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TS魔王の『モン娘』ハーレム綺譚  作者: 九條葉月
第二章

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閑話 勇者と騎士爵と、ジーン族。その2

ヒングルド王国 = エリザが追放された国。


 閑話 勇者と騎士爵と、ジーン族。その2。



「そうですなぁ、我々はすでに移住しましたし、これ以上の戦になりようがない現状、和平も何もないと思いますが。賠償金をもらえるというのなら喜んで受け取りますがね」


 ジーン族の族長、ゲニに辺境伯からの親書を渡すと、彼は困ったように頭を掻いた。


 ここで嬉々として被害を訴え、賠償金のつり上げ要求をしてこないジーン族のことを好ましく思う“勇者”カインだが、同時に、少しばかり心配にもなってしまう。


「被害を受けたのならそれ相応の要求をしないといけないよ? 人的被害とか、防衛にかかった費用とか、移住の費用とかあるだろう?」


 ついつい助言してしまうカインだった。


「と、言われましても……。人的被害は皆無となりましたし、移住費用もラーク殿の転移魔法のおかげでほとんどかかりませんでした。住居や畑なども用意してくださいましたし……しいて言えば戦の際に消費した矢や糧食が被害となりますかな?」


「人的被害が、皆無となった?」


「えぇ。あの戦いではニィルが死亡したのですが、ラーク殿が蘇生してくださいましてな。それに怪我人も全員治療してくださったので、死者無し。後遺症を持つ者もいなくなりました」


「……それは何よりだ」


 死者の蘇生など神話の物語だ。

 カインだって致命傷くらいなら治癒してみせる自信がある。けれど、一度死んでしまった人間を蘇らせることなど不可能だ。それはもはや死と再生を司る“創造神ユル様”の領分。ただの魔王にできるはずがない。神から特別な祝福を与えられているなら話は別だが……。


 しかしゲニはできたという。

 彼の性格からして嘘をついてはいないだろう。


 ならば、本当に?

 本当に魔王が死者の蘇生を行ったのだろうか?


「ふむ、改めて考えると色々とやらかしておるのぉ、我が嫁殿は」


 姫の発言にカインの思考が一瞬止まった。


 ……嫁?


「き、キミの嫁はもしかして……」


「おや? 言ってなかったかの? 魔王ウラド・ラーク。それがわらわの妻の名前じゃよ」


「……スレイ君の結婚相手も同じ名前じゃなかったかな?」


「そうじゃのぉ。あやつは少しばかり女にだらしないのでな。今だけで6人の嫁に囲まれておるよ」


 エリザ。リュア。ケウ。姫。スレイ。そしてタロン。


 女性にだらしないという評価はラークが聞いたら猛抗議するだろうが、残念ながらこの場にラークはいないし、端から見ればただの女たらしだ。


 しかしその事実はカインに最上級の混乱をもたらした。


 あの“国滅龍”が、多妻の一人に甘んじている?


 理解を拒む脳みそを必死に働かせようとしているカインに対し、氷竜姫は意味深な笑みを浮かべてみせた。


「暇なら一泊しておくといい。明日、面白いものが見られるぞ?」





 明日、面白いものが見られる。


 氷竜姫のそんな言葉を受けて、勇者カインと騎士爵レニは一泊することに決めた。


 とりあえず族長のゲニからは和平交渉に前向き(?)な返答を得られたので、あとは賠償金をどうするかレニとの間で交渉をすることになった。


 一応カインも同席したが、交渉はつつがなく終了。用事を済ませて暇となったカインとレニはジーン族の新たな里を見て回ることにした。

 もちろんというかなんというか、ゲニの案内付きで。


 ――驚き。


 それ以外の表現をカインは見つけられなかった。見つける暇がなかった、と言う方が正確か。


 ジーン族の住居は移動式のテントを大型したようなものだったのに、今では立派な木製の長屋に変化していた。これなら雷雨や突風の日でも安心して過ごすことができるだろう。


 そして畑。

 ジーン族は農耕をほとんどやったことがないはずなのに、畑では若々しい芽が顔を出していた。

 世界樹の加護があるから、ここでの農作を心配する必要はないだろう。


 井戸は居住地区だけで4つも準備されていて、滑車部分は当然のように新品、鉄製。

 “ 神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”に井戸が掘られている現実は何度目にしても信じ切ることはできない。


 そして、里を取り囲む土塁は見上げるほどに高く、分厚い。元々が“ 神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”の土であることも考慮すれば、最上級の攻撃魔法にすら耐えきってみせるだろう。


 ヒングルド王国で考えれば王直属の魔導師団を投入してやっと一カ所崩せるかどうかといったところ。


 しかもそのあとに残るのは魔力切れを起こした魔術師というお荷物であり、人馬族の突撃を受ければ全滅必至。普通の理性を持っていれば攻め込もうとはしないだろう。


 しかも土塁の前にはドラゴンが水浴びできるほどに広い水堀。正直言って過剰防御だろう。


(今代の魔王は一瞬でこの土塁と水堀を作ったのだという。まったく、どんな魔術を使えばそんなことができるのだろうね? 魔術師としては悪い夢だと信じたいよ)


 目が覚めないものかと頭を振ったカインは、ふと、ゲニの足元に目が行った。


「ずいぶん変わった靴を履いているね?」


「あぁ、これですか? ラーク殿が我らのために手ずから試作してくれましてな。今は実験段階ですが、中々いい。ぜひ量産をお願いしたいと考えているものです」


「…………」


 魔王が人馬族の靴を作るという状況に理解が追いつかないカインだった。しかも自作? どういう流れを経ればそうなるのだろう?


