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TS魔王の『モン娘』ハーレム綺譚  作者: 九條葉月
第二章

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5.神殿建設と、ゴーレム

 5.神殿建設と、ゴーレム



 “ 神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”には淀んだ気が吹き出している穴が何カ所もあり、そこから魔物が生まれ出るらしい。


 つまり、その穴の付近に神殿を建てて、淀んだ気を浄化するようにできれば魔物も(その場所からは)発生しなくなるらしい。


 穴の一つはジーン族の新しい“村”から比較的近いところにあるので、まずはそこに神殿を建設した方がいいというのが姫の話だ。


「魔物がいなくなると食糧確保が難しくならないか?」


「他の穴を残しておけば大丈夫じゃろう。それに、近くに穴があると昼夜を問わずに魔物が寄ってくるからな。近くの穴をふさぎ、狩りの時は少し遠出する方がいいと思うがのぉ。人馬族ならば足も速いし。鍛錬代わりに喜んで走ると思うぞ?」


 魔物は“穴”から発生するので、その穴付近に行けば魔物に出会えるらしい。


 狩りの時にそういうポイントがあるなら楽でいいな。それに、最近はジーン族の皆が持ち回りで夜の警戒をしているし、彼らの負担が減るのもありがたい。


 試しに一つ作ってみるか?


 もしも不便だったら壊せばいいんだしな。


「神殿を壊すとは、なんとも罰当たりなことを考えるのぉ。ま、わらわの嫁殿に罰を当てるような命知らずはおらんじゃろうが」


 なぜか胸を張る姫だった。





 とりあえず穴のあるという場所に移動。


 穴の場所は、ジーン族の村から馬で30分ほどだろうか? もちろん“馬”とは人馬族のことで、当然のごとくケウとスレイが俺の乗馬権(?)をめぐってちょっとした争いになっていた。


 結果、行きはスレイ、帰りはケウということに。

 俺が乗っていない方は馬車を引き、他のみんなを乗せている。


 ……正直、エリザは幽霊だから(?)ものすごい速度で飛べるし、リュアは地面であれば好きなところから『にゅっ』と生えることができるらしい。姫もドラゴン形態になればすぐに移動できるのだから、わざわざ馬車に乗る必要はないと思う。


 しかし、女性複数がわいわいがやがやとピクニック気分を醸し出しているところにそんな正論を叩きつけるほど俺は愚か者にはなれなかった。

 団結した女性は強い。これが今世の経験だ。


 そんなこんなで30分ほどの小旅行。姫の説明してくれた“穴”の近くに到着した。


「ふ~ん」


 穴と言うからには地面に巨大な縦穴が空いていると思ったのだが、姫に指し示された場所は何の変哲もない荒野だった。


 いや、なにやらモヤモヤと湯気のようなものが地面から湧き出ている、気がする。俺の肩に乗っているゴーレムも威嚇するように腕をブンブン振っているし。


「ふむ、“瘴気”じゃな。普通は見えんのだが、やはり我が妻はいい目を持っておる」


 いい目ねぇ?

