17.とある人馬の観察記と、真・夜の生活。
17.とある人馬の観察記と、真・夜の生活。
「心と心の繋がりも大切じゃが、身体と身体の繋がりも大切。つまり、両方繋がってしまえば完璧なのじゃ!」
それが氷竜姫様の主張でした。まぁ理屈は分かります。いきなり夜這いしようとは思いませんけど。
と、いいますか。ラーク様も(肉体は)女性ですよね? 夜這いして、そのあとはどうするのでしょうか?
……『生やしてしまえばいい』ですか。ドラゴンってすげぇ……。いえ、何も聞こえませんでしたし、何のことか理解できません。私は純粋無垢な人馬ちゃんなので。
エリザ様は納得してしまったご様子。貴族の仕事の一つは子作りですから、そっち方面の話題には意外と耐性があるのかもしれません。
もちろんリュア様はノリノリでした。
氷竜姫様は散歩から帰ってきたスレイお姉様とケウ様に事情を説明。結果、エリザ様、リュア様、氷竜姫様、ケウ様、そしてスレイお姉様でラーク様に『夜這い』をかける決定をしてしまいました。
いやお姉様、決断が早すぎません? そりゃあ死神の瞳で見ても死なないラーク様は“運命の相手”なのでしょうけど、まだ出会ったばかりですよね?
いえ好機だというのは理解しますが! ラーク様でもいいとは思いますが! でもでも! まだ私の心の準備ができてないんですよ! そういうのは結婚してからにして!
むがー! と頭をかきむしる私ですがもちろんお姉様が止まるはずもなく。
そんなこんなで時刻は夜。というか夜中。そろそろ氷竜姫様の言う『夜這い』が実行されてもおかしくはないでしょう。
夜になるまでの間に心の整理はつけました。うん、お姉様は超美人。ラーク様は超美少女。二人の子供ができたら超絶☆可愛いに違いありません。そして私はお姉ちゃんとして可愛がる。絶対に『おばちゃん』とは呼ばせねぇ。
……さて、どうしましょう?
これからお姉様はズッコンバッコン――いえ、めくるめく素敵な一夜を過ごされるのです。
正直、見たい。
じゃなかった。色恋沙汰の経験皆無なスレイお姉様がちゃんとやれるのかどうか確かめなければいけません。妹として。そして人馬族の一員として。
決して。そう、決して。好奇心から覗きをしようなどとは考えていないのです。
あー、でも、ラーク様はジーン族の移住を受け入れてくださり、私の命を救ってくださった大恩人。そんなラーク様の初夜(?)を覗き見るのは人としてどうなのでしょう?
いやしかし、王族の初夜には見届け人がいると聞きますし、魔王であるラーク殿にも見届け人が必要なのでは?
私は悩みつつ、足取りは着実に居館へと近づいていました。
そんな私がふと視線を居館に向けると、――白い羽が目に付きました。
背中から生えた、純白の翼。
目もくらむような美しい金髪。
そして、神の証とされる金の瞳。
物語に出てくる“創造神”の姿そのものな美少女が、居館の周りに張り巡らされた柵の隙間から建物の中を覗き込んでいました。
え? もしかしなくても神様? 創造神?
ありえないとは思いますが、しかし、金髪金眼を持つ生命などこの世界に存在しないはずですし、なにより、背中から生えた純白の翼が“彼女”を創造神であると無言のうちに証明していました。
ちなみに。
この世界の神話は二段に分かれており、一段目は亜人を含むヒト科のほとんどが信じているとされる世界創造神話。金髪金眼、白い羽根を持つ創造神たちが世界を作る物語です。
そして二段目は、世界が創造された後。それぞれの種族や国によって異なる神話です。多くは神様が○○族を創造した~だとか、この国は○○神が建国されたのだ~といった神話が数多く残されています。一番信者が多いのは建国神スクナ様でしょうか?
とまぁ、そんな神話に登場する金髪金眼、白い羽根の美少女が目の前にいるのです。目の前で覗きをしているのです。思わず目を2、3回こすりましたが現実は変わりませんでした。
どうしよう?
声をかけるべき?
……いや、絶対面倒くさいことになりそう。
踵を返して見なかったことにする?
