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TS魔王の『モン娘』ハーレム綺譚  作者: 九條葉月
第二章

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1.魔石

 1.魔石。



 魔石。

 前世のファンタジーな物語でよく出てきた名前だが、こちらの世界にもちゃんとある。


 魔石とは簡単に説明すると『魔法が使える石』だ。ため込んだ魔力を使い、特定の魔法現象を起こす。


 たとえば炎系の魔法なら火を出すし、氷系なら周囲の温度を下げる、といった具合に。危険な魔石は持っているだけで犯罪になるらしい。


 魔物から剥ぎ取ってギルドに持って行く間に騎士に見つかって逮捕、なんて笑い話もあるとかないとか。


 魔石を体内に有するのが“魔物”であり、魔物を倒すと手に入る魔石は(大きさや引き起こせる魔法現象にもよるが)そこそこ高く売れるとか。


 魔物と魔石の関係についてはリュアが事細かに教えてくれたが、半分も理解できなかったので省略。とりあえず体内にある魔石のおかげで魔物は魔法を使えるらしい。


 で、なんで魔石について再確認しているかというと、――ジーン族が献上品として持て来るのだ。大量に。


 ジーン族500人余の食糧確保のために魔物狩り

 → 魔石も大量に手に入る

 → 献上品に。


 という流れなのでものすごい勢いで貯まっていく。それ専用に準備した倉庫が満杯になりそうなくらいには。


 ジーン族については税率1割・兵役で代納という契約なので俺に魔石を渡す必要はない。ないのだが、『戦もない現状、兵役ですべての税金を免除というのは人馬族の誇りが許しません』とのことなので受け取っている。


 エリザからも『善意を断ってはいけませんわ』と注意されたしな。


 ジーン族が日常生活で使えそうな魔石以外を受け取るという形にした結果、そろそろ二つ目の倉庫を作らなきゃいけなくなりそうな現状となってしまったのだ。


 別に倉庫自体はD.P.で作れるから問題はないのだが、そうやって整理もせずに押し込んでいくと年末の大掃除が大変だと俺は前世で学んだ。いやこの世界の年末がいつなのかは知らないが、それはそれ。少しずつでも片づけたり整理したりしなければ……。


 というわけで整理開始。俺は魔石の種類とか分からないのでエリザとリュアも参加。あとは力仕事を志願したタロンにも協力をお願いし、惰眠をむさぼっていた姫は無理やり引っ張ってきた。


「まずは大まかに5大魔法で分類してしまいましょう」


 エリザの号令でリュアとタロンが魔石の餞別を開始した。ちなみに5大魔法とは火、水、風、雷、土のことらしい。


「これは熱効果系ですから火、ですわね」


「氷は水系と、」


「聖魔法は……『その他』という分類を作りますか」


 エリザ、リュア、タロンが次々に分類していってくれる。特に蔦を数十本操るリュアと小さなゴーレムを使役しているタロンの作業効率が凄い。あっという間に魔石の山が整理されていく。


 これ、一時間もしないうちに終わるな。一日がかりだと思っていたのに。

 感心していると姫が声をかけてきた。


「なんじゃ? 我が嫁殿は手伝わんのか? 女にばかり働かせるとはいいご身分じゃのぉ?」


「俺が手伝った方が邪魔になるだろ、これ。俺だと魔石の分類とか分からないし。……姫は手伝わないのか?」


「わらわは嫁殿に引っ張られてきただけじゃからな。それに、魔力の有り余っている竜には魔石など必要ないからのぉ。使ったこともないものを分類しろと言われても困ってしまうな」


「そう考えると魔石って俺にも必要ないんだよなぁ」


 一応桁違いの魔力を持っているらしいし、5大魔法も使えるのだから。


「使わぬのなら売ってしまえばよかろう。わらわも魔石よりは金貨を守るほうがやる気が出るというものじゃ」


 姫がそんな提案をしてきた。宝を守るドラゴンって物語の定番だものな。

 だが、惰眠をむさぼる=守るじゃないからな?


 しかし、売却か……。


「そういえば、冒険者ギルドってところで買い取ってくれるんだったか?」


「そうじゃな。ギルドに行くのが面倒なら商人に頼めばよかろう。手数料は取られるが、魔石であれば喜んで……いや、無理か。ここは“ 神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”のど真ん中じゃからのぉ。いくら商人とはいえやって来るのは無理な話か」


「魔石が必要ない割にずいぶんと詳しいな?」


「必要ないからこそじゃ。食べた魔物の骨と一緒にそこら辺に集めておくとな、時々商人が買い取りに来るのじゃ」


「竜の寝床までか? 商魂たくましいな。そういうのは冒険者の仕事じゃないのか?」


「冒険者など盗人と同じじゃからな。追い払っているうちに自然と商人がやって来るようになったんじゃ。たとえ矮小な人間が相手であろうと礼儀と対価を払うなら願いを聞かないわけにもいかんしな」


 食い残しとはいえ黙って持って行くのは許さないってことか。


「そういうことなら試しに売りに行ってみるかねぇ」


 異世界転生ものの定番・冒険者ギルドって場所にも興味があるし。よく考えてみれば転生してからずっと“ 神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”に引きこもりっぱなしで、他の場所には行ったことがない。海も結局はすぐに帰って来ちゃったし。


「嫁殿が町に行くならわらわが案内せねばいかんな」


 胸を張る姫だった。


「お前の案内とか不安でしかないな」


「ふふん、これでも数千年を生きる竜じゃぞ? 生まれたての子鹿のようなおぬしよりはよっぽど『町』について知っておるわ」


「……この世界にも鹿っているんだな」


「さて、ここから近い国となると――ヒングルド王国になるかのぉ?」


 ヒングルド王国。エリザが捨てられた国、ねぇ。


「ここから見て西側の国だったか? たしか東側にはヴィートリアン王国って国もあるんじゃなかったか? なんでヒングルド王国なんだ?」


「ヴィートリアン王国は鉱山から魔石が採れるのでな。買い取り価格も低くなるのじゃよ」


「それだけか?」


「カインのおる国じゃから案内はヤツに任せればいいしの。理由などそれだけじゃよ」


「……嘘が下手くそだなお前は」


「おぉ、ついに我が妻も読心術を習得したか」


「してねぇよ。姫が分かり易すぎるだけだ」


「まぁ、わらわたちの悪巧みに関しては心配せんでもいい。おぬしに迷惑は――少しかけるかもしれんの」


「かけるのかよ」


「夫をそっと手助けするのもいい妻の役割じゃぞ?」


「そもそも妻扱いをどうにかして欲しいんだがな……」


「まぁ深く考えるな。カインがいるから案内役を心配しなくていいというのは本当じゃしの。それに、――エリザの仇についての情報も手に入るかもしれんぞ?」


「……エリザがもう恨んでいないのに、俺がどうこうするべき問題じゃないだろう?」


「ふふん、嫁の仇討ちは夫の役割じゃぞ?」


「それ、死んだあとに結婚した場合はどうなるんだ?」


「男なら細かいことは気にするでない」


「都合のいいときばかり男扱いしやがって……」


 やれやれと肩をすくめる俺だった。



次回、4月20日更新予定です。

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