10.とある人馬の受難。(ニィル視点)
10.とある人馬の受難。(ニィル視点)
スレイお姉様、事件です。
なんとラーク様を背中に乗せてしまったのです!
そう! ご存じのように人馬族が背中に乗せるのは主か伴侶と認めた者だけ! ……いえ正式な契約はまだですがラーク様はジーン族の主ですし、そもそもあのときは緊急事態でしたし、ラーク様から乗ってきたので深く考える必要はないと思います。
でもでも! そういう問題じゃないんですよ! これは! そう! 乙女心の大問題! 『緊急事態だからしょうがないよねー』と簡単には割り切れないのです!
ハジメテの時はもっと素敵でキラメキでロマンチックな場面を妄想していたのに! 具体的に言えば新緑映える湖畔でキャッキャ☆ウフフという感じで!
……いえ、不愉快だったわけじゃありませんよ?
むしろ凄かったと言いますか……。
馬腹を締め付けてきたラーク様の足の力強さ、そして、腹を蹴ったあの迷いなさが今でも残っています。
見た目は完全に美少女で、性格も穏やかで優しいのに、馬を操るときはあんなにも乱暴になるかと思うと、こう、なんと言うんですかね? 普段との隔たりに『キュン』ときたっていうか……。
「――なるほど、ギャップ萌えってヤツだね」
いつの間にやら。
私の背後に訳知り顔の創造神・ユルがいました。不本意ながら友人になってしまった女の子です。
「不本意ながらって酷くない!?」
いやまったくその通り。我ながら創造神様に対して無礼すぎる発言だと思いますが、まぁ、今さらユルに媚びへつらうのは無理な話なので仕方ありません。
「仕方なくないと思うな! 敬意を払うのに遅すぎるということはないよ! さぁカモン! 私を創造神らしくチヤホヤするのだ!」
だが断る。
「断られた……創造神なのに……偉いのに……」
地位を笠に着て敬意を得ようとするなんて小者のやることですね。
「ぐっは! K.P.(心・ポイント)に重大ダメージ! うぅ、なんでだよぉ、楽くんはジーン族からあんなに尊敬されているのにぃ……」
そりゃあジーン族に安住の地を与えてくださり、家や当面の食料も無償で提供してくれ、本来なら命を落としていた仲間を救った上、偉ぶることもなく接してくださり、しかも税率も1割でいいと言ってくださっているんですよ? 尊敬しない人はちょっと頭のネジが10本20本と吹き飛んでいると思います。
「うわぁ、改めて聞くとなんだその聖人。さすが私の(・)楽くんだ」
なにやらとんでもない発言がありましたが、私は何も聞いていません。氷竜姫様と創造神が男(?)をかけて争うとか冗談でも笑えませんもの。
「おっと勘違いしないでもらえるかな? 私は、そう! おねーさんとして楽くんを見守っているだけなんだからね! それこそ前世の頃から! ゆりかごから墓場まで! ……ま、まぁ! 楽くんがどうしてもというのならそういう関係になるのもウェルカムだけど!」
……前世からのストーカー?
「ぐはっ!」
あと、ツンデレキャラはエリザ様だけで十分です。
「ごふっ!」
キャラ被りしたまま生き残れるほどラーク様の周りは甘くないですよ?
「がはぁあぁあああ!」
なにやら吹っ飛ぶ創造神(笑)だった。すごいですねK.P.(心・ポイント)へのダメージ。
吹っ飛んだユルは力尽きたように地面に手を突いていた。
「うぅ、恋をしたニィルをからかいに来ただけなのに、どうして心にダメージを負っているんだろう?」
からかいに来たとか、単に天罰が当たっただけでは?
「私は天罰を与える側ですー。そして言質を取った! 『恋をした』という部分は否定しないんだね!?」
いやユルへのツッコミが忙しくて忘れただけですし。そもそも喋ってはいないのですから言質も何もないのでは?
「ぐぬぬ、ちょこざいな! そんな態度だと楽くんに対する恋愛アドバイスしてあげないんだからね!」
ユルからの、アドバイス……?
…………。
うん、正直、役に立つ未来が見えません。
「ひどくない!?」
じゃあ、試しに一つアドバイスしてみてください。
「え? いきなり言われても困る」
ダメだこの神さま役立たずだ。
「ぬぅ! そこまで言うのなら目にもの見せてやろうじゃないか! 喰らえ! 神からの祝福!」
ぱぁああ、と。私の頭上から光が降り注ぎました。
「説明しよう! 今ニィルに与えた祝福は媚薬効果! 自分がいいなぁと思っている男性をメロメロにしてしまうの――だっ!?」
ゲンコツ落としました。創造神の頭に。それはもう痛そうに悶絶するユル。人馬族は背が高いのでゲンコツの威力も高いのです。
「か、神様への反逆だ!?」
「うっさいですよエロ神。むしろ淫魔」
「淫魔!?」
「淫魔でしょう、なんで恋愛のアドバイスから媚薬効果になるんですか?」
「? 一番確実な方法じゃない?」
真顔で首をかしげられました。この創造神、手遅れだ。
さっさとこの祝福という名の呪いを解いてください。と、要求しようとしたらユルは『きゅぴーん!』とばかりに振り返りました。
「危機察知! さらばだニィル君また会おう!」
まるでウル○ラマンのようなポーズを取りながらユルは空へと飛び上がり、そのまま消えてしまいました。
……うん? ウルトラ○ン?
