7.竜の鱗
7.竜の鱗。
「ではリピートアフターミー。本日は晴天なり」
「り、りぴーと……? ほ、本日は、晴天、なり」
とある日。
暇をもてあました俺が居館から出ると、庭先でリュアとタロンが発声練習(?)をしていた。同じ人型変身系として仲良くなったのかもしれない。
それはいいが、リュア。異世界の言語を使ってやるな。タロンが混乱しているじゃないか。
「東京特許きょきゃきょく(cv.水○奈々)」
「とうきょう?」
言えてないし。無駄に声優が豪華だし。タロンに分かる言葉を使ってやれ。
「バスガスバスバツ(cv.豊○めぐみ)」
なぜその滑舌で早口言葉にチャレンジする?
「生麦なまもめなまたまご!(cv.茅原○里)」
そろそろ声の真似元の声優に土下座してこい。
「隣の柿はよく客食う柿だ(cv.林原○ぐみ)」
この世界にならいそうだな、人食い柿。
というか魔物の体液吸ってるから、リュア自体が人食い植物みたいなものか。
「――人食い植物とは失礼だね」
リュアがぐるりと首を回してこちらを見た。心の声にツッコミをするのはビックリするから止めてほしい。
声をかけられたのに立ち去るのも不自然なので俺はリュアとタロンに近づいた。
「よぉ、頑張っているみたいだな」
「ふふん、この美声でラークをメロメロにしなきゃいけないからね!」
魔法少女なフェ○トちゃんの声でそんなことをほざくリュアだった。正直、声はなくても(メロメロかはともかく)デレてはいると思うんだがなぁ。
「ラークのデレは分かりにくい」
「ワガママだなぁおい」
「もっとこう! 『リュアお姉ちゃん大好き!』と上目遣いで――」
「――リュアお姉ちゃん、大好き!」
上目遣いで可愛らしくしてやった俺である。
「……ぐはっ」
吐血しつつ地面に倒れたリュアである。植物なのに赤い血なんだなぁと妙に感心する俺。
「うぅ、なぜ私は魔導具を作れないのだろう。なぜ映像記憶の魔導具を持っていないのだろう?」
地面をごろごろ転がるリュアだった。メイド服が汚れる……まぁこいつなら不思議な力で綺麗にしそうだな。
リュアの痴態から視線を外し、なにやら期待を込めた目で俺を見てくるタロンと向かい合う。
「あ~、なんだ? タロンも『お姉ちゃん♪』と呼んで欲しいのか?」
「……いえ、むしろお姉ちゃんと呼びたいと言いますか」
「……俺を?」
「はい」
「お姉ちゃんと?」
「はい」
「……俺、一応は男なんだが?」
「大丈夫です。私は気にしません」
「あ、さいですか……」
まぁタロンは見た目十代前半の美少女だからな。身長も今の俺 (つまりはエリザ)の肩くらいしかないし、お姉ちゃんと呼んできても不自然じゃないだろう。
と、俺は軽く考えて許可を出してしまい。
「……ラークお姉ちゃん♪」
「――ぐはっ」
予想外の破壊力に膝を突いてしまったのだった。なにこれ尊い。
◇
リュアたちはまだ発声練習をするそうなので、俺は二人とは別の方向をぶらぶらすることにした。
居館の周りにはスキル現地築城で製作した水堀がある。のだが、姫が水浴びをしたせいで中の水が“聖水”となってしまった。
しかもスキルの影響でどんなに使っても減らないというおまけ付き。
エリザの話によると、この水堀をめぐって戦争になってもおかしくはない代物らしい。まぁ聖水って傷口に塗ると即座に回復するし、コップ一杯分飲むだけでほとんどの病気が完治するらしいからな。
ゲームで言えばポーションか。しかも中級とか上級クラス。世界樹の葉っぱと一緒に使うと死者蘇生までできるし、そんなものが無限に貯まっている水堀となれば、なるほど戦争が起こっても不思議ではない。
面倒なことに巻き込まれるのはゴメンなので、この水堀に関してはジーン族にも黙っている。知っているのは俺と、俺の嫁たちだけだ。あ、あとドワンとエイルか。
で、そんな貴重で面倒くさい水堀なのだが。今日もまた姫が水浴びに使っていた。ドラゴンの姿で。
警備のために巡回している人馬族の二人組――そのうちの一人はスレイの妹・ニィルだな。ニィルたちも姫を見て『気持ちよさそうですねー』、『私たちも見回り終わったらひとっ風呂浴びますかー』とかのんきに会話している。
この世界には魔法があるから風呂のお湯も比較的簡単に沸かせるのだ。水は水堀から好きなだけ持ってこられるしな。
しかし、姫って人馬族にとっての神様じゃなかったっけ? ニィルたち、なんだか隣の家のペットを見ているような感じがするのは気のせいだろうか?
