の姿があった。訓練され、整った装備の軍らしく、その軍勢は綺麗に整列し、騎士達の鎧は陽光に白く輝き、等間隔に並んだ旗が翻っている。


 と、一人の騎士が、軍勢の中から単騎で進み出てきた。板金鎧であるが、明らかに他の者より手の込んだ鎧を身につけ、シルクのマントを翻している。


「敵将のフォルマンです」


 イセスの側で小さな声で補足するクラウス。イセスはそれを聞いて小さく肯いた。イセスが黙したまま見詰める中でフォルマンは歩みを続け、街壁と敵軍本隊のほぼ中間、街から200mほどの地点で馬を止める。通常の攻撃魔法が届く距離ではないが、長弓の有効射程ぎりぎりの距離だ。


「叛乱者共に告ぐ!」


 顔が見えるように面頬を上げたフォルマンは、街に向かって大声を上げた。その顔は三十前と思われるが、比較的童顔と言って良い顔つきであり、将軍のような勇猛な職についているようにはとても見えない。


「叛乱者共に告ぐ! 私はニコラウス・フォン・フォルマンである。帝室の恩顧に報いる事無く、恐れ多くも帝室に対して弓引くとは、何故(なにゆえ)に血迷って不忠に走るのか!?」


 敵将フォルマンの演説を聴き始めたイセスは、ぽつりと感想をこぼす。


「ほう、意外に見た目は柔弱(にゅうじゃく)そうな(やから)じゃの」


「いえ、ああ見えてフォルマン将軍は、帝国軍の中でも、速攻に長けたかなりの武断派に入ります。それも、彼自身がかなりの剣の使い手だとか」


 剣術はからっきしの自分とは違って、と表情で語りながらクラウスはイセスに囁き返した。そんな会話をしている間にも、フォルマンの演説は続いている。


「だが現時点に於いて、まだ双方に損害は出ておらぬ。直ちに開門、降伏するならば、汝等の命を奪うこと無く、寛大な措置に止まるよう、小官からも口添えする事を約束しよう」


 そこまで喋ったフォルマンは、反応を見るためか、いったん口を閉じる。イセスの方はと言えば、柳眉を逆立てて突然、胸壁の上に飛び上がった。背後では、イセスの突然の行動にクラウスは目を丸くしているが、シャノンは動ぜず眺めるままである。


「フォルマンとやら!」


 目前の都市を囲う街壁の上に、突然飛び上がったドレス姿の美女(イセス)。その姿を見たフォルマンは、僅かに驚きの表情を見せると、彼女の言葉の続きを待ったのだった。


「余は魔王ゼナニムである! 一つ、うぬの思い違いを訂正せねばならぬ!」


 イセスは腕を組み、フォルマンを下目遣いに見下ろしながら言葉を続けた。


「余はこの世界における侵略者である! この街の者どもは、余の軍門に降ったのみ。それを叛逆者扱いとは片腹痛いわ!」


「ほう? では我々は、貴公一人を倒せばいいという訳だな!?」


「余を倒すじゃと? 絵空事を口にせぬ事じゃな。うぬ等の未来は只二つ。死ぬか、服従するか、どちらかのみじゃ」


「ふざけた事を……この帝国軍一万五千、貴公の首に剣を突きつけるまでは止まらんぞ!」


 イラついた表情を見せたフォルマンは、後ろの軍勢の方を一瞬振り返ると、鋭い動きで右手を振り上げ、そして振り下ろしたのだった。


「全軍、突撃ッ!」



              ◇   ◇   ◇



 帝国軍一万五千は、突然の突撃命令に対しても、訓練された動きを見せていた。騎士達は抜剣、構えると騎乗突進を開始する。兵士達に魔術師、神官達はその後ろで駆け足を始めていた。


「おうおう、挑発に乗ってやって来おるわ」


「いかん、対攻城戦、用意!」


 胸壁の上で立ったまま、余裕の表情で嘲笑(あざわら)うイセスに対し、帝国軍の攻撃に即座に反応し、鋭い声で部下に指示を出すクラウス。


「無用じゃ! 物量を過信する愚か者よ。力は……力によって滅ぼされると知るがよい!」


 イセスはパンと一つ手を打ち合わせると、両腕を大きく広げ、両手同時に指を鳴らした。次の瞬間、両手の平の上に一つずつ、キラキラと輝くリンゴほどの大きさの光球が現れる。


