16.お留守番のドワーフさん。その2
16.お留守番のドワーフさん。その2
「……ラークがまた女性をたらした気がいたしますわ」
そろそろ夕食の準備をするかなぁとワシが考えていると、エリザ殿がそんなことをつぶやいた。
「また『美人』だとか囁いて、すれていない女性をたぶらかしたに違いありませんわ」
女の勘というものだろうか? こういうとき、ワシはどういう反応をすればいいのだろう?
ラーク殿はどう見ても女性であり、実際身体は女性のものらしいのだが、言動は完全に男だ。
気っ風がよく、細かいことを気にしないが、人の心の機微には注意を払ってくれているので不愉快さはない。
こちらにただ施しを与えるだけではなく、対価を払わせることで『対等』な関係でいられるようにしてくれている。
まぁ、なんというか、たとえ外見が女であっても十二分に『いい男』なのだラーク殿は。伝説の氷竜姫様が気に入るのも不思議ではないほどに。
「ラークさんは女たらしよね。ちょっとどうかと思うわ」
そんないい男を、エイルはズバッと切り捨てていた。恩人に対してひどい言いぐさだが、エイルが浮気する心配はなさそうなのでホッとしている自分もいる。
エリザ殿が悩ましげに頬へ手を添える。
「えぇ、えぇ、ラークは無自覚のうちに女性をたらすのですわ。まぁ魅力的な御方ですし、女性がたらされてしまうのも無理はないのですけれど」
惚気られた。
グチと見せかけた惚気だった。
なにやら『リア充爆発しろ!』という神の啓示があった気がしたが、きっと気のせいだ。
リア充の意味は分からないが、あまりいい意味ではないことは何となく分かる。そんな言葉を公明正大にして意志堅固、英明果敢、堅忍不抜、春風駘蕩なお人柄と称えられる創造神様が投げかけられるはずがない。
本当に創造神様は素晴らしい御方であり、ドワーフ族の間で広く信仰されている。神話においても進取果敢にして率先垂範、聡明剛毅でありながら知足安分の心を忘れない、すべての生命がお手本にするべき存在なのだ。
……ん? 何か光ってない?
天井から降ってきた光がワシを包むように煌めいている。……え? なにこれ? 天上に照明器具なんてないんだが? 何でワシ光っているの?
――スキル“鍛冶神の加護”を獲得しました。
――鍛冶を行う前に創造神への祈りを捧げることで、+効果がつきやすくなります。
なにやらそんな声が響いてきた。エイルやエリザ殿にも聞こえたらしくきょろきょろと周囲を見渡している。
「……いや、なんで創造神なのよ? 普通は鍛冶神に祈りを捧げるものでしょう?」
エイルが容赦なく突っ込んでいた。ワシもちょっと気になったけど黙っていたのに。
結局エイルからのツッコミに対する返事はなく、しばらくするとワシを包み込んでいた光も霧散していった。
少々首をかしげたい気持ちもあるが、鍛冶神の加護は鍛冶師にとって垂涎のスキルだ。今度、鍛冶をするときに試させてもらおう。
もちろん最初に打つのはラーク殿の武器――と、言いたいところだが。ラーク殿の使う槍は無銘であるらしいが大業物であることは容易に察することができる。
ワシとてドワーフとしての誇りがある。異世界の鍛冶師に後れを取るつもりはないが、あの槍を押し退けて使っていただくとなると並大抵の出来では無理だろう。同程度の質であれば使い慣れた方に軍配が上がるからな。
まぁ、あの槍が折れたならば話は別だろうが。アレが折れる場面など中々想像できないな。
予備武器の短刀あたりを打たせてもらうか、と考えながらワシは当初の予定通り夕食作りを開始した。エリザ殿に任せると昼食に続いてカレーになるからな。
……後日。
神話において“神の友人”と表記される氷竜姫殿にスキルの話をすると、『まぁ、あいつはお調子者じゃからな。褒め称えればスキルの一つや二つ授けてしまうだろうよ』というご返答をいただいた。
「…………」
信仰心が少し揺らいでしまったのは絶対の秘密だ。
次回、18日投稿予定です。