……蕩けた顔をして首を投げ出している姫に敬意を持てという方が無理な話か。
まぁ、信仰心は下がっていそうだが、親しみやすさは上がっているのでいいのだろう、たぶん。
それはともかくとして。(蕩けた表情さえ無視すれば)全長100メートルを超えそうなドラゴンが水浴びをしている姿は中々に迫力がある。
異世界だから姫の他にも100メートル越えの生物もそれなりにいるのだろう。
うん、今度ドラゴン形態の姫と手合わせを――っと、こんなことを考えていたらまたタロンに血の気が多いと言われてしまうな。
俺が後頭部を掻いていると、蕩けた顔をしていた姫が急に『カッ』と目を見開いた。
「きた!」
なにが?
姫は慌てた様子で水堀から飛び出て――近くにいた俺と、見回りのニィルたちに『ばっしゃーん』と水をぶちまけやがった。またかこのやろう。
姫は盛大に身体をふるって水を飛ばした(そしてまた俺たちに水が降りかかった)あと、長い尻尾を使って身体を掻き始めた。そこまではまぁ普段通りなのだが――今日は掻いたところから鱗が飛んでいた。
大きさは1m~2mってところか。見た目よりは軽そうだが、さすがにあの大きさのものが直撃したら死ぬだろう。
で、だ。
そんな鱗が俺とニィルたちの頭上に降り注いできた。数えるのも嫌になるほど大量に。
「た、退避!」
俺はニィルたちに向けて叫んだが、鱗による空襲は想定外なのかニィルたちはその場で慌てふためくだけ。
「――あぁもう!」
俺はニィルたちに向けて駆けだした。ニィルたちは日頃の訓練の成果か飛来する鱗を避け続けているが、だんだんと落下した鱗によって足場が埋まっていく現状、この場に留まっていてはいずれ直撃するだろう。
幸いにして間に合った俺はニィルの背中に飛び乗った。同時、もう一人の人馬族の手を握る。
「逃げるぞ!」
叫んだ俺はニィルの馬としての腹を蹴った。
「ひひぃん!?」
馬としての本能か、ニィルは全力で走り始める。俺に手を握られたもう一人の人馬も釣られるように走り出し――なんとか、鱗の空襲地点から逃れることができた。
ま、空いた左手で刀を振るい、5枚ほど鱗を叩き落としたんだけどな。あれが当たっていたらと思うとゾッとする。
あとで姫には本気の説教をしなきゃいけないだろう。場合によっては俺のゲンコツが火を噴くかもしれない。
……あと、普通に転移魔法を使ってニィルたちを逃がしてやれば良かったんじゃないかと気づいたのは、安全地点まで逃れてニィルの背中から降りたあとのことだった。
言い訳させてもらうなら魔法を使えるようになったのはごくごく最近のことだからな。とっさの判断の中に『魔法を使う』という選択肢は存在しないのだ。
う~む、せっかく魔法が使えるようになったのだし、武技だけではなく魔法の鍛錬もした方がいいのかもしれないな。
次回、19日更新予定です。




