1.税収
1.税収。
さて。ジーン族を受け入れてしばらく経った。
しばらく、と期間が曖昧なのはここにカレンダーのようなものはなく、わざわざ日付を数えるような真似もしていないためだ。一週間くらいなら覚えていられるが、二週間三週間と経過すると『しばらく』という表現になってしまう。
ジーン族は今まで農耕をほとんどしていなかったようだが、俺の心配をよそにうまいこと農業にも適応していた。
下半身が馬だから人力=馬力なのも大きいのかもしれない。あっという間に畑を耕し終わり、今は軍事訓練に精を出している。世界樹であるリュアのおかげで病害や雑草の心配もないしな。
ジーン族を受け入れてから『領民が増えました』ということで日々入手できるD.P.も増加したし、“人馬族の庇護者”という称号と共に結構な量のD.P.も付与された。
そのD.P.を元手にして、とりあえずジーン族の“村”を取り囲むように水堀と土塀、柵の設置も終わった。魔物は近寄れないし、もしも人間が攻め込んできたとしても何とかなるだろう。
まぁ、いざとなったら姫にドラゴン・ブレスで焼き払ってもらえばいいだけなんだがな。『嫁』からのお願いならあの面倒くさがり屋も聞いてくれるだろう。
……聞いてくれるかな? ちょっと不安。姫ってほんとに自由人というか自由龍だし。
不安になった俺が一応姫に確認してみると、
「あまり焼き払いたくないのぉ。人間って焼くと臭いし」
との回答をいただいた。
いわゆるタンパク質を焼いたニオイというものだろうか? なるほど、確かに俺も好き好んで嗅ぎたくはない。
というか、人間焼いたことがあるのか……。
「あと、わらわは一応神様じゃし。人間を虐殺するのは外聞的に、のぉ?」
「外聞? はははっ、働きもせずに惰眠をむさぼっている駄トカゲが外聞とか、超笑える」
俺の真っ当すぎるツッコミを受けて姫の笑顔が固まった。
「……ふむ、そろそろ嫁殿にわらわの偉大さを教育せねばならんかの?」
姫が手の先だけ変身を解除した。人の首すら楽々落とすかぎ爪が現れる。
「やってみろ、こっちもそろそろ皿洗いくらい覚えさせようと思っていたところだ」
対する俺も槍――は、折れたままなので刀を取り出した。
「……またやってるし」
遠くで見ていたケウが呆れたようにつぶやいたというが、俺たちには聞こえなかった。
ちなみに。今日の戦いは俺の勝利で幕を下ろした。やはり(姫の前では)初めて使った刀がいい仕事をしたのだろう。初見殺しは大切だ。
「いやおかしいじゃろう? おぬし槍より刀使った方が強いぞ? 槍ですら“神槍”に至りそうじゃったのに、それを越えるとは一体どうなっておるんじゃ?」
姫がそんな寝言をほざいていた。まったく、俺の得意武器は槍だというのにな。
◇
防衛に関して姫はあまり当てにはできないらしい。自分たちの土地は自分たちで守れということなのだろう。世知辛いことだ。
それはともかくとして。新しい住人であるジーン族との間にトラブルはなく、防衛施設も完成し、食糧自給も何とかなりそうだ。
徐々に『平穏な日常』な完成しつつある。このまま特に問題もなくスローライフを送れたらいいのだが、こういうときにこそトラブルは舞い込むのだと俺は前世の経験で知っている。
俺の考えを見通したかのように。エリザから『税収について』相談を持ちかけられたのだった。
「……え? 徴税とかしなきゃダメなのか?」
エリザに確認してしまう俺である。
「ダメですわよ。ラークは領主。ジーン族は領民。その辺はしっかりしませんと」
「なぁなぁで領主になっただけだからなぁ。税金を取るのは気が引けるというか……。そもそも金には困っていないし」
D.P.交換で大抵のものは手に入るし、もしもお金が必要になっても、冒険者ギルドというところで魔石(魔物の体内にある不思議な石)を買い取ってくれるらしいから問題はない、はず。
う~む、そろそろ処分を考えなきゃいけないほど魔石が貯まってきたし、一度くらい冒険者ギルドとやらに行ってみるのもいいかもしれないな。
俺がそんなことを考えているとエリザが追加で説明してくれた。
「ラークのためではなく、ジーン族のために徴税しないといけませんわ」
「?」
