3.辺境伯
3.辺境伯。
「――エリザベートを娶りたくば! ワシに勝ってみせい!」
辺境伯邸に到着するなり、筋肉ダルマの爺さんから勝負を挑まれた俺である。
なに? ヒングルド王国って保護者に勝たないと結婚できないの?
エリザベートの祖父、ドルスはまさしく『歴戦』といった風格を漂わせており、白髪や皺からしてそこそこ年寄りなのにマッスルな人間だった。うん、美少女なエリザと血縁関係があるとは信じられん。
で、そんなマッスル――じゃなくてドルスの背後には俺に向けて必死に頭を下げる騎士爵・レニの姿が。彼女は先に辺境伯領に戻っていたからな。俺たちのことについて色々と報告したのだろう。
「……あ~、そうですね。はじめまして辺境伯殿。自分は“魔王”ウラド・ラークです」
年上相手なので一応敬語を使った俺である。この世界の貴族の挨拶なんて知らないからたぶん粗野に聞こえるだろうがな。
「レニから話は聞いておる! 死したエリザベートの魂を救済し、悪霊から善霊にしてくれたことには感謝しよう! 永遠の別れとなるはずだったエリザベートとこうして会話できるのもおぬしのおかげ!」
うん? そういうことになっているのか? 確かに今のエリザはどう見ても怨霊じゃないし、恨みも抱いていない。善霊と言えばそうなるんだろうが……。
「だが! それと結婚とは話が別! エリザベートは『わたし、将来お爺さまと結婚しますの~』と約束したのだ! それを、ぽっと出の女にかっ攫われるなど許せるか!」
……それ、父親とやるイベントじゃね?
俺の心のツッコミなどもちろん届くはずもなく。筋肉ダルマはいかにも『潰し斬る』ための、人の身長ほどもある大剣を肩に担いで突進してきた。
え? これ戦わないとダメ系なやつ?
エリザに視線を向けると『ぶっ潰せ! ですわ!』との返事があったのでマッスル爺さんと向かい合う。
大ぶりの一撃など受け止める義理はないので一歩下がって回避。大剣が地面に突き刺さったので反撃しようとしたら――この爺さん、剣をあっさりと手放して格闘戦を挑んできた。
俺、見た目だけなら美少女で、ドルスの孫娘に瓜二つなのだが、ドルスは容赦なく拳を振るってくる。総白髪の人間とは思えぬ速さと柔軟さ。ボクシングとかやらせたらかなりいいところまで行くんじゃないだろうか? 若い頃なら世界チャンピオンだって狙えるはずだ。
ま、この世界にボクシングはないか。
ドルスの攻撃をとりあえずは避け続ける俺。このまま相手が疲れるまで逃げ続けてもいいのだが、それだと結婚を認めてくれないだろうから俺は渋々正面から殴り合うことにした。
「――ぬぅ!」
ドルスの正拳に、俺の拳を当てるという荒技。その一撃でドルスは俺の強さを読み取ったようだ。
「面白い! 華奢な身体にその力! さすがは魔王と言ったところか!」
戦闘狂のように笑いながらさらに拳のスピードを上げるドルス。と、それをすべて迎撃する俺。正直、手が滅茶苦茶痛い。けれどここで止めると『負けた』ことになるので真正面から拳と拳を合わせる俺たちだった。
「普通に戦えば瞬殺できるだろうに……ときどき思うけど、ラークってバカだよね」
「ときどきとは、リュアは優しいのぉ。わらわはいつもバカなやつじゃと思っておるというのに」
リュアと姫の呆れ声は聞こえない。うん、聞こえないが姫とはあとで話し合い(物理)をしなきゃいけないだろう。
◇
やるじゃねぇか。
お前もな。
と、夕日の河原で認め合う……ような美しい展開にはならなかった。
「い~や~だ~! エリザベートが結婚してしまう! いやあのド阿呆に嫁がせるよりは1000000000億倍マシだが! まだ早いあと10年は可愛がらなければ!」
エリザを抱きしめて駄々をこねる辺境伯だった。ま、孫を可愛がる祖父は美しいなー……。
「ええい! しつこい! ですわ!」
祖父を足蹴にするエリザだった。
「……ふ、エリザベート。強くなったな。少女から妻になったということか……」
地面に転がりながらカッコイイ雰囲気で語るドルスだった。俺の名誉のために言っておくが、さすがに足蹴にされたことはない。……今のところは。
俺が生暖かい目でエリザとドルスを眺めていると、
「――ドルス」
絶対零度よりも冷たそうな声が響いた。
声の方を向くと、壮年でありながらも背筋がぴんと伸びた金髪女性が。
立ち姿や着ているドレスからして貴族で間違いなさそう。
というか、十中八九ドルスの奥さん――エリザの祖母だろう。
「エリザベートの旦那様が挨拶に来たというのに、一体何をしているのかしら?」
にっこりと笑う壮年の女性は笑顔だというのに恐ろしい。あのマッスル、じゃなくてドルスがガタガタと震え出すほど。
と、壮年の女性が俺に身体を向けて一礼してきた。
「我が夫の無礼、平にご容赦願います。わたくし、ビルチオン辺境伯が妻、エーミス・ビルチオンでございます。かつてはエーミス・ディラクベリ公爵夫人と名乗らせていただいておりました」
俺の直感が告げている。逆らっちゃいけない系の人だ。
「ご丁寧にどうもありがとうございます。自分はウラド・ラーク。なにぶんこの国の礼節には疎いものでして、何かと無礼があるやもしれませんが……」
「かまいません。他国の方に我が国の風習を押しつけるなど愚の骨頂ですもの」
……それ、暗に『我が国の風習的にありえない挨拶ですわ』と言っていません? 深読みしすぎ?
ま、いいか。一朝一夕で貴族の礼節が身につくはずもないからな。
「えー、今日はですね、エリザベートさんの近況と結婚のご報告に来たのですが」
「遠方よりのご足労、まこと感謝の念に堪えません。悪霊として人々を呪い、転生輪廻の枠組みから堕ちるしかなかったはずのエリザベートの魂を救済してくださった魔王陛下とのご成婚、どうして反対することができましょうか」
長々と喋られたが、認めてくれたってことでいいのだろうか?
その後もエーミスさんは長々と喋ってくれたが、要約すると『ご飯を食べながらエリザベートについて聞かせてください』ということになった。
次回、5月6日更新予定です




