14.妹(?)と、奴隷取引と。
なんやかんやで時間も遅くなったので、今日はショースの家に泊めてもらうことになった。ジーン族の皆やエリザたちには泊まりがけになるかもしれないと話してあるので宿泊自体に問題はない。
そんな話になったあと、シイシャがアラクネのキッヒに会いたいと言い出した。うやむやになったとはいえ、兄が奴隷としてキッヒを買ったのは事実。自分も謝罪したいのだそうだ。
妹からの申し出にショース困り顔で俺を見る。
「ラーク殿。いかがいたしましょう?」
「俺が口を挟むべき問題じゃないな。シイシャが謝りたいというのなら、キッヒを呼んだらどうだ?」
「……では、その通りに。いい機会ですから奴隷解放もしてしまいましょう」
一礼してからショースはいったん部屋から出て行った。
なにやらショースの態度が先ほどと比べてよそよそしい感じがするな。やはり『魔王』と名乗ったせいか?
「いや、妹を救ってくれた恩人じゃからな。感謝の念で懇切丁寧な対応になっているのじゃよ。心を読めない嫁殿からはよそよそしく見えるかもしれんがな。いや~心が読めない人間は大変じゃの~」
「……さも当然のことのように言っているが、普通は人の心なんて読めないからな?」
「ふむ、そうじゃったな。ラークは色々と規格外すぎて、心が読めないことが欠点に思えてしまうの」
「読めないことが欠点って、どんなバケモノだよ俺……」
カイン、心底納得したように頷くんじゃない。そろそろ泣くぞ?
アホなやり取りをしている間にショースがキッヒを連れてきた。純白のアラクネが室内にいるという光景は現実感が薄い。もしかして幻覚でも見ているんじゃないかってほどに。
シイシャがベッドから出ようとしたので慌てて身体を支える。病気が治ったとはいえ、ずっとベッドにいた人間だ。いきなり動こうとして転んだりしたら目も当てられない。
「ありがとうございます、お姉様」
俺の腕にすがりつきながら、前世の記憶通りの小悪魔な笑みを浮かべるシイシャ。『お姉様』呼びは確定なのか?
そして。俺たちのやり取りを目の当たりにしてなぜか衝撃を受けたような顔をするキッヒ。なにやら(俺にとって)不穏な空気が流れてきた。ような気がする。
まずはシイシャが懇切丁寧な謝罪を行い、それをキッヒが受け入れる。
そして、なぜだか二人はしばらくの間見つめ合っていた。
敵意はなさそうなので大丈夫だろうが、無言でいられるとなぜだか不安になってしまうな。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
いや何か喋れよ。
俺の心のツッコミが通じたのかどうか知らないが、キッヒとシイシャは固く握手を交わした。ガッシリと。まるで夕日の河原で殴り合った直後のように。
なんだこれ?
「ふむ。『妹』同士として魂でわかり合ったようじゃな」
訳の分からないことをつぶやく姫だった。
なんだこれ?
◇
その後は(出先だというのに)ベッドに忍び込もうとした姫や悪乗りしたカインを撃退するというトラブルはあったがつつがなく朝を迎えることが出来た。
そして朝ご飯の場で。
「そういえば、ショース君。奴隷を連れてきたということは、近々奴隷取引があるのかな?」
カインの質問にショースが冷や汗を流す。
「え、えぇ、カイン様。本来であれば今日奴隷取引が行われる予定でした」
カインは“勇者”だからな。この国ではかなり有名だし敬意を払われているらしい。いくつもの悪徳な組織も潰しているとか。
そんなカインが不愉快そうに片眉を上げた。
「へぇ? 私の記憶が確かなら、この国の奴隷市場は開催される日時が指定されているはずだよね? そして、今日は指定された日ではないとも記憶しているのだけど?」
「それは、そのですね……」
「つまり、今日の取引は違法なものであり、君はその違法な取引に参加しようとしていたわけだね?」
「…………」
滝のような汗を流すショースを見ていると少し可哀想になってきたな。
「あ~、カイン。そんなに虐めてやるな。実際に参加はしていないんだから未遂だろう? それに、妹さんの病気を考えれば少しでも早く金を手に入れたいと考えるのは当然のことだ」
「……ま、ラーク君がそう言うのならここまでにしておこうかな」
意味深な笑みを浮かべたカインが視線をショースから俺に移す。
「ところでラーク君。今日は暇かな?」
「魔石も売り終わったからな。暇と言えば暇だな。……王城に乗り込んで、王太子の片腕をぶった切って手土産にするのもいいかもしれないな」
もちろんエリザ向けの土産だ。
「そ、そのお土産はドン引きされるから止めた方がいいと思うな、うん」
わざとらしく咳払いしたカインが一つ提案してくる。
「暇なら私と一緒に出かけないかな?」
「なんだ? デートのお誘いか?」
「でぇと、というのは逢い引きのことだったかな? ふふ、ラーク君とのでぇとは楽しそうだけど、でぇととするには少しばかり荒っぽいかな?」
「ほぅ、荒っぽいねぇ? 一体何をするつもりなんだ?」
非常に興味を引かれるが、別に俺の血の気が多いわけではない。と思う。
「ちょっと奴隷市場をぶち壊そうと思っていてね」
「ほんとに荒っぽいな。……奴隷商人なんてどうなろうが知ったことじゃないし、半殺しくらいならいくらでも協力する――と言いたいところだが、この国では奴隷取引が合法なんだろう? よその国にまで乗り込んで、その国のやり方にケチを付けるのはおかしな話じゃねぇか?」
「開催日以外でやるのだから、今回の取引は違法だよ。たとえ半殺しにしようが誰も訴え出ることはしないだろうさ」
「そうくるか。ん~、とりあえずついて行ってみるか」
奴隷商人を襲撃して、そのあとに奴隷がどうなるか気になることだしな。場合によってはうちで引き取ってもいいし。
「そうこなくちゃね」
カインが拳を差し出してきたので、こちらも拳で『コツン』と軽く合わせた。
ちなみに奴隷市場への案内はショースにお願いした。俺たちじゃ場所が分からないからな。
もちろん、巻き込むのは悪いので襲撃には参加しない。
次回、8月27日更新予定です。




