2.辺境伯領へ
2.辺境伯領へ。
所用でヒングルド王国に戻っていた“勇者”カインに姫が連絡を取ると、いつでも王国を案内してくれるらしい。
特に予定もないので、近日中に向かうことにする。
ヒングルド王国に出かけるとして。エリザに黙っているわけにはいかないだろう。転移魔法で移動できるとはいえ色々見て回るなら数日はここを留守にしなきゃいけないしな。
エリザは良くも悪くも純粋なので行き先を誤魔化そうとすれば誤魔化せると思う。
が、こういう嘘はバレたときにひどい目に遭うから――じゃなくて、大切な嫁さんに嘘をつくわけにもいかないので、嫁さんたちを集めて正直に話すことにした。
集まったのはエリザ、リュア、ケウ、姫、スレイ、タロン。そしてスレイの妹の人馬・ニィル。
なんでニィルがいるのかって? 俺にもよく分からん。分からんうちに居館で一緒に暮らすことになった。そして他の皆からは嫁扱いされている。
どうしてこうなった?
もちろん手は出していない。いくら俺でも『なぁなぁ』のうちに手出ししない。こういうのはまず本人の意志が最重要。しかも相手は嫁の実妹だからな。慎重に行かないと今度の家族関係が大崩落だ。
それに姉夫婦の家で妹も同居するのは普通……、
普通かな?
普通じゃないよなぁ、
まぁ異世界だし普通ということにしておこう。
ともかく、俺は魔石販売ついでに視察もしてくると皆に説明した。
話を聞いたエリザは難しい顔で唸っている。
やはりヒングルド王国にいい感情を抱いていないのだろうか?
「……むぅ、ヒングルド王国には思うところがありますが、ラークと遠出……。ラークと『でぇと』する方が重要ですわよね」
意外な答えが返ってきた。え? ヒングルド王国に行くの平気なの?
「あの王太子には会いたくもありませんが、魔石を売りに行く程度なら大丈夫でしょう。万が一遭遇したとしても家具に足の小指を当て続ける呪いをかけてやればいいだけですし」
「……地味に嫌な呪いだな、それ」
この世界でも足の小指は弱点のようだった。
う~む、しかしそうか。もしかしたらトラウマとか刺激されるかなぁと思ったんだが、平気そうなら一緒に行くのもありか? もし無理そうだったら転移魔法で送り返せばいいし。
「もちろん私も同行するよ」
そんな宣言をしたのはリュア。まぁこいつはどこにでもついてくるだろう。むしろお留守番すると言い出したら何かあるのかと疑わなきゃいけない。
「……人馬族はヒトの町では少々目立ちますので、我々は留守を守りましょう」
ケウの発言に、頷くスレイとニィル。亜人差別主義国家らしいからな。かなり目立つ下半身の人馬族は避けた方がいいのだろう。
姫も角が生えていたり尻尾が生えていたりするが……ま、姫ならどうとでもなるか。
「嫁殿からの扱いがおざなりだと思うのじゃが?」
「信頼しているってことだ」
俺が流しているとタロンが軽く手を上げた。
「私も同行したいところですが、この腕は少々どころじゃなく目立ちますから留守番でお願いします。……姫とリュアがいるならお姉ちゃんの守りは万全でしょうし」
姫とリュアならその気になれば国の一つや二つ滅ぼせるだろうしな。むしろ俺が手綱を締めないと危ない。
「なるほど、ラークに手綱で縛られてしまうと」
「ドキドキしてしまうのぉ」
相変わらず頭ピンク色な土地神と国滅龍(姫)だった。エリザとニィルの教育に悪い二人である。
「なにやら子供扱いされている気がいたしますわ」
「気のせいだ」
いつものやり取りをした後、細々と話し合った結果まずはエリザの祖父がいるという辺境伯領に向かうことにした。エリザが国にいたころ何かと味方になってくれた人物で、彼にだけは追放後の顛末と結婚の報告をしたいらしい。
…………。
思い出すのはエリザと結婚したかったら私を倒してからにしろと勝負を挑んできたレニと、俺と結婚したかったら私に勝ってからにしろと叫んだエリザ。
ヒングルド王国の人間って、まさかとは思うがあんな連中ばかりじゃないよな……?
少しばかり不安になりつつ、転移魔法――は、目に見える範囲か行った場所にしか移動できないので、ドラゴン形態になった姫の背中に乗って辺境伯領に向かうこととなった。
次回、28日更新予定です




