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TS魔王の『モン娘』ハーレム綺譚  作者: 九條葉月
第二章

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18.手合わせ。(リッシェ視点)



 ラーク殿と勝負することが決まると。なぜだかカイン殿が深くため息をついた。


「ラーク君。キミの悪い癖は人を騙していることだよ」


 カイン殿の苦言にラーク殿が眉間に皺を寄せた。


「ずいぶんな物言いじゃないか? 俺、人を騙したことなんて――あるな。あるけれど、やむにやまれぬ事情があるときだけだ。お前さんの口ぶりだと四六時中騙しているみたいじゃないか?」


「騙しているじゃないか。キミ、自分の実力を相手に察せられないようにしているのだから。現にリッシェ君も騙されて、ラーク君とは手合わせが成立する力関係だと誤解しているし」


 カイン殿の物騒な発言を聞き、私の背中に一筋の冷や汗が流れた。


 実力を誤魔化している?

 手合わせが成立すると誤解?


 昔、師匠であるドルス殿から聞いたことがある。達人の中の達人は、身に纏う闘気すら自在に操り自分が一般人であるかのように見せかけることが出来るのだと。


 ……私の見立てでは、ラーク殿はかなり強い。もしかしたら騎士爵の若手の有望株、レニ殿に匹敵するかもしれない。


 レニ殿と私の力関係は、私の勝率8割と言ったところ。そんな彼女に匹敵する実力を持つラーク殿相手の手合わせともなれば中々に手応えのある内容になるし、ラーク殿の人となりを見極めることが出来るはずだ。


 しかし。カイン殿の発言を受けてみて。

 改めてラーク殿を観察すると――わずかに、私の手が震えていることに気がついた。


 本能が恐れているのだろうか?

 警告を発しているのだろうか?


 こいつには勝てない、と。

 こいつと戦ってはいけない、と。


 けれどももはや手遅れ。この手合わせを申し込んだのは他ならぬ自分であるし、ラーク殿も乗り気なのだから。いまさら『やっぱり止めます』なんて出来るはずがない。


「さて。手合わせはいいが、大通りでってのは目立ってしょうがない。どこか広めの路地でもないか?」


 ラーク殿の希望もあり大通りから路地へと移動した。互いに、間合いの一歩外の位置で武器を抜く。


 私の獲物は両刃剣。

 対するラーク殿は片刃の剣。いや、遠い島国に伝わるという刀だろうか?


 ラーク殿の武器を見てなぜかカイン殿が目を見開いていた。


「え? いきなり刀を出すの? 私の時は槍だったのに……最初は敵扱いしてくれなかったのに……」


 よく分からない反応だが、カイン殿はラーク殿から敵扱いされたかったのだろうか?