「魔王様、これは……!?」


 クラウスの質問に、イセスはちらりと一瞬だけ振り向き、


「安心せい、この榴散魔力弾(スプリンターシェル)は、地形を変えるほどの威力は持っておらん。じゃが、ああいう手合いには効果抜群じゃぞ」


 イセスの合図と共に、二つの光の球は帝国軍に向かって前進を開始した。お互いが引き合うように回転運動を始め、螺旋を描きながら突進していく。


 そして、二つの光の球は、帝国軍と街との中間地点、フォルマンのほぼ直上で接触した。次の瞬間、光の球は眩い閃光を放ったかと思うと、そそこから細い光の矢のような純エネルギーの束が、シャワーのように帝国軍に向かって降りかかっていく。


「なん……だと!?」


 頭上を通り越して行った光球の行方を見るべく振り向いたフォルマンは、その惨状に慌てて馬の足を止める。


 榴散魔力弾(スプリンターシェル)から光が吹き出していたのは、十秒にも足りないくらいの時間であっただろうか。


 降り注ぐ光は細く見えるものの、板金の鎧すら簡単に貫通するほどの威力を持っていた。つまり、防ぎようのない貫通力をもった豪雨に晒されたようなもので、帝国軍はなすすべも無く打ち倒されていた。


 フォルマン将軍の前には、倒れ伏し、ぴくりとも動かない騎士、腕や脚を抱えて呻いている魔術師、僅か一撃での惨状に当惑している兵など、僅か一分前までは精強な軍勢であったとは考えられない惨状が広がっていた。


 ただ、帝国軍は実のところ全滅はしていなかった。即死が二割、行動不能が三割、重軽傷が四割と言った所であり、無傷も一割は残っていたのだ。一割と言えども絶対的な数としては千五百は残っており、それだけでも充分フェーゼンの騎士達を圧倒できる戦力は残っていた。


 一瞬気圧されたが、正しい被害状況を素早く読み取ったフォルマンは、腰の剣を抜いて振り上げ、改めて号令を掛ける。


「行動可能な全軍、フェーゼンへ突進せよ! 城壁に取り付いてしまえば、あんな魔法は使えん、数の勝負に持ち込めばまだ勝機はある!」


「「はっ!」」


 そして帝国軍もまた、一瞬の混乱から急速に回復し、再び突撃に移ろうとしていたのだった。


 ただ、その様子をイセスは冷ややかな眼でみつめていた。


「まだ物量勝負のつもりか……愚か者めが!」


 イセスが勢いよく振り上げた右手で、指をぱしっと鳴らした。


 そして、次の瞬間。


 イセスの背後の空中に、大量の……100個ほどの紋様環が現れた。そしてその一個一個から、白く輝く様々な大きさの物体が現れ、たちまちのうちに色づいて人型の形態をとる。人型、鳥人型、竜人型、外骨格型と様々な種類の魔族が召喚され、翼を持つ者は空中に止まり、持たない者は街壁を飛び越え、そのまま地上に飛び降りていった。