……それだとお姉様の初めてを楽しめ――いや、見届けることができない。
私がどうするべきかと苦悩していると、
「う~ん、やっぱりここからじゃ見えないか~。……おや?」
羽根付き美少女がこちらに気づきました。気づいてしまいました。
「そこの可愛い子ちゃん、キミも覗きかな?」
「……人聞きの悪いことは言わないでもらえませんか?」
「否定はしないと。やぁ嬉しいねぇ。一人だとやっぱり罪悪感があったからさ~。赤信号、みんなで渡れば青信号。みたいな感じ?」
「あ、はぁ……?」
正直、後半は何を言っているか理解できなかったのですけれど。なにやら完全に『お仲間』扱いされていることくらいは分かります。
もはやこれまで。
私は瞬時に諦めました。事ここに至っては、どうやって被害を少なくできるかを考えた方がマシでしょう。
「えぇっと、もしかしなくても創造神様ですか?」
「お、嬉しいねぇ分かってくれるのか! いや一目見て分からない楽くん――ラークがおかしいだけだよね! この美少女☆創造神様♪の威光は本来なら異なる世界の隅々にまで轟くのだから!」
……神は死んだ! 万雷の拍手の中で!
「殺さないで!? しかも拍手するとか酷すぎる! いや、ちょーーーっとばかり神様っぽくない言動だってのは理解しているけど、それでも殺すのはやり過ぎだと思うな私! 人馬族をそんな子に育てた覚えはありません!」
育てられてないですし。もしも民族が神の庇護下で育つものだとしても、人馬族を庇護したと伝わっているのは氷竜姫様ですから。
一応創造神様も並んで信仰されていますけどね。やはり重視されるのは氷竜姫様でしょう。今回だって、氷竜姫様が新しい移住先を紹介してくださったという形になっていますし。
「おのれあの駄トカゲめ! 私のシマに手を出すとはいい度胸だ!」
憤慨する創造神(?)である。
今さらだけど私の心読まれてます? いえ、見ただけで即死させるお姉様だとか、神話に登場する氷竜姫様とかがいるので今さら心を読まれるくらいで驚きませんけど。
「ぐふっ、私の数少ない特技が『くらい』で済まされた……。楽くんといい、もう少し驚いても罰なんて当てないのに……」
崩れ落ちるように膝を突く創造神(?)。
帰りたい。帰って今日の出来事をなかったことにしたい。
「今日という日は! なかったことになんてできないんだよ!」
いまさら名言っぽいことを口走っても説得力皆無です。
「ごふっ、K.P.(心・ポイント)に深刻なダメージ。……あれ? 私創造神だよね? 広く信仰されている神様だよね?」
「私に聞かれましても……。え~っと、創造神? 様?? ですか??? なぜここにおいでなさったのでしょうか?」
「クエスチョンマークが多すぎる! いやねぇ、神様に対する尋常じゃないほどの殺気を感じて、ちょっとだけ様子を見てみたら楽くん関係が面白いことになっていたからさ。これは遠くからじゃなくて近くで目撃しなきゃと思ったわけですよ!」
わけですか。
なんだろう、この人(?)とは仲良くなれる気がする。覗き見仲間、というのがアレだけど。
「…………」
「…………」
深くうなずき合い、固く握手を交わした創造神(?)と私。
流れるように自己紹介。彼女の名前は『ユル』だそうだ。世界創造神の一柱であり、死と再生を司る神と同じ名前。本物かなぁ? 本物かなぁ……?
心底疑っているとユルが『ならば! 神の力をご覧に入れよう!』と叫び、ユルと私の身体を透明にしてみせた。おぉ、こんな魔術は聞いたことがないし、無詠唱で自分と他人に効果を及ぼしたのも素直に凄い。
本物かどうかは分からないけど、凄い人であることは間違いなさそうだ。
「いやそろそろ信じてくれてもいいんじゃ……。ま、いいか。ニィルから今さら媚びへつらわれても調子が狂うし」
ため息をつくユルと一緒に忍び足で居館に侵入。姿が見えないとはいえ音は聞こえるみたいですから。……不法侵入? 創造神様が許してくれているから大丈夫。かな?
細かいことは考えず。
そうして私とユルはとある一室を覗き見たのだった。
…………。
……うん、総評としては。ラーク様は総受けだった。
何がとは言わないけれど。
何がとは言わないけれど。
ユルは『誘い受け』だとか『ヘタレ攻め』、『ヘタレ受け』などといった不思議な単語をつぶやいていた。
純真無垢な人馬ちゃんなので理解できないけど。
純真無垢な人馬ちゃんなので理解できないけど。
あと、ラーク様は単純に体力が凄かった。五人相手なのに。
ちょっと尊敬。
ユルと二人して鼻血を出してしまったのは名誉の負傷、ということにしておこう。
本日、もう一話投稿します。
追加説明。
ニィルは本来覗きをするような子じゃありません。
ただ、『心の整理はつけました』と言いつつもできていない=混乱しているだけで。
本来の調子なら創造神であるユルに対してもう少し敬意を持った対応をするはずです。今さらそんな態度をとるのはユルが望まないでしょうけど。
……ユル? あの子は“しらふ”だろうがなんだろうが覗きますよ?




