5.王都へ
5.王都へ。
エリザが寝入ったあと。
俺とリュア、姫、エリザの祖父母であるドルスとエーミスさんは書斎に集まり秘密の話をしていた。
いや俺は眠ろうとしていたところを強襲され無理やり連れてこられただけなんだけどな。
ランプの光が揺れる中、まず口を開いたのはエーミスさんだった。
「王太子派は近衛騎士団のうち、第一近衛連隊、第二近衛連隊、第三近衛連隊を抱き込んでいます。レニのような脱退者もいますから、合計で3,000人といったところでしょうか?」
そういやレニは近衛騎士だったか。あの歳で騎士爵に叙されて近衛師団に配属されるのだから優秀なんだろうな。侯爵家の娘という理由もあるだろうが……ちょっと鍛えただけでかなり強くなったし。
「近衛騎兵連隊は一応王太子に忠誠を誓っていますが、長期訓練を名目に王都を離れています。第一騎士団から第七騎士団までは中立ですわね。ただ、最も規模が大きく、王都守護が主任務の第一騎士団長代理のリッシェは国王陛下を確保できればすぐにでも反乱を起こすでしょう」
国王陛下は軟禁状態で、王太子が国王代理をしているらしい。
いや、他の国の兵力とか情勢なんて知らされても困るんだがな。
「さし当たっての問題は王太子派の近衛騎士3,000でしょう。こちらの兵力は10,000ほどですが、魔物への備えを考えれば王都へ向けられるのは3,000が限度となります。あとは騎士団や各地の貴族がどれだけ味方に付くか、ですね」
“ 神に見放された土地”で暮らしていると感覚が麻痺してくるが、よく食卓に上がるイノシシ型の魔物でも騎士中隊が連携を取らないと打ち倒せないらしい。
24時間態勢の警戒なども含めれば相応の兵力を“ 神に見放された土地”との境界に配備していないといけないのだそう。むしろ3,000でもだいぶ無理をしているらしい。
「ふむ、つまり魔物の心配がなくなれば、10,000の兵力を王都に向けられるのじゃな?」
「姫、さすがにそれは無理だよ。最低限の防衛戦力は置いておかないと。まぁそれでも8,000は向けられるだろうけど」
姫とリュアが悪巧みしているな。関わりたくない……と、逃げるわけにもいかないか。なにせ嫁のやらかすことだ。最悪責任を取らないと。
ドルスが机上にこの領地と周辺の地図を広げた。軽く説明を受けたリュアが何カ所かを指差し、そこにドルスが丸印を記入していく。
うん? 辺境伯領ではなくて、隣接する“ 神に見放された土地”に丸印が書かれているな。
「今指し示した地点が魔物の発生する『点』だね」
神殿で浄化しようとしている場所か。当然ながら辺境伯領の近くにもあるのだろう。
リュアの説明を姫が引き継いだ。
「この地点を封印してしまえば、一時的にではあるが魔物は出てこなくなる。たとえば創造神の石像を使えば、一年くらいは持つじゃろう。恒常的に発生を防ぎたいのなら神殿を建てなければならんが、革命までの急場しのぎなら十分じゃろう」
創造神の石像か……。ドヤ顔で立っているユルの姿を幻視してしまう俺だった。何もしていないのにぶっ倒れそうな石像だな。
姫の説明にエーミスさんが頷いた。
「なるほど、つまり一時的にでもその『点』をふさいでしまえば魔物は発生しなくなり、魔物対策に展開している兵力を引き抜けると。兵力8,000ですか。騎士団の離反も考えれば十分に『勝利』できる数でしょう」
なにやら本格的に革命が起きそうだな。なるべく平和裏に――は、無理そうだな。俺に迷惑のかからない程度に――と、いうのも無理だろうな。
(俺が革命とか、一体何の冗談だろうか?)