脳裏に浮かんだ謎の単語。どこで聞いたのだったかなぁと私が記憶の糸をたぐっていると、尋常ではない殺気を感じ取りました。
「――悪い子はいねぇがぁ!」
地面から『にゅっ』と生えてきたのはリュア様。なにやら最近喋れるようになったみたいです。そんな彼女を追いかけるようにラーク様とエリザ様がこちらに向かってきます。
「……うん?」
私の前に立ったラーク様はじっと私を見つめてきました。じーっと。不自然なほどに。
あ、やば。今の私は祝福という名の呪いをかけられているのでした。このままではラーク様が『メロメロ』になってしまいます?
……いえ、私が恋をしているかどうかは黙秘しますけど。成り行きとはいえラーク様みたいな人がメロメロになるならそれはそれで――
「――てい」
すぱぁん、と。ラーク様は私の妄想を断ち切るように刀を振るいました。ガラスが割れたような音が辺りに響き渡ります。
ラーク様が『あ、やべ』的な顔をしました。
「……すまん。なんか嫌な“もの”が纏わり付いてたから思わず斬っちまった。もしかして何か大切な術式だったりしたか?」
斬っちまったって、あれ、一応は創造神の祝福ですよ? 何で斬れるんですかね――いや、ラーク様に今さら常識を語ってもしょうがないですか。
というか、問答無用で斬られるような“もの”だったんですね、ユルの祝福って。やはり彼女は悪魔とか淫魔の類いじゃないでしょうか?
「え~っと、お気になさらず。呪いみたいなものでしたので」
「呪いって、穏やかじゃねぇなぁ。俺に何かできるものか? なんだったらそっち系に詳しそうなエリザかリュア辺りに……」
「あぁ、いえ、大丈夫です。ラーク様が切ってくださいましたので。……ところで、ラーク様たちはなぜこちらへ?」
「ん? あぁ、一度はぶん殴りたいヤツの気配がしたんでな」
なにやら、穏やかで優しいラーク様らしからぬ発言があったような?
「……えっと、それはもしや、創造神ですか?」
「お? その口ぶりだと知っているのか?」
「えぇ、はい。さっきまでアホなことを口走っていたのですが、『危機察知!』とか叫びながら空に消えていきました」
「ちっ、逃げられたか」
わぁお、ラーク様が舌打ちしましたよ。あのラーク様が。一体何をしたんですかユル。いくら頭がユルいからといってやっていいことと悪いことがあるでしょうに。
私が苦笑いしているとリュア様の目が光った、ような気がします。
「ラーク。ニィルが気になっているみたいだから話してあげたらどうかな? キミと創造神との因縁をね」
「ん? あぁ、俺は別に構わんが、そんな面白い話でもないぞ?」
ラーク様が私に視線で『どうする? 聞きたいか?』と問いかけてきたので、私は迷いなく頷きました。ユルが何をやらかしたのか友人として知っておくべきでしょうし、それに――ラーク様のことをもっと知りたかったですから。
「ラブ臭がする」
リュア様がそんなことをつぶやいていましたが、何のことか分かりませんでした。私は純真無垢な人馬ちゃんなので。
そうして。
ラーク様はユルとの因縁を話してくださいました。
まぁ、実際は因縁なんていう大層なものではなく、ただ単にユルがやらかして、ラーク様が巻き込まれただけの話なんですけど。
とりあえず、今度会ったらお説教するべきでしょうか?
私が悩んでいると空の上からなにやら声が振ってきました。
「――楽くんが転生話をしてくれるだなんて、これは間違いなく好感度『愛』以上! さすが我が友、この短期間でもう楽くんを落とすだなんて!」
訂正。
頭の中ピンク色な創造神にはもう一度ゲンコツを落としましょう。
私は蒼く澄み渡る空を見上げながら固く決心するのでした。
裏設定。
ニィルには前世の記憶があります(無自覚)
なのでニィル視点ですと『ストーカー』とか『ツンデレ』とかの横文字も飛び出してきます。
他の人は(リュアみたいな例外を除いて)基本的にカタカナ語を使っていません。
すみません、申告とかあるのでしばらく更新乱れます。
次回、2月1日更新予定です。