 他の人に確認してみるとエリザは見えず、リュアとケウ、スレイは見えるらしい。あとたぶんゴーレムも見えている。


 スレイは両目に眼帯をしているが、 死神の瞳(バロール)の副産物的な力で視界は確保できているとか。


「で、ここに神殿を建てるんだな?」


「うむ。そうすれば淀んだ気も自動でD.P.に変換されるじゃろう」


「……そもそもD.P.って何なんだ?」


「おぬしの現地築城(アルヒテクトゥーア)とは、元々ダンジョン作成というスキルが変貌したものなのじゃろう? ならばダンジョン・ポイントのことだろうよ」


「なんで神殿で淀んだ気とやらを変換するとD.P.になるんだ?」


「そこはほれ、わらわが『ちょちょいのちょい』と世界の法則を書き換えてな。ここは我が嫁殿の土地なのじゃから、嫁殿のために使ってもよかろうよ」


「……よかろう、なのか? いいのかそれで? 世界の法則ってそう簡単に書き換えていいものなのか?」


「わらわも一応は神。世界に対する管理権限くらい持っておる。さすがにユルと比べるとささやかなものじゃがな」


 そう聞くと創造神ユルが凄い存在に思えて――こないな。普段の言動がアレすぎる。


 ま、そういう魔術的なあれこれは俺が口を出すべきものじゃないだろう。正直よく分からないし。

 俺にできることがあるとすれば――


「神殿か」


 一応智慧の一端(ソピア)を起動し、現地築城(アルヒテクトゥーア)で作成できるか確認してみる。……うん、城内神社なら作れるが、それは『神殿』じゃないしなぁ。


「作るのは神社じゃ駄目か?」


「ふむ? 察するにおぬしの世界の神殿か? こちらの仕組みとは違うじゃろうから、それなら一から神殿を建てた方がいいじゃろうな」


 姫が紙と筆記用具を要求してきたので、D.P.で少し大きめの紙と筆を交換して渡す。


 地面に置いた紙の上に、姫が神殿の設計図らしきものを描いていく。


 前世的に言えば古代ギリシャっぽい神殿だな。石造りで、それなりの高さも必要そうだ。


 なんだか予想していたより大がかりなものになりそうだな。


「こんなデカい神殿が必要なのか?」


「この穴だけを浄化するなら、もう少し小さくてもよかろう。じゃが、後々のことを考えれば、中心となる神殿は大きい方が何かと楽じゃ」


 姫が言うのだから、そういうものなのだろう。門外漢が口を出すべきではないか。


 しかし、どうしたものかな? 智慧の一端(ソピア)を確認してみたところ、少々高価だがD.P.で石材を交換することもできるらしい。あとで浄化した気がD.P.へと変換されるのなら、多少の出費には目をつぶるべきだろう。


 問題は、交換した石材をどうやって組み上げるかだ。


 一応エリザたちに確認したが、誰も作れそうになかった。


 エリザの母国は石造りの家が基本らしいが、貴族令嬢であるエリザが建築方法を知っているはずも無し。


 リュアは『世界樹の智慧』で知識は持っているが、実践するとなると話は別。

 建築時に指示するという手もあるが、声が出せないリュアだと指示方法が黒板になってしまうからな。少し無理があるだろう。


 ケウとスレイ――人馬族の住居は骨組みと覆いだけの折りたたみ式だから石組みの技術はないらしい。


 姫? 石材くらい楽に持ち上げられるだろうが、この不器用娘が建築なんてできるはずがない。途中で絶対に崩す。決まっている。


「……否定できないところが辛いところじゃの」


 姫も苦々しげに肯定したので無理と。あと作れそうなのは……ドワーフのドワンに相談してみるか? それで無理なら近くの国にいる大工に相談しなきゃいけないが、この世界の大工事情ってどうなっているんだろうな? 大規模な神殿建設となると経験者も限られるだろうし……。


 と、俺の頬が優しく突かれた。肩に乗っていたゴーレムだ。


 ゴーレムは言葉を喋れないが、不思議と何を言っているのか分かる。ような気がする。


「え? お前が建てるのか?」


 俺が確認するとゴーレムは『まかせて!』とばかりに両手を振り上げた。軽やかに俺の肩から飛び降り、音もなく着地。そのまま地面に手を突いて――なにやら閃光のようなものが走った。


 地面が揺れる。

 波打ち、揺らめき、立ち上がった。


「……ここは“ 神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”。地面は鉄より固いはずなんじゃがの」


 そんな呟きをしたのは姫。珍しく声が震えている気がする。

 あぁ、このゴーレムは神殺しの逸話持ちなんだっけ? 一応は神様である姫とは相性が悪いのか。


 そんなことを考えている間に、立ち上がった地面は一つの形となった。その姿は――


「――ゴーレム?」


 高さは10メートルほどか。いかにもゲームに出てきそうなゴーレムだ。


「このゴーレムで神殿を建ててくれるのか?」


 肯定するかのように両腕を振り上げるゴーレム――“人造物の支配者(エンペラー・ゴーレム)”。やる気満々なのだから任せてみるか。ゴーレムなのだから石材の取り扱いも詳しいだろう。


