19.願い
「まぁ、呪いの仮面なんだから別にいいだろうとは思うんだが、一応謝っておくか。すまんな、嫌な感じがしたから斬っちまった」
せめて斬る前に本人の確認を取れよと自分で自分に呆れてしまうが、まぁ、本能的に斬ってしまうのだからしょうがない。うん、しょうがないということにした。
ミキリで真っ二つにした呪いの仮面は軽い音を立てて地面に落下し、その仮面をリッシェは呆然と見つめていた。まだ状況が理解できていないらしい。
俺はアイテムボックスから手鏡を取り出してリッシェの顔を映してやる。
仮面を取ったリッシェはやはり美人だった。レニと同じく肩口辺りで切りそろえられた金髪だが、レニがどことなく後輩っぽさをにじませているのに比べて、彼女は年上の先輩感がある。いや前世を合わせて考えれば俺の方が年上だけどな。
意志の強さを示すように少々目つきが鋭いが、そういうのが好きな男性も多いだろう。
「……うそ」
現実を確かめるように自分の顔に手をやるリッシェ。呪いの仮面と言うからにはずっと付けっぱなしであり肌の手入れなども出来ていなかったはずなのだが、そうとは信じられないほどリッシェの肌は綺麗だった。
保湿機能でもついていたのだろうか? ……んなわけないか。呪いの仮面にそんな便利機能がついているわけが無し。
「さて。俺の人となりとやらは分かったか?」
俺も忘れかけていたが、この手合わせはそういう理由で行われたものなのだ。
リッシェは何度か瞬きした後深く深呼吸をした。まるで何か覚悟を決めるかのように。
「いえ、私程度の腕前ではラーク殿を推し量ることなど、どだい無理な話でした」
「謙遜するなって。お前さんが俺と同じ年月の修行を積めば、俺なんかよりずっと強くなれるさ」
「とてもそうとは思えませんが、ラーク殿がおっしゃるのだからそうなのでしょう。……本来なら嬉しいことですが、残念ながら素直に喜ぶことは出来ません」
「ほぅ? なんでまた?」
「……私は、今すぐに“力”が必要だからです。国王陛下をお救いするために、他の騎士団を従わせられるだけの力が必要なのです」
「…………」
ここは魔王として『力が欲しいか?』と問いかけるべき場面だろうか? ……いや、いやいや、そんなことをしたら中二病(姉)の同類だな。
「リッシェなら今の実力でも十分だと思うがなぁ」
俺の所感など聞いていないかのようにリッシェが真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
「私程度ではラーク殿を推し量ることは出来ませんが、それでも分かることがあります。ラーク殿の積み重ねた鍛錬は本物であり、そんな鍛練を積むことが出来る人間は嘘などつかないでしょう」
「…………」
買いかぶりすぎだし、俺だって嘘くらいつくし、そもそも俺の種族は人間じゃなくて魔王なんだがな。リッシェが真剣な顔をしているので無粋なツッコミは胸に秘めておく俺である。
「ラーク殿は困っている人間がいれば助けてくださるのですよね?」
あ、何か嫌な予感。
しかし先ほどそんな発言をしたばかりなので否定するわけにもいかないだろう。
「あ、あぁ、そうだな。困っているなら助けてやらないとな」
リッシェが胸元に手のひらを当てた。
「今、私はとても困っています。どうか助けてはくださいませんか?」
だよなー。そうくる流れだよなー。
「……一応聞いておくが、何で助けて欲しいんだ?」
「大恩ある国王陛下が、王太子一派によって軟禁されています。私はどうしても国王陛下をお救いしなければならないのです」
それっぽい話は辺境伯のドルスやエーミスから聞いている。
「もちろんタダでとは言いません。もしも協力していただけるならこの身を差し出しても――」
鎧を外しはじめたリッシェだが、ふと動きを止めて首をかしげた。
「……なぜ私は、女性であるラーク殿に対して身体を差し出そうとしているのでしょうか?」
「な、なんでだろうなー。ふしぎだなー……」
ややこしいことになりそうなのですっとぼけた俺である。
さて、身体うんぬんは置いておくとして。
正直、顔も知らない人間の救出に協力してくれと頼まれても困るし、他の国のごたごたに首を突っ込むのは面倒くさいし、俺が下手な行動をすると姫やリュアが悪乗りしてきそうなんだよな。
ぱっと思いつくだけで、断るには十分な理由が揃っている。
でも。
俺ってリッシェみたいな『忠臣』が大好きなんだよな。
ちょっと前までの俺なら即答で助けてやるところ。
しかし今の俺には嫁たちがいるし、ジーン族の『主』らしいし、軽はずみな行動はしちゃいけないだろう。
と、いうわけで。
「そうさなぁ。お前さんが頑張って頑張って頑張り抜いて、自分に出来ることはすべてやり尽くして。それでもどうしようもなくなったら手を貸してやるよ。……ま、俺は少々手荒な解決しか出来ないが、それでもいいというのならな」
そんな約束をした。
次回、10月5日更新予定です