薄暗い天井を見上げて深々とため息をつく俺だった。
◇
あまり関わりたくない話題のあとは、当初の目的である魔石販売についての話になった。
この辺境伯領ではよく魔石が取れるので、王都に持って行った方が高く売れるらしい。
転移魔法なら移動費もかからないし、王都というものにも興味がある。というわけで俺たちは明日にでも王都に向かうことにした。
エリザとリュアはお留守番だがな。王都にはエリザの顔を知っている人間がいるかもしれないし、まかり間違って王太子に出会う可能性がある。リュアはエリザの護衛。一番仲がいいから適任だろう。
……と、いうのは建前で。せっかく祖父母と再会できたのだからしばらく水入らずで過ごさせてやるべきだ。そもそも『顔を知っている人間がいるかもしれないから』という理由なら俺とエリザは同じ顔だし。
「王都は城塞都市でして。中に入るには身分証明書が必要ですが、ラーク様はお持ちですか?」
エーミスの確認に首をかしげる俺だった。
「転移魔法で王都に行くのはダメか?」
「王都の城壁内に転移すればさすがに察知されるでしょう。ラーク様なら騎士相手でも平気でしょうが、無用な混乱を起こしたくないのなら普通に城門から入場されるべきかと」
「……身分証明書なんてないんだがな」
「では、わたくしたちが用意いたしましょう。我々と協力関係にある侯爵家の分家、子爵家の子女ということで。貴族籍を持っている方が諸々の揉め事には巻き込まれないでしょうし、平民の身分で大量の魔石を持って行くと怪しまれますから」
王都観光をしたい田舎貴族の娘が『税収で集めた魔石の販売のため』という建前で王都にやって来た。という形にすればそれほど怪しまれないらしい。
「揉め事が少なくなるのは助かるが、貴族の戸籍なんてそう簡単に用意できるものなのか?」
「こういうときのために空けている貴族籍があるので問題はございませんし、辺境の子爵家の娘など誰も気にしませんから大丈夫ですわ」
話を聞くと、優秀な庶民を『貴族』として抱え込むときなどのためにそういう架空の貴族籍を国に申請しておくのはよくある手なのだそうだ。あとは夭逝した子供の貴族籍がそのまま残っているとか。
本来なら自分たちの分家の子女ということにしたいらしいのだが、この辺境伯家はドルスの引退後に新たに作られたため分家がまだなく、協力関係にある侯爵家に頼んであるらしい。
「緊急に必要となる場合もありますから、身分証明書はこちらがすでに預かっています。どうぞお持ちください」
準備のいいことで。
エーミスさんが渡してくれたのは俺の分の貴族身分証明書と、姫のための平民身分証明書。貴族籍は国に申請しなければならないので面倒な手順が必要だが、平民は教会が発行するので(権力者が頼めば)なんとでもなるらしい。
身分証明書には俺の血を一滴垂らすことで『本物』になるそうだ。
さっそく血を垂らして登録、ヒングルド王国における俺の名前は『マリア』となった。
まぁ、入国の時以外は使わないだろうがな。
王都までの馬車は辺境伯家で用意してくれるらしいし、途中まで馬車ごと転移してしまえば時間もかからない。
あとの問題は姫が亜人だということか。
ヒングルド王国は亜人差別が蔓延していて、亜人というだけで無用のトラブルに巻き込まれやすいらしい。
姫って太い尻尾と角が生えているからな。一目見ただけで亜人と分かってしまう。
今回の目的は魔石販売と見学。余計なトラブルはなるべく避けたいところだ。
「うむ、我が妻が望むのであれば仕方あるまい。完全に人型になってやろうではないか」
そんなことできるのかよ。
「わらわを誰だと思っておる? 数千年を生きる竜じゃぞ? 角と尻尾を隠すことなど造作もないことじゃ」
「じゃあ、なんで普段は角と尻尾を出しているんだ?」
「初対面の時にただの人間の女と思われるよりは“竜人”と思われた方が舐められなくて済むのでな。ハッキリ言うと、人の姿じゃと寄ってくる男がうざったいのじゃ」
「あー……」
もしも姫から角と尻尾がなくなれば、ただの超絶美人だしな。男であれば口説きたくもなるだろう。亜人であればそういう輩も寄ってきにくいと。
「……むふ」
だらしなく頬を緩める姫だった。超絶美人と(心の中で)褒めたせいで照れたらしい。何だかんだでこいつも可愛い性格しているよな。
ラーク「ちょっと鍛えた」
レニ「地獄の鍛錬でした……」
次回、28日更新予定です。




