閑話 お留守番の人馬さん。その2(ニィル視点)
「――また『らいばる』が増えたような気がします」
クッキーを作り終えた頃。またまた窓の外を見上げながらタロンがつぶやきました。
ちなみにユルは焼きたてのクッキーを頬張って悶絶、舌を火傷したようです。お菓子で火傷するとか本当に本物の創造神なのでしょうかこの子?
「くひのなはにまでねふたいへいをかくほくしはらあふあふのひょうりがたへられはくはるやないか!」
何を言っているか分かりません。どうやら熱すぎて舌が回っていないみたいです。
タロンが水瓶から水をくみユルに飲ませてあげています。自分も『ライバル(?)』出現で余裕がないというのになんて優しい……いえ、哀れんでいるだけでしょうか?
水を飲んだおかげか、それとも自動回復の力か。とにかくユルは大復活を遂げたようでした。
「口の中にまで熱耐性を獲得したら! 熱々の料理を食べても美味しくないじゃないか!」
なんともどうでもいい理由を語られてしまいました。ユルを見つめるタロンの目の冷たさは絶対零度。他人事ながら心が冷えてきます。
「そ、それでタロン。ライバルとはどういうことですか?」
思わずフォローに回ってしまう私です。
「はい。またまた『妹きゃら』の地位が脅かされるような気がします。具体的に言えばお兄ちゃんを振り回す小悪魔系の妹が爆誕した気配がします」
どんな気配やねん、と突っ込むのは無粋でしょうか?
「ふっふっふ、キャラ被りだね?」
なにやら嬉しそうな顔でタロンを煽るユルでした。私の馬体に隠れていなければもう少し様になるのでしょうけれどね。
「ふふ~ん! 『妹』なんて被りやすいキャラを選ぶからそうなるんだよ! 対する私は完璧さ! 滅多にいない羽根ッ娘で! 創造神の一人で! それなのに付き合いやすいというおよそキャラ被りをしようのない存在なのだから!」
なんだか見ていて悲しくなってきました。
タロンも同感だったのか容赦なく切り捨てていきます。
「羽根が生えているだけで威張られましてもね。お姉ちゃんの周りには尻尾と角が生えた姫や、蔦が伸びてるリュア、下半身が馬であるニィルたちや腕がゴーレムな私がいるのですから。正直、羽根が生えているくらいでは『きゃら』が弱いです」
「ぐふっ!?」
「そもそも姫も神様ですし、リュアも土地神。エリザは神子で私なんて“神殺し”です。今さら神が一人増えたくらいでは埋没すると思いますが?」
「がはっ!?」
「残念美人という意味ではエリザがすでにいますし」
「ごふっ!?」
「愉快な存在という意味ならリュアやニィルがいますし」
「あべし!?」
「言うほど物珍しい存在じゃないですよねあなた」
「かはぁああぁああっ!?」
なにやら吐血しながら空中に吹き飛ぶユルでした。すごいなK.P.(心・ポイント)へのダメージ。
あとタロン。『愉快な存在』の中に私が入っているのはどういうことですか? 私ってあれでしょう? 自分で言うのも何ですが常識人枠でしょう?
「はっ」
鼻で笑われました。泣いていいでしょうか?
「……うん?」
不意にタロンが虚空を見上げました。表情にはわずかな緊張が見て取れます。
「タロン、どうしましたか?」
「人間族が、五人。“ 神に見放された土地”を突っ切ってこちらへ向かってきています」
強力な魔物が跋扈する“ 神に見放された土地”を通れる人材など限られています。こちらへ向かっているという人間族はかなりの腕前なのでしょう。
この大陸は中央に8,000m級の山岳が連なっていますからね。大陸の反対側に移動しようとした場合、(腕に自信があるのなら)“ 神に見放された土地”を突っ切るのが一番の近道なのです。
ケウ様は水を求めてこの場所にたどり着いたらしいですし、接近してくる人間族5人も友好的な理由か、偶然こちらに向かっているだけという可能性も十分あります。
でも、なんだか嫌な予感がするのは……気のせいですかね?
こういうことはラーク様に丸投げ――じゃなかった、判断を仰ぎたいところですが、残念ながら魔石販売のために不在です。ここは留守を任せられた私たちで何とかするしかないでしょう。
決意を新たにした私はタロンとユルを見ました。
タロン → 人類の天敵。
ユル → これでも創造神。
駄目だ、対応させたら酷いことになる未来しか見えません。
「……私が接触しましょう。タロンはジーン族の皆に事情を説明して、念のために臨戦体制を取ってもらってください。ユルは……、…………庭の雑草でも毟っていてください」
「ひどくない!? 私これでも創造神だよ!? 神様なんだよ!? 役に立つと思うなぁだから私にもお仕事プリーズ!」
ユルの抗議を聞き流しながら私は鎧を身につけ、一応武器を装備しました。これを使うような展開にならないことを祈るばかりです。
次回、24日更新予定です




