閑話 勇者カインの決意
閑話 勇者カインの決意。
辺境伯の屋敷を辞した“勇者”カインは、ジーン族の里に移動した。正確にはかつてジーン族の里があった場所、となるのだが。
このわずか数時間前、ラークの魔法によって最後の移住者らが転移した事実をカインは知る由もない。
だが、ジーン族がどこかに移住したことは察することができた。
元々ジーン族をはじめとした人馬族は狩猟民族。獲物が少なくなれば迷うことなく居住地を捨てるし、人間たちとの闘争が激しくなったのであれば同様だろう。
「さて、どうしたものかな?」
カインがここに来た理由は二つ。
一つは昔世話になったジーン族の安否確認。
そしてもう一つは、“魔王”のことが気になったから。
魔王だからといって人類に仇なす存在だとは限らない。言い伝えによれば確かに人類の天敵だが、時々は本来の使命『亜人の保護』を重視する魔王も生まれてくるものであるし。魔王即討伐というのは危険すぎる思想だ。
ただし、魔王がエリザベートの肉体を使っているなら話は別。
カインは空想主義者ではない。身一つで“ 神に見放された土地”に放り出された少女が今もなお生きているなどと信じてはいない。
十中八九エリザベートは死亡し、その恨みでもって“魔王”を亡骸に降ろしたのだろう。
「…………」
カインはエリザベートとのわずかな交流を思い出していた。未来の王妃としての確かな素質を有しつつ、それでも笑顔を忘れなかった彼女のことを。
厳しい王妃教育に何度も根を上げそうになりながらも、それでも国のため、民のために自らを鍛え続けた彼女のことを。
彼女であればこの国を変えてくれると信じた。今の国王と共に、亜人に対する差別と戦ってくれるだろうと希望を抱いた。
そんな彼女を追放して死に追いやった王太子とその取り巻き連中は、カインの『復讐対象』である。
だが、連中を殺すより前に、やるべきことがある。
エリザベートの恨みが魔王を生み出したのなら。
あの笑顔が遙か遠いものになってしまったというのなら。
――もう、終わりにしてやるのがせめてもの情けだろう。
復讐はカイン自身の手で必ず成し遂げる。
だから、エリザベートの魂は清らかなまま。誰も呪い殺すことなく次の人生(転生)に送り出してやるべきだ。
「……とりあえず、“魔王”はジーン族と一緒に移動したと考えるのが自然かな?」
まだそれほど遠くへは移動していないはず。カインは探知魔法でジーン族の位置を探り――常識では考えられないほどの遠隔地にいることを読み取った。
その場所は、“ 神に見放された土地”のど真ん中。かつて世界樹であったとされる巨岩があるところ。魔物が跋扈する土地柄、人馬族でさえ徒歩で移動すればどれだけかかるか見当も付かない。
そんな場所に、ジーン族は間違いなくいる。
(まさか、転移魔法?)
ジーン族は確か500人ほど。そんな大人数を移動できる魔術師などいるはずもない。
だが、人馬族の足ですら移動できないはずの場所に、確かにジーン族の反応がある。
「…………」
カインほどの魔法の使い手であればジーン族のいる場所に転移することなど容易だ。が、そこはおそらく“魔王”の拠点。そんな場所に何の調査もなく転移するような存在であれば、ここまで長生きはできなかっただろう。
カインはジーン族のいる場所に対する探知魔法の精度を上げて――驚きで目を見開いた。
「弾かれた?」
探知魔法の精度を上げた途端、そこにあったはずのジーン族の反応まで消えてしまった。“誰か”が邪魔をしたのだろう。
勇者であるカインの魔法に介入できるほどの存在が、魔王の“拠点”にはいるのかもしれない。
「……とりあえず、眷属を使ってしばらく調査してみるかな」
長期戦を覚悟したカインはアイテムボックスからテントを取り出して、組み立てはじめた。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
次回、7日更新予定です




