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15.お留守番のドワーフさん


 15.お留守番のドワーフさん。



「……ラークがまた厄介ごとに巻き込まれている気がいたしますわ」


 昼食時。『一人で食べるのは寂しいですわ……』というエリザ殿の発言を受けてワシと(エイル)が居館で一緒に食事を取っていると、ふいに窓から空を見上げたエリザ殿がそんなことをつぶやいた。


 今、ラーク殿たちは人馬族の移住に関するあれやこれで出かけており、留守を任された身としてはそんなことを言われると少々不安になってしまう。


 エリザ殿は“神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”に生息する魔物を相手に一昼夜戦い抜けるほどの魔術師であるらしいし、何らかの魔法でラーク殿の危機を察知したのかもしれない。


「厄介ごととは……。ラーク殿は大丈夫なのか?」


 転移魔法(テレポート)ができないワシらではどうすることもできないが、だからこそヤキモキしてしまう。


 そんなワシの心配をよそに、エリザ殿は妙に落ち着き払っていた。


「大丈夫でしょう。ラークは強いですもの。わたくしがレイピアを使っても敵いませんわ。絶対に」


 ラーク殿の強さはまだよく知らないので首肯することはできないが、エリザ殿がここまで信頼しているのだからきっと大丈夫なのだろう。


 そもそも、ワシらのために新築一軒を瞬時に建築してしまうような規格外の魔術師がラーク殿だ。こちらが心配するなど逆に失礼に当たるかもしれない。


 だからこそ、ワシの興味は別のものに引き寄せられた。


「エリザ殿はレイピアを使うのか?」


「えぇ、元々はそうですわよ。魔力は金属に通した方が効率的に使えますもの。わたくしの元いた国では王妃に近衛騎士団の指揮権が与えられることもありますから色々と鍛えていましたのよ? こちらに追放された際は武器がなかったのであまり役に立ちませんでしたけれど」


「…………」


 エリザ殿が『怨霊』になった経緯については酒の席で本人から聞いている。グチという形だったが、それでもあんな辛い話を語ってくれたのだからワシらのことを信頼してくれているのだと思う。


 自分を追放した国のことに言及したというのに、エリザ殿の顔には恨みや憎しみは微塵も存在しておらず。その意味で言えば彼女はもう『怨霊』ではないのだろう。


 ラーク殿やリュア殿、そして氷竜姫様やケウ殿のような『善き人々』に囲まれていれば、怨霊だとしても心穏やかになれるということだろうか。

 エリザ殿が自分の中で決着を付けているのなら、ワシから何か言う必要もない。


 食事を終え、食器を片付け、3人でしばらくまったりしてからワシは立ち上がった。


「さて、エリザ殿。どんなレイピアが好みかな?」


「え?」


「世話になっている身だ。ラーク殿の奥さんにレイピアの一本くらい打ってやっても罰は当たらないだろう」


 人馬族の里に向かう前。ラーク殿は鍛冶場を作ってくれて、それなりの量の鉄塊も用意してくれた。ワシの武器を打っていいとのことだったが、まずはエリザ殿の武器を作った方がこちらとしても『ここまでしてもらって申し訳ない』という気持ちが和らぐというものだ。

 もちろん、ラーク殿への感謝の気持ちが薄らぐことはない。


「奥さん……。わたくしが、ラークの……」


 エリザ殿は頬に手を添えながら蕩けるような微笑みを浮かべていた。その様子は文句なしの美少女であり、男として見ているだけで幸せに――


「――ドワン?」


 嫁からの殺気。はいすみません、決して邪な感情は抱いていません。エイルが大事。エイルが一番。エイルが嫁で幸せだなーワシ。


 ゴホン。

 気を取り直して。ワシはエリザ殿の希望を聞きつつレイピアを打つことにした。


 ……ん? ゴーレムがやる気満々といった様子で腕を振り上げている。手伝ってくれるらしいが、その小さな身体では危ないから見学だな。


 ワシの心を読んだわけではないだろうが、ゴーレムは仕事の邪魔をすることなく鍛冶場の端っこで応援(?)の踊りを踊ってくれていた。





 はじめに言っておこう。調子に乗りすぎた。


 言い訳させて貰えるならラーク殿の用意した鉄塊が今まで扱ってきたどんな素材よりも高純度だったのが悪い。エリザ殿が火、雷、風の三属性を扱える大魔術師だったのが悪い。鍛冶場の設備が整いすぎていたのが悪い。


