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4.夕食と、ゴブリン襲来



 4.夕食と、ゴブリン襲来。



 最低限の防御施設を作り終わった俺とエリザは、さっそく居館の中を確認することにした。


 玄関。

 和風だからもしかしたらと思っていたが、やはり靴を脱ぐ方式らしい。文化の違いに関しては、ふよふよ浮いているエリザなので心配はいらないだろう。


 玄関から伸びるのは短い廊下。そのままT字で縁側に合流するらしい。

 廊下の両脇にあるのはそれぞれ12畳ほどの和室。これは俺とエリザの私室ってことでいいか。

 ふすまがあるので、和室の奥にも部屋か廊下がありそうだ。


 とりあえず縁側へ進むと、左奥にあるのはトイレ。右奥にあるのは台所のようだった。


 他にも部屋がありそうな雰囲気だが、もう日も落ちたので夕飯の準備をはじめた方がいいだろう。


「そういや、エリザは幽霊だろ? 何か食うのか?」


「お腹はすいていませんが、美味しいお料理ならごちそうになりますわ」


 自分で作る気はなしと。まぁ貴族令嬢なので仕方ない。むしろ手料理を作られた方がビックリだ。


 俺とエリザは台所に足を運び色々といじったりしてみた。


 さすがに冷蔵庫や電子レンジといった電化製品はないが、魔石を使ったコンロがある。空気中の“魔素”というものを消費して火を出すらしく、あまり長時間は使えないが魔石の交換をする必要はないらしい。


 長時間使用する場合は自分で適宜魔素の代わりに魔力を補充すると。


 水道はないが、シンクは設置済み。少量の水は初級の水魔法で出すのが常識らしい。


「さて、何を作るかねぇ」


 前世では一人暮らしが長かったし、“師匠”から訓練と称してサバイバル生活をさせられたこともあるので一通りの料理はできる。問題があるとすれば今から下準備をするのは面倒くさいことか。


「よし、肉を焼こう」


 ステーキだ。ステーキはすべての問題を解決する。


 なぜかエリザが胸を張った。


「ふふ、元公爵令嬢であるわたくしに、安いお肉は通用しませんわよ?」


 エリザはきっちりとフラグを打ち立てて――



「――うまーい! ですわー!」



 俺の焼いたステーキを食べて絶叫していた。この公爵令嬢、面白すぎである。


 使ったのはD.P.で交換できるステーキ肉のうち最も安いヤツだったのだが……、創造神への不満をフォークに込めて、お肉を穴だらけにしたことが効いたようだ。


 決して、エリザの舌がバカなだけではない。と信じたい。





「……うん?」


 食後。

 お茶を飲んでエリザとまったりしていた俺は顔を上げた。


「どうしましたの?」


「いや、殺気を感じてな。人間のものというよりは野生動物に近いか」


「……探知系の魔法は設置していませんでしたわよね? どうやって殺気とやらを感知しましたの?」


「ふふん、知らないのか? 元日本人としては必須のスキルなんだぞ?」


「ニッポンとは修羅の国ですの?」


 この世界にも『修羅』っているのか……? あ、いや、自動翻訳(ヴァーセツト)が翻訳してくれたのかな? 勉強していないのに異世界人と意思疎通ができるのだから、これだけは創造神に感謝しないとな。


 俺は神様への感謝を早々に投げ捨てて立ち上がり、玄関から外に出た。


 つんと鼻につくような、野生動物特有のニオイがする。視線を向けると、その先にいたのは……餓鬼?


 もちろん子供の俗称ではない。昔話によく出てくるような、手足が痩せ細り腹部が丸く膨らんだ人間――の、ようなものが杭の隙間から中に入ろうとしていた。


 二本足で立っているので人間に似ているような気もするが、よく見ると肌は暗い緑色だし、頭部が異常に大きい。目玉の大きさも人間の数倍はあるだろう。耳の先も尖っていて、明らかに人類とは別系統の生物だった。


 植物で作った蓑で股間を隠しているから、最低限の知識はあるのかもしれない。……いや、どう見ても胴体より狭い杭の隙間を通ろうとしているのだから、最低限の知識もないのか?


「ご、ゴブリンですわ! 弱いですけど群れてくるので厄介な魔物なのです!」


 俺の背後に隠れながらエリザが叫んだ。そのゴブリンとやらはどう見ても一匹なのだが。群れからはぐれたのか、それとも斥候だろうか?


 ……まだ杭の隙間を通ろうと頑張っている姿を見ると、『斥候』の意味も理解できるか疑問だな。


 なにやらおバカなペットを見ているような気分になってきたが、このまま放置するわけにもいかないだろう。


 たしかD.P.の交換所で武器があったよなぁと俺が“智慧の一端(ソピア)”を起動させると、アイテムボックスの項目に『!』マークが浮かんでいた。


 指で触れてみるとアイテムボックスが開き、中には『名もなき使い古された槍』が入っていた。


「…………」


 エリザがしていたように空中へ手を突っ込む。すると、思ったより簡単に“それ”は手中に収まった。


 長さ1m程度の、無銘の槍。


 この身体では初めて握ったはずなのに、それでも『懐かしい』感触と重さを感じることができた。


 準備運動するかのように二、三回振り回し、穂先をゴブリンに向ける。


「――――っ」


 一突き。

 生物としての急所は人間とさほど変わらなかったらしく、胸を突かれたゴブリンは数分で絶命した。


 純情なガキというわけでもないので、他の命を奪うことについては別段思うことなどない。ないのだが……。


「……うむ、ダメだな」


 槍を抜きながら独りごちる俺。


「だ、ダメではありませんわ! すごいじゃないですか! 目にもとまらぬ速さの突き! ざまぁないですわねゴブリンめ!」


 何で鼻息荒く喜んでいるんだろうなエリザは? ……あぁ、話を聞くに、荒野に投げ出されてからは魔物と戦ったらしいからな。ゴブリンはにっくき敵なのか。


「それで、何がダメですの?」


「あ~、そうだな。エリザには少し言いにくいが、やはり前世とは腕や足の長さとか身長が違うからな。前世の感覚で踏み込んでも『ズレ』があるんだ」


 あと、オッパイがでかいから身体の重心が上にある。口にしたら殴られそうだから言わないが。


「わたくしの身体を使っているのに贅沢ですわねぇ」


「だから言いにくいと……」


 まぁ、けらけらと笑うエリザは怒ってなさそうなので別にいいか。


「ラークは不満みたいですけれど――」


 エリザは少しだけ頬を赤らめながら、言った。



「――槍を振るうラーク、ちょっと格好よかったですわよ」



「…………」


 俺の頬もついつい赤くなってしまったのは言うまでもない。






 ちなみに。

 ゴブリンはそのまま放置すると腐臭が凄そうだし、他の魔物をおびき寄せるというので炎系の魔法で焼き払った。


 もちろんその前に『魔石』を回収したのだが、別生物とはいえ二足歩行の動物を解剖したのはあまりいい気分ではなかったのは言うまでもない。


 エリザはもちろん途中で逃げ出した。





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[一言] 日本「風評被害だ!?」
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