 “人造物の支配者(エンペラー・ゴーレム)”の指示に従って様々な大きさの石材をD.P.で交換していく。


 このまま“人造物の支配者(エンペラー・ゴーレム)”に任せてもいいのだが、タダで仕事をさせるというのも気が引ける。


「そうだなぁ、何か欲しいものはあるか? 俺に用意できるものなら報酬として渡せるが」


 D.P.交換があるからな。大抵のものは手に入ると思う。たとえば新しい家とか、樽酒とか、お城とか……。


 様々な候補がある中で、“人造物の支配者(エンペラー・ゴーレム)”が要求したのは“名前”だった。


「名前でいいのか?」


 “人造物の支配者(エンペラー・ゴーレム)”が頷いたので、いいのだろう。こちらとしても『ゴーレム』とか『人造物の支配者(エンペラー・ゴーレム)』と呼ぶのはアレなので否やはない。


 ふむ、普通に考えればゴーレムのレムとかか? いやしかし、ネーミングセンスがないと実感させられたばかりなのでもう少し考えるか。


 う~む。


 う~む……。


 う~む…………。


「――タロン?」


 昔、ゴーレム関連でそんな感じの名前を見た覚えがある。俺の師匠はいわゆる中二病だったからな、影響を受けて妙な知識が豊富になってしまった。


 俺の呟きを受けて、ゴーレムは嬉しそうに腕を上げ、その場でジャンプしはじめた。なんだかオモチャをプレゼントしてもらった子供のような反応。どうやらお気に召したらしい。


 と、いうわけで。


 このゴーレムの名前はタロンになった。


「……易々と名付けたものじゃなぁ」


『ほんとにね。私の件からして、この世界で『名前を付ける』ということの意味を少しは察していいものなのに』


 呆れたような声を上げた姫と、諦めたように天を仰ぐリュア。ははは、おいおい、『リュア(私)の件からして』って、それじゃまるで、ゴーレムが人型になるみたいじゃないか。


 俺がゴーレム――タロンから目を離して姫とリュアに苦笑いしてみせると、二人は諦めろとばかりに首を横に振った。


 ええっと、たしかリュアのときは名前を付けて、そのあと御神酒を与え続けていたら人型になったんだっけ?


 ゴーレム――タロンの場合は先ほど名付けて、御神酒は……うん、一番最初に与えているな。しかもそのあとは食事代わりにあげているし。


 と、なると?


 ぺっかー、っと。俺の背後から光が発せられた。もちろんというか何というか、タロンがいた場所からの発光。


 この後の展開が読める。超読める。

 しかし無視するわけにもいかない。


 俺が恐る恐る振り向くと――



 ――美少女がいた。



 黒曜石のような黒色の髪に、マグマのように光り輝くオレンジ色の瞳。その瞳は長く伸ばされた前髪によって隠れがちだが、動くたびに垣間見える相貌は息を飲むような美しさだ。


 いや、美しいよりは可愛らしいという表現の方が正しいか?


 なんというか、妹系? 身長は低めで、10代前半くらいに思える。

 まぁゴーレムに人間としての外見年齢を当てはめても意味はないだろうが。


 外見で目を引くのは地面にまで伸びた黒髪と、これまた地面につくほどに長い上着の袖。

 その袖口から見えるのは人間の指――ではなく、もっとゴツい、どちらかというとゴーレムぽい指だった。


 まぁ、ここには手先がドラゴンに変身する姫や、下半身が馬であるケウやスレイ、そして服の隙間から蔦ぽいものが生えているリュアや足先が透けているエリザがいるので真新しさはないが。


 というか、俺の周りにいる女性が個性的すぎるだけだな、うん。


 さて、問題は俺の周りの個性的な面々ではなく、目の前に現れた少女(?)だ。


 分かってる。

 分かってはいるが、それでも俺は確認しなきゃいけなかった。


「えっと……タロンか?」


 俺の疑問への答えとばかりに(とても巨大な)両手を挙げるタロン。うん、見慣れた動作。間違いなさそうだ。



「どうしてこうなった……」



 頭を抱えながらそんな呟きをした俺だった。




次回、10日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妹系メカクレゴーレム娘やったー!! 夜がますます捗るぞー!
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