アラサー独身女騎士の私が、何故かイケメン上司の騎士団長と同居することに!?
「お先に失礼しま~す」
「……お疲れ様」
新人の若い女騎士が鼻歌交じりに事務所から出ていく背中を、私は眉間に皺を寄せながら見送った。
彼女は昼間からずっと今夜は彼氏とデートだとはしゃいでいた。
別に彼氏とデート自体を否定するつもりはないが、公私はキッチリ分けてもらいたいものだ。
……こんなことを言っているから、30を目前に控えた今尚私は独身なのかもしれないが。
い、いや、いいのだ!
私はその辺の腰掛け女騎士とは違う!
女騎士に誇りを持っているのだ!
恋愛などに現を抜かしている暇はないッ!
……ハァ、いったい誰に言い訳をしているんだ私は。
私も帰るか。
「お先に失礼します」
「ああ、お疲れ様」
私は騎士団長であるクラウス団長に軽く頭を下げ、事務所を後にしようとした。
――が、
「――いや、やはりちょっと待ってくれないかローザくん」
「え?」
何故かクラウス団長に呼び止められた。
「な、何か御用でしょうか?」
「うん……。君はこれから何か用事はあるのかな?」
「用事ですか……?」
何故急にそんなことを?
「いえ、特には何も……」
どうせ家に帰っても、独り寂しく酒を飲むくらいしかすることはないし。
「そ、そうか……。――どうだろう、よかったらこれから、二人で飲みにでもいかないか?」
「――え」
それって……。
「大丈夫かい? 大分飲んでいたようだが」
「は、はい……、大丈夫……れす」
ゴメンなさい、ホントは全然大丈夫じゃないです……!
だってイケメンな上仕事もバリバリこなす、全女騎士の憧れの的であるクラウス団長から突然二人きりで飲みに誘われたのだ……!
緊張のあまり飲み過ぎて、何を話していたかもろくに覚えていない……。
うぅ……、気持ち悪い……。
「ここを曲がったところがローザくんの家なんだね?」
「はい……、そうでしゅ」
挙句団長に肩を借りてこうして家まで送ってもらう始末……!
今にも悶死しそうだッ!
「……え、本当にここが君の家か?」
「ふえ? ――こ、これはッ!?!?」
目の前に広がる光景を見て一瞬で酔いが醒めた。
――そこには私の慣れ親しんだ借家はなく、ただの瓦礫の山が鎮座していたのだ。
「ああ、ローザちゃん、ちょうどいいところに帰ってきたわ」
「お、大家さんッ!」
大家さんがいつものおっとりした空気を振り撒きながら、トコトコと駆け寄ってきた。
「いったい何があったんですかッ!?」
「それがねえ、ついさっき伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンがここを通り過ぎてねえ」
「で、伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンがッ!!?」
伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンはその名の通り伝説の魔獣で、時折人里に下りてきては家屋を荒らすのでたびたび騎士団でも問題視されている存在だ。
その被害が、遂に私の身にも……。
「でもあなたが無事でよかったわ。命あっての物種だもの」
「はぁ」
そう言われてしまっては、「はぁ」としか言えない……。
「一応なるべく早く建て直すつもりだけど、それまではお友達の家にでも泊まっててくれる?」
「えっ!?」
と、友達……。
そ ん な の い な い ん で す け ど。
田舎から上京してきた上人見知りな私には、何日も家に泊めてくれるような友達は一人もいない……。
……うぅ、自分で言ってて泣けてきた。
かといって野宿というのも……。
「……なあ、ローザくん」
「え?」
その時、クラウス団長が真剣な面持ちでこちらを覗き込んできた。
はわわわ、何てイケメンなのだろう……。
い、いや、今はそれどころではない!
シッカリしろ私ッ!
「もしよかったらなんだが」
「……?」
「適当なところに座ってくれ」
「あ、どうも……」
はわわわわわわわわわ。
ここがクラウス団長の家……。
高級そうな家具ばかりだし、観葉植物まであるじゃないか!?