「現状、ジーン族は『ラークのご厚意』によって土地を借りている状態ですもの。ラークの気が変わればせっかく耕した土地を手放して出て行かないといけませんわ」
「……俺、そんなことをする魔王に見える?」
「見えませんわよ。そしてジーン族の皆さんも理解しているでしょう。しかし、それとこれとは話が別ですのよ。徴税とは契約。彼らは税金を支払う代わりに土地利用の権利を得て、税金を支払うからこそ庇護してもらえるのですわ」
「……要は、安心を金で買うってことか?」
「身も蓋もない言い方をすれば、そうなりますわね」
「そういうことなら受け取るしかないが……こっちの世界の税金っていくらくらいなんだ?」
「そうですわねぇ。5公5民が基本かしら?」
「ぼったくりだな」
所得税として考えると50%か……。あれ? そう考えるとありえない数字ではないのか。
「ぼったくりと言われましても……。土地があるから農作はできるし商売もできる。と、いう考えですわよ」
「民がいるから作物は作れるし商売も成り立つんだがなぁ」
「立派な考えですわね。上に立つ人間がそんな綺麗事を信じだしたら終わりですけれど」
意外と辛辣だった。さすがは王妃教育を受けてきただけはある。その思考は理想家ではなく施政者のものであると。
そんなエリザはわずかに肩をすくめた。
「……ここの場合は色々と特殊ですものね。ラークの理想を追求するのも悪くないかもしれませんわ」
つまり、俺の好きにしていいということなんだろう。
さてどうするか?
現状お金に困っていないし、むしろ日々のD.P.収入が増加したのだからこちらから支払うべきだと思う。が、エリザの話だと“契約”として税のやり取りはしなきゃいけないみたいだし……なるべく軽くなる方向で……。
「じゃあ、税率は利益の1割。そしてジーン族については24時間態勢で周辺警戒をしてくれているから、兵役で代納しているということで」
「実質無料ということでいいのかしら?」
「追い出される形でここまでやって来た人たちから搾り取るのは気が引けるからな」
「税は1割。それを兵役で代納、と。では正式な契約を交わしてもよろしいですわよね?」
エリザがアイテムボックスから羊皮紙と羽根ペンを取り出した。神殿発行の正式な契約書らしい。
正式な契約となると不安になってしまうのは元日本人のサガだろうか。
「えっと、一応確認するが、何か問題あるか?」
「…………、……ないですわね」
「いやその“間”は何だよ?」
「気のせいですわ。えぇ、ラークが心配するようなことは何もありません」
エリザは下手くそな口笛を吹いてから、さらりと問題発言をしてくれた。
「あと、こういうときは族長の娘を『恭順の証』として差し出す場合が多いですけれど……ラークの場合はケウとスレイに手を出していますものね。その辺はもう済んでいるということで」
「……え? ケウとスレイって、周りからはそう見えるの?」
「新しく移住した土地の領主に、一族の娘が二人も嫁いだのですわよ? しかも片方は族長の娘となれば……」
この世界の常識に疎い俺でも分かる。そりゃそう見えるわな。
なんてこったい。
別にあの二人に手を出したことは後悔していないが、そういう扱いになっているなら話は別じゃないか?
いや正確にはこっちが手を出されたのであって、俺はどちらかというと被害者なんだが……。それでも、まぁ、ケウとスレイは恭順うんぬんなど関係ない純愛だと思う。
『――複数人に手を出しておいて“純愛”とは中々面白い冗談だね?』
いつの間にやら近づいていたリュアがそんなことを黒板に書いていたが、無視。無視だ。あと手を出したんじゃなくて出されたんだから。ここ重要。
というかトップクラスに積極的だったリュアにとやかく言われたくはないし。
俺が頭を抱えるとエリザが呆れたようにため息をついた。
「周りがどう見ようと、本人たちが納得しているならそれでいいのですわよ。逆に言えば、“純愛”であると納得できるようにケウさんやスレイさんに接しなければいけませんけれど」
そのあと小声で『もちろん、わたくしとも純愛してもらわないといけませんけれど』と追加したエリザはなかなかの破壊力だった。リュアと一緒に萌え萌えしたのは秘密にしておくべきだろう。
次話、今日の午前中に投稿予定です。