 と、ゲニの元に若い人馬が駆け寄ってきた。『族長、時間です』という物言いからして何か用事があるのだろう。


「申し訳ないカイン様、自分の案内はここまでで――」


「あぁ、わかった。こっちは適当に時間を潰すから気にしないでくれ」


「感謝いたします」


 深く頭を下げてからゲニは若い人馬と一緒に少し大きめの建物に入っていった。


「……うん?」


 なにやらジーン族の里が妙に騒がしくなってきた。老いも若いも、同じ方向に向けて移動を開始している。


 ジーン族が目指す先には、里を取り囲むものとはまた別の土塁がそそり立っている。


「あれは……確か魔王の居館だったかな?」


 導かれるようにカインとレニも人馬族の流れに乗り、魔王の居館前を目指した。





 最終的に、居館の水堀前にはほとんどのジーン族が集まったようだった。


 男も女も。老いも若いも。その顔に浮かぶのは歓喜の想いだ。皆が笑顔で“魔王”の登場を心待ちにしていた。


 集まったジーン族の前にそそり立つ土塁。その上には一つの人影がある。カインにとっては見慣れた腐れ縁。ジーン族にとっては信仰の対象である氷竜姫だ。


 氷竜姫とは本来誰かに従うような存在ではなく、気に入らなければ国にも神にもケンカを売ってしまう荒神だ。伊達に“国滅龍”という二つ名を得ているわけではない。


 そんな彼女が大人しく儀式の進行役を務めている。ありえない光景にカインは言葉を失い――


(――あれ?)


 頭をかしげるカイン。氷竜姫がこのように儀式進行をしている姿を、どこかで見たことがある気がする。


 あれは、たしか……。


 カインの思考は中断させられた。ジーン族の大歓声が響き渡ったためだ。


 歓喜。

 期待。

 希望。


 漏らさず。例外なく。全員が“魔王”ウラド・ラークに歓声を送っていた。魔王の登場を心待ちにしていた。


 亜人の保護者。

 人類の敵対者。


 彼らは信じているのだ。


 今なお差別を受け続ける亜人を。人馬族を。庇護し、共に歩み、新天地へと導いてくれると。


「…………」


 これからの未来に目を輝かせるジーン族の表情を。

 確かにカインは見たことがあった。


 ここではなく。

 この時代でもなく。

 遙か遠い、遠い、いつの頃かと断言できないほど昔の日に。



 ――大地が揺れたと思った。



 魔王、ウラド・ラークの登場によって。ジーン族の大歓声が地面すら揺らしたのだ。



「……エリザベート様?」


 カインの隣にいたレニが驚愕の声を上げた。“ 神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”に追放されたエリザベート・ディラクベリ公爵令嬢が魔王の側に立っていたためだ。


 その姿は、まるで魔王の“妻”にしか見えなくて……。


 レニの驚きを理解したカインだが、彼女に構っている余裕はなかった。


 ウラド・ラークの宣言を聞いてしまったが故に。




『――ジーン族は我が“家族”である』




 耳が壊れたかと思った。

 それだけの歓喜の声だった。


 その言葉と。

 よく似た約束を。カインはかつて聞いたことがあった。




『――亜人は我が“家族”である』




 その言葉は忘れない。

 決して忘れないと誓った。

 誓った、はずだったのに……。


 長い月日の中で、忘れてしまっていた。

 ……いいや、忘れたかったのかもしれない。

 “彼”の理想が崩され、否定され、忘却の彼方へ葬り去られてしまったことを認めたくなくて。


 あれは、そう。

 とある新王の宣言。

 新たなる国が興されたあの日。あの場所で。


 “彼”は、確かに誓ったのだ。


 あの日と同じように。

 氷竜姫が聖なる酒を注ぎ、契約の仲介者となった。


 あの日と同じように。

 人馬の一族が永遠の忠誠を誓った。


 すでにあのときの“彼”は寿命を迎えてしまったけれど。


 すでにあのときの人馬族は血を絶やしてしまったけれど。


 それでも。


 それでも、“彼”の興した国は残っている。


 もはや原形など留めていないが。

 もはや理想を捨ててしまった抜け殻にすぎないが。


 それでも。

 “彼”が興した国は、――ヒングルド王国は、確かにまだ存在している。


 亜人差別の筆頭として。

 最も亜人奴隷が多い国として……。


 ……はたして。


 そんな国に価値はあるのだろうか?

 あんなヒングルド王国は存在していていいのだろうか?


 亜人を否定し。建国の理念を忘れ去り。ついには人と神との橋渡しである神子・エリザベートすら追放してしまった、あんな国が。



 …………。



 ……カインは、決めた。


 魔王に会わなければならないと。


 勇者として、ではなく。

 かつての理想を知る者として。


 ……もしも。

 もしも今代の魔王がかつての理想を継ぐにふさわしい存在だったなら。



 そのときは、古き理想の残骸など打ち壊さなければならないだろう。




次回、26日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! リュアさんのノリは相変わらずですね、そういうメイドさんが中々好きですw ラークさん、そろそろ諦めて女の子で在る事を受け入れよw 常人以上の勇者が常識人…
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