「調子に乗ったドワンが悪い、でしょう?」


 エイルの訂正に頷くしかないワシだった。はいすみません、ワシが全部悪いんです。


 目の前には一振りの細身の剣。エリザ殿が剣を使うときは身体強化の魔法を使うというので、普通のレイピアよりは重量がある。


 素材は超高純度の鉄。純度が高すぎて銀色に輝く鉄塊なんて初めて見たよワシ……。


 最も特徴的なのは異なる属性を付与した三つの鉄を叩き合わせ、一本の刀身としていること。一つは火属性の魔法が通りやすいように。一つは雷属性の魔法が通りやすいように。一つは風属性の魔法が通りやすいように。


 一つの刀身で三つの属性の通りをよくさせようとすると各属性がケンカするからな。ならばいっそ異なる三つを一つにしてしまえばいいという発想からできた一品だ。


 もちろん、三つの刀身を一つに纏めた形なので重量も単純に三倍。身体強化の魔法を使わなければまともに振ることもできないだろう。


 完成したからには試し切り。

 幸いにして周囲に魔物は事欠かない。


 ワシとエイル、エリザ殿。そしてエリザ殿の肩に乗ったゴーレムは居館を出て、水堀に架けられた可動橋を渡り、敷地の外に出る。


 ゴーレムが腕を右方向に伸ばしたので、そちらに視線を向けると鳥形の魔物がこちらに向かってきていた。


 コカトリスだろうか。一見すると巨大な鶏だが、尻尾から蛇が生えているという変わった魔物。肉は美味いし、羽毛は布団などに使える『いい素材』だ。


 まだ距離はある。弓で狙うにしても少し遠いくらいか。


「……え? 魔力を通せばいいんですの?」


 なにやらエリザ殿が肩に乗ったゴーレムとやり取りをしていた。ゴーレムに発声器官はないはずなのだが、ラーク殿やエリザ殿は普通に意思疎通をしている。


 エリザ殿がゴーレムの指示通りにコカトリスへ切っ先を向け、刀身に魔力を通した。

 すると――


「――ひゃう!?」


 エリザ殿の驚きの声。使った本人が一番驚いたのだろう。

 刀身に流した魔力は自動で火、雷、風に変換。風魔法の突風が渦を巻き、その渦に炎と雷が乗っかった(・・・・・)


 突風に運ばれた炎と雷はコカトリスに命中。落雷のような轟音を立てた後、コカトリスを黒焦げにしてしまった。


 もちろん羽毛は全滅だし、肉もたぶん炭になっているだろう。


 ワシとエイル、エリザ殿はお互いの顔を見合わせた。


「わ、わたくし、雷系で麻痺する程度の魔力しか使っていないのですけれど?」


 麻痺程度のつもりが、丸焼けに? 普通にやろうとしたら数十倍の魔力が必要なところだな。


 超純度の鉄を使ったおかげで魔力の増幅幅が大きくなった? あるいは三つの属性がいい影響を与え合ったとか? う~む、要研究だな。


「……というか、弓でも狙いにくい距離の魔物を一撃で仕留めるとか。剣として何か間違っているわよね」


 エイルはちょっとご機嫌斜め。弓より正確に、弓より遠く、弓より強力な攻撃をできる剣だからな。弓使いとしては面白くないのだろう。


 弓が魔法の遠距離攻撃に勝る点は魔力の消費がないことだが、エリザ殿の口ぶりだと、あの剣を通せば魔力の消費もかなり抑えられるはずだ。