「こんな路地で槍を使うバカがどこにいるんだよ」


 ラーク殿も呆れ顔なのでここはカイン殿の反応が特殊なのだろう、きっと。


「そんなことより、時間はいいのか?」


「あ、そうだったね」


 なにやら『所用』の時間が迫っているらしく、カイン殿たちはラーク殿を置いてどこかへと行ってしまった。


 離れていく背中を見送ってから、ラーク殿が準備運動とばかりに何度か刀を振るった。


「さて、リッシェさんだったか? ドルスに会ったときに名前だけは聞いた覚えがあるな。お前さんはドルスの弟子で間違いないか?」


「……はい。未熟者ではありますが弟子を名乗らせていただいております」


「はは、謙遜するなって。お前さんはもうドルスより強いだろう?」


「い、いえ、そんなことは……」


 師匠であるドルス殿を越えているのならば喜ばしいことだ。……本来ならば。

 実力すら読み取れないラーク殿が目の前にいる現状では素直に喜ぶことも出来ないが。


 私の不自然な反応を見てラーク殿が『う~ん』と頭を掻いた。


「仮面をしていると謙遜なのか本気で思っているのか分かりにくいなぁ……。おっと、そうだ。その仮面は趣味でつけているのか?」


「……いえ、これは、簡単に言うと呪いの仮面でして」


「ほぅ? なるほど、だから嫌な感じがしたのか」


 うんうんと頷いたラーク殿は私に剣を向けた。見たこともない構え……というよりは構えですらない。まるで子供が描いた絵のような力のこもっていない立ち姿。


 素人であれば『隙あり』と見て容赦なく攻撃するのだろう。

 けれど。私は動けなかった。

 ラーク殿は構えらしい構えすら取っていないのに。


 一歩。

 一歩すら踏み込めない。


 ドルス殿のような頑強さは見て取れない。

 カイン殿のような得体の知れなさもない。


 もはや最初のことに感じ取った『かなりの腕前』の女性はどこにも存在せず。目の前には実力の底さえ見えない魔王しかいなかった。


 ラーク殿が笑う。不安に震える少女をなだめるように。


「ほれ、気にするな。俺は自動回復(イルズィオン)即死無効(バロール)のスキルを持っているらしいからな。ちょっと斬られたくらいじゃ死にはしないから、遠慮なく打ち込んでこい」


 その『ちょっと斬る』が出来そうにないのだが。


 しかも自動回復と即死無効とか、どちらも持っているだけでSランク冒険者への道が約束されたようなスキルだ。その希少性はまさに神からの授かり物。ただでさえ人外の実力を有しているのに、そんなスキルを二つ持っているとか、もはや人間では殺しきれないのでは?


「…………」


 人となりを読み取るどころの話ではない。一瞬でも気を抜けば私の首と胴体はサヨウナラしてしまうだろう。


 不幸中の幸いをがあるとすれば、ラーク殿から殺気が放たれていないことか。いやラーク殿ほどの武人であれば殺気を放つことなく人を殺せるだろうが、今の彼女の表情に浮かぶのは『手合わせ』のとき特有の柔らかさ。


 そう、手合わせ。

 目の前にいるのは、私はもちろん師匠であるドルス殿よりも遙かに強い武人。そのような御方と戦えるこの好機を逃す手はない。


「……いきます」


「おう、かかってこい」


 全身全霊。

 上段からの一撃をラーク殿に放つ。

 同時、ラーク殿も剣を振り払った。攻撃のためというよりは私の剣を防ぐための行動。


 剣劇のぶつかり合った音が路地に響き渡った。


「――っ!」


 重い。

 その細腕からは想像できないほどに重い一撃だった。

 何より驚くべきなのは攻撃ではなく、防御のための行動でこれだけの重さがあるということ。こちらは衝撃で腕にしびれが来ているというのに。


 もしも。

 もしもラーク殿が本気で剣を振るったら。私の細腰など一刀で両断されるかもしれない。


 けれど、それを恐れる武人などいない。

 自らが鍛錬に鍛練を重ねた結果。なおも足元にも及ばない相手に剣によって命を終えるなら。それは本望と言えるだろう。


「――はぁっ!」


 もちろん私とて命を無駄に捨てるつもりはないし、国王陛下をお救いするという使命もある。この場で死ぬわけにはいかない以上、私に止まるという選択肢はない。

 それに、この場合はラーク殿に『つまらん相手だな』と思われる方が命の危機がある。実力がかけ離れている以上、ラーク殿に『殺すには惜しい武人だ』と思わせるしか私に活路はない。


 私の予想は正答だったようであり。私の斬撃を難なく防ぎ続けるラーク殿は、それでもなお楽しそうだった。


「お前さん、今いくつだ?」


 私は決死の覚悟で剣を振るっているというのに、そんな質問をしたラーク殿の呼吸に乱れはない。


「……22です」


「ほぅ、その歳でこれだけの腕前に至ったか。天才ってのは羨ましいねぇ。『極地』とやらにいとも簡単にたどり着けるんだから。鍛錬に鍛練を重ねた結果、やっとこの強さにたどり着いた俺としては嫉妬するしかないな」


「……ご冗談を」


 ラーク殿が天才でなければ、この世界から凡人はいなくなってしまう。


「冗談じゃないさ。師匠に比べれば俺なんてどうしようもないほどの凡人なのだから」


「…………」


 それは、その師匠とやらが規格外の人外なだけなのでは?