「皆殺しにせよ! ――ただし、手前の一名は残すのじゃぞ」


 イセスの号令に従い、召喚された魔族達は一斉に抜剣、フェーゼンに向かって走り出そうとしていた帝国軍に対して襲いかかっていったのだった。



              ◇   ◇   ◇



「あーあ、これは完全にオーバーキルですね」


 その様子を後ろで見ていたシャノンは、誰に言うとでも無くぼそっと呟いた。隣りに立っていたコンラートが、それに反応する。


「あの方々はそんなに強いんですか、シャノン殿?」


「ええ、我々の階級では伯爵級……人間達からはアークデーモンと呼ばれる存在です。お一人で、まあ、成竜一体と同じくらいの強さと思って頂ければ」


 それを聞き、力なく肩を落とし首を振るコンラート。


「それがこの数、ですか。確かに、オレたちゃ要らないですね」


「確かに、戦力としては不要です。ですが、人間界で我々が上手くやっていくには、貴方たちの助力は欠かせません。私たちは破壊しかできませんから」


「戦う事しか能の無い騎士の場合は?」


「貴方なりにできる事を見つけて下さい。必ず何かありますよ」


 目前の戦闘を余所に、二人は小声で話を続けていたのだった。



              ◇   ◇   ◇



「ば、馬鹿な……!?」


 突撃していたフォルマンの頭上と左右を魔族達が通り過ぎ、振り返るとそこには虐殺としか言えない戦いが繰り広げられていた。


 斬りかかった剣をあっさりと素手の左手で受け止められ、無造作に振った剣で板金鎧の胴体ごと切断される騎士。


 強力な攻撃魔法の"雷撃"が直撃したものの、魔族は全くダメージを受けた素振りもなく、魔族が何事か唱えたかと思った次の瞬間、全身が炎の柱に包まれる魔術師。


 取り囲んで一斉に鉾槍(ハルバード)を突き立てたにも関わらず、魔族が足でぽんと地面を突いた次の瞬間、爆発的に衝撃波が広がり、バラバラに四散する兵士達。


 自らの部下達が殲滅されつつある光景を眼にしたフォルマンは、素早く馬を返し、魔族達に斬りかかろうとした。


「魔族共め、やらせるかぁっ!」


 が、次の瞬間、フォルマンは自分が全く身動きできなくなった事に気付く。


「何!?」


 彼の愛馬は彼を残したまま魔族達の方に(はし)っていき、一刀のもとに斬り捨てられていた。フォルマンは空中に(とど)まったままであったが、ゆっくりと地上に降ろされる。


 フォルマンが(かろ)うじて動く首で左右を見回すと……街壁の上に立っていた魔王を僭称する女が、黄金の瞳を文字通り輝かせながら自分を見詰めている事に気付いた。


「奇妙な技を……動けッ!?」


 目が合ったことに気付いたのか、イセスは不意に翼を広げると街壁から飛び立ち、フォルマンのすぐ背後に着地した。そしてそのままつかつかと歩み寄ると、フォルマンの耳元で囁きかける。


「うぬは死なせるわけにはいかんのでな。ここでうぬの部下が全滅するのを見守っていて貰おうかの」



              ◇   ◇   ◇



 フォルマンがイセスの邪眼によって拘束されていたのは僅かな時間であった。しかし解放されたときには、既に帝国軍で生きているものは存在しなくなっていた。


 総ての作業を終えた魔族達はイセスに対して膝をつき、任務完了を報告する。


「ご苦労であった。近いうち、汝等自身とこの地でまみえようぞ」


 イセスは召喚した魔族達を送還し、次いでフォルマンの拘束を解いた。地面に崩れ落ちるフォルマンだったが、そのまま振り向きざまに背後のイセスに向かって長剣を走らせる。


「おのれ、よくもッ!」


「ほっほ、せっかく残した命じゃ、無駄に散らすでないぞ」


 ひらりと躱して数m後方に着地するイセス。フォルマンは目を血走らせながら、イセスに向けて突進し、鋭い斬撃を繰り返す。


「一軍をむざむざ失い、オレ一人で帰参できようかッ! せめて一矢なりともッ!」


「その根性は見上げたものじゃが、な。うぬにはメッセンジャーになって貰わねばならん」


 あくまで自然体の口調を崩さぬまま、最小限の動きで斬撃を躱し続けるイセス。


「貴様の思い通りになってたまるかッ!」


 全力の突きを繰り出すフォルマン。イセスはやはり躱したかと思うと、彼の剣先の上にひらりと降り立った。そして、次の瞬間、軽く跳躍したと思うと空中でくるりと一回転し、フォルマンの背後に着地する。


「おやすみなさいな、坊や」


 フォルマンの背後から両手でかき抱き、彼の耳元でぼそりと呟くイセス。そして次の瞬間、フォルマンはびくっと硬直したかと思うと、そのまま力なくくずおれたのだった。


「さて、少し頭を冷やせば落ち着くかの」


 両手を軽く打ち合わせて埃を落とす仕草を見せるイセス。その背後から男性の声が掛けられた。


「殺したのですか?」


 振り向いたイセスは、そこに領主クラウスと彼の騎士と兵達が来ているのに気がついた。軽く肩をすくめて返答する。


「いや、意識を刈り取っただけじゃ。まあ、半日くらいは寝ておろうな」


「その……なぜフォルマン将軍を残されたので?」


「なに、此奴には、帝国皇帝とやらに余の力を示すメッセンジャーになって貰おうと思ってな」


 回答を聞いたクラウスは、しばし考えたが、一つ肯くとイセスに対して優雅に礼を見せたのだった。


「承知しました。確かに将軍の言葉の方が影響力があるでしょうな。では、捕虜として国境まで護送、解放する事にいたしましょう」



              ◇   ◇   ◇



 フェーゼンの戦いを契機として、それから一ヶ月を経ること無く、帝国自由都市カウフバイアの例外を除き、ロンスベルク辺境伯の旧領は魔王軍の傘下に加わる事となったのだった。


 なお、この面積は帝国総領土の1%となる。

 本編は、ひとまずここで終了です。第一章完ってところでしょうか?


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