常に散らかってて足の踏み場もないうちとは大違いだ……。
まあ、そんなうちも、今や瓦礫の山と化してしまったのだが……。
「あ、あの、団長、でも本当にいいんですか!? 私なんかが団長の家に泊めてもらっても……」
「ふふ、何度も言わせないでくれ。大事な部下が困っているんだ。このくらいのことは上司として当たり前だ。幸い部屋は余っているしね」
「はぁ」
そう言われてしまっては、「はぁ」としか言えない……。
でも本当にいいのか!?
一応大人の男と女なんだぞッ!?
ま、まあ、団長は私を女としては見てないということなんだろうが……。
……それはそれで少しだけヘコむな。
「さてと、コーヒーでも入れようか」
「あ! それくらい私がやりますッ!」
これから暫くお世話になるんだし!
――が、
「うわっと!?」
「ローザくん!?」
まだアルコールが抜けきっていなかったのか、それとも極度に緊張していたためか、足が縺れて倒れそうになってしまった。
……くっ!
「大丈夫か!」
「っ!?」
――が、すんでのところでクラウス団長に抱きかかえられた。
えーーーーーー!?!?!?!?
だだだだだ、団長の胸板逞しいいいいいいい!!!!!!
「……すまないローザくん、俺はもう限界だ」
「え? だ、団長? ――なっ!?」
団長はそのまま、強く強く私を抱き締めてきた。
ふおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?
「だ、団長……!?」
「……ずっと好きだったんだ」
「――!?」
「――君のことが」
「――!?!?!?」
えーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?!?!?
「いつも真面目に仕事に取り組む姿勢や、周りに対するさりげない気遣い。――何より騎士としての誇りを体現したような凛とした佇まい。……全てが俺の理想なんだ」
「だんちょう……」
ちょっと一旦休憩挟んでいただいてもよろしいですかねッ!?
まだ脳が状況を整理出来てないんですよねッ!?
「……ふっ、とっくに気付かれてると思ってたんだがな、俺の気持ちなんて」
「――!」
「毎日あんなに熱い視線を送っていたというのに」
「――!?!?」
な、何だか団長、キャラ変わってませんか!?
いつもの冷静で理知的な団長はどこへ!?
……今の団長はまるで、飢えた野生の獣みたいな。
切れ長の瞳にも、ギラギラとした欲が渦巻いているように見える……。
「そもそも何とも思っていない女性を、自分の家に泊める訳ないじゃないか」
「あ、そ、そうですか」
で、ですよね。
確かにおかしいとは思いましたよ……。
「で? 返事は?」
「ふえ!? へ、返事!?」
ああ、そっか、私は今告白されたんだ。
だから、何かしら返事はしなきゃ……。
「――まあ、答えはイエス以外認めないがな」
「っ!? だ、団長ッ!? ――んふっ」
団長の唇が私の唇を覆った。
「んう……、だ、だんちょ……、ふっ」
「ローザ……、ローザ」
私の名を祈るように呼びながら、私の唇を貪るように奪う団長。
……ああ、頭がぼうっとする。
もう何も考えられない。
――そして、団長の手が私の胸に伸び――
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|暫くお待ち下さい|
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. / づΦ
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「……大丈夫かい?」
「は、はい……」
まだ雲の上にいるみたいなふわふわした心持ちのまま、団長の腕枕の上でまどろむ私。
……ああ、私本当にあのクラウス団長と。
…………マジかああああああああ!?!?!?!?
冷静になった途端、顔から火が出るんじゃないかってくらい全身が熱くなる私であった。
「ところで明日はお互い仕事は休みだったよな?」
「え? あ、はい、そうですね」
そ、それが何か……?
「じゃあ、まだまだ時間に余裕はあるな」
「――え」
またしても団長の瞳が、獲物を目の前にした狼のようにギラリと光った気がした。
あーーーーーれーーーーーー。
~fin~
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