3.今さらながら、この世界について。その2
3.今さらながら、この世界について。その2
朝の訓練も終わり、朝食も食べ終えたあと。
俺とリュア、エリザは居館の庭に置いてあるテーブルセットに集まって話の続きをすることにした。
話の脱線やら中断やらがあったが、星座というか星の配置は地球と一緒らしい。
リュアによると元々同じ世界というか、平行世界というか、同軸上の世界というか、まぁとにかくそんな関係らしい。
俺は理系じゃないので半分も理解できなかったがな。
エリザはうんうんと頷いているので理解しているのだろう。いや、『強がり悪役令嬢』なので分かっているだけの可能性もなきにしもあらずだが。
「またひじょーに不名誉なあだ名を付けられた気がいたしますわ」
「気のせいだ」
ばっさり切って捨てた俺はD.P.で交換した地図を机の上に広げた。この大陸の地図だ。
リュアが蔦を伸ばして地図の中央を叩いた。
『まずはこの大陸の名前だけど、それぞれの国が好き勝手に呼んでいるのが現状だね。もっともポピュラーなのは“大陸”かな?』
なんでもこの世界で一番大きな大陸らしい。形としては楕円に近い。前世のオーストラリア大陸をひっくり返し、もう少し丸くした感じ。
そんな大陸の下半分、を三分割した真ん中くらいにあるのが“ 神に見放された土地”らしい。俺たちが今住んでいる場所だな。思ったより広かった。
鉄より固い地面。雨水を一瞬で吸収する土。そして跋扈する魔物たち……。と、およそ人の住む場所ではないとされる。
畑を作ろうにも地面は耕せず、住もうにも井戸すら掘れない。絶え間ない魔物の襲撃によって正規軍すら進むことは困難。そんな土地であるから誰も領有しようとはしなかったらしい。
『昔は神に祝福されたと称えられたほど豊かな大地だったんだけどね』
懐かしそうにつぶやく――つぶやくように小さな文字を記すリュアだった。
“ 神に見放された土地”の右側に位置するのがヴィートリアン王国。この大陸で一番デカい国で、亜人に対する差別もほとんどないらしい。
逆に、左側に位置するヒングルド王国は亜人差別の筆頭であり、人類至上主義国家だという。
エリザを見ていると亜人差別なんてしなさそうだがな。個人と国家は違うということだろう。
もしもエリザが王女になっていれば――なんて考えても詮無いことか。
『おっと、世界観の説明なら大切なことを伝えないとね』
真面目な顔をするリュアである。
こいつが真面目な顔をするだけで嫌な予感がするのだから、日頃の行いとは大切だな。
『この世界は――重婚O.K.だよ!』
はい嫌な予感的中。世界樹ってのは脳みそピンク色なんじゃないか?
そもそも。
たとえ許可されていようが、いまいが、一度手を出したのだから最後まで責任は取るぞ?
いや、出したんじゃなくて出されたんだけどな。
『やだ、今ラークが超カッコイイこと考えてる……。心が読めないエリザでは分からないかもしれないけどね!』
さらっと読心術できるって自白したよこいつ。
「ず、ズルいですわよ! ラーク! わたくしにも格好いいところを見せてくださいまし!」
そしてエリザ。お前はもう少し元公爵令嬢としての誇りを持った方がいいんじゃないか?
「公爵令嬢のエリザベートは死にましたわ! 文字通り!」
誰がうまいこと言えと。話題が話題だけにツッコミしづらいし。
友人だったという騎士爵・レニが聞いたらたぶん泣くな。色々な意味で。
…………。
……ジーン族の里で出会ったレニ・レイジス騎士爵について話してもいいのだろうか?
エリザの友人らしいが、デリケートな話題だからな。下手に話してエリザを傷つけるわけにはいかないし、そもそも、さほど気になっているわけでも無し。ここは無理に聞く必要も――
『――そういえば、ジーン族の里でレニ・レイジスという人に会ったよ。知り合いかな?』
はい、あの場所に一緒にいたリュアが聞いちゃったよ。さすが世界樹は人の心が分からない。心が読めるのに分からないとは、とんだニブチンである。
『失礼な。ラークの心を察して代わりに聞いてあげたというのに』
リュアの戯れ言はスルーしてエリザの様子をうかがう。
エリザの反応は、意外にも穏やかなものだった。懐かしそうに口元を緩めている。
と、その表情が引き締められた。
「あの子は騎士ですから、命令に従ってジーン族の里に攻め込んだとしても不思議ではないでしょう。彼女の行いに関しましては友人として代わりに謝罪を――」
頭を下げようとしたエリザを右手で制止する。
「代わりに謝るってのは、大人がやるものだ。自分のやったことに責任を持てないガキに代わって、な。エリザはレニの保護者じゃないし、レニもそこまでガキじゃないだろう?」
「……そうですわね」
深く頷いたエリザはレニについて話をしてくれた。
「彼女は元々侯爵令嬢でして。わたくしとも幼い頃から交流がありました。向こうがどう思っているかは分かりませんが、わたくしは友人だと思っています」
力なく笑いながらエリザは言葉を続けた。
「侯爵令嬢なのですから語学や古典といった教養を身につけて、いずれは家のために最も適した男性と結婚しなければなりません。ですが、彼女はそんな“運命”を受け入れず、家出同然で騎士団の門戸を叩いたのです」
蝶よ花よと育てられた貴族令嬢がねぇ。
う~ん、正直、そういう無茶をする人間って大好きだ。そんな経歴があると知っていればもう少し違う対応をしたんだがなぁ。
ま、今度会う機会があったら優しくしてやろう。
「……なにやら浮気の気配がしますわ」
「気が早すぎだろうに」
苦笑する俺だがエリザは疑わしそうな目でじーっと見つめてきたので……俺は全力で誤魔化した。
「あぁ、そうだ。レニもエリザを友人だと思っているとさ」
「ふぇ!? え、あ、そうでしょうそうでしょう! わたくしとあの子の間には身分を越えた友情が存在するのですから!」
なにやら胸を張るエリザだった。
……身内や友人に裏切られたエリザだが、それでもまだ『友人』と呼べる存在がいるのは喜ばしいことなのだろう、たぶん。
ヴィートリアン王国 → リリア・レナード(別作品のヒロインhttps://ncode.syosetu.com/n9174fs/)がいる国。
まぁ、作中時間は10年ほどズレていますけど。
次回、27日更新予定です。