「おっと手合わせ中に気を抜くなって」


 ラーク殿の蹴りが私の腹を捕らえた。板金とはいえ鉄製の鎧をつけているのに、それでも呼吸が困難になるほどのダメージを受ける。


 準備動作無しの蹴りでこれだけの威力とは、もはや驚きを通り越して呆れるしかない。


 ラーク殿にとってこの戦いはあくまで手合わせ。蹴りのダメージから私が回復するまで待ってくれていた。


 武人にとっては屈辱でしかない。


 実力に差があることは十二分に承知している。けれど、けれど、だからといって手加減されることに納得できるものではない。


 ――せめて、一撃。


 喰らわせなければ死んでも死にきれない。


 私はラーク殿から一歩距離を取った。

 逃げではない。

 むしろその逆。

 それを察したのかラーク殿も後退した私を咎めることはしなかった。


「…………いきます」


「おう、かかってこい」


 再びのやり取りの後、剣を構える。両手で握りしめ、右肩で担ぐような位置に。


「ほぅ、『二の太刀要らず』か。この世界にも示現流があるのか? まぁ、俺みたいな転生者が伝えた可能性はあるし、偶然構えが似ているだけかもしれないな」


 ラーク殿は相変わらず軽い態度を崩していないが、その瞳に宿す光が鋭さを増した。


 師匠から伝授されたこの技は一撃必殺。当たれば敵の鎧ごと両断してみせるし、避けられればこちらが隙だらけの身体をさらすことになる。


 生きるか死ぬか。互いに油断なく相手を睨み付ける。


「…………」


「…………」


 大通りの喧噪がどこか遠くなり、心臓の早鐘が耳朶に響く中。――ふと、猫の鳴き声路地に響き渡った。


 普段であれば心癒やす音色となるのだが、今この瞬間においては『死合い』開始の合図となった。


「――――っ!」


 “敵”に向けて駆ける。剣を構えたまま。魔力による身体強化で重い鎧を無理やりに動かして。


 強化された筋力と、助走によって加えられた速さ。突進する鎧の重量、そして重力と剣自体の重さ。それらすべてを込めて一気呵成に振り下ろす。


「――チェストォオオォオッ!」


 必殺の掛け声。

 神速の一撃。


 狭い路地では横に逃れることも出来ず、後ろに下がった程度では振り降ろしからの切り上げによっての追撃を防ぐことは出来ない。刀で防ごうとすれば、刀を折るか刀ごと相手の肉体にめり込ませる。

 それこそが我が一撃。

 それでこその必殺技。


 逃れる手があるとするならば、上へ飛んで逃げるくらいしかない。


 そんな必死の状況の中で。


「――千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす」


 ラーク殿の瞳が光った。ような気がした。

 赤い朱い。伝説に謳われる死神の瞳(バロール)と同じ色をした瞳が。


リッシェ(・・・・)が本気を見せたんだ。こっちも本気で答えてやらなきゃな」


 ラーク殿が剣を動かした。下から上への切り上げ。振り下ろした私の剣に対するかのように。


 ばかばかしい。

 必殺の覚悟を込めたこの一撃が。上からの振り降ろしが。助走もなにもない下からの振り上げで防げるはずがない。刀を弾かれて、それで終わりだ。


 なのに。

 だというのに。

 ラーク殿の瞳からは自信があふれ出ていて。

 千日。万日の鍛錬に対する絶対の信頼が浮かんでいた。


「見せてやろう。鍛錬に鍛練を重ねた一撃だ」



 ――ミキリ。



 そんな囁きとほぼ同時。ラーク殿の刀が私の剣とぶつかり――私の剣が砕け散った。


 いいや、砕け散るという表現は正しくない。まるで野菜か果物を切るかのように私の剣は両断されたのだ。下からの振り上げという、およそ威力が出ないはずの斬撃によって。


 そして。


 私の剣を切り、天をも裂かんほどに振り上げられたラーク殿の刃が下を向いた。刀を見上げる私を切り裂くために。


 そして――


 閃光かと見間違うほどの速さで以て。


 刀は振り下ろされた。




次回、27日更新予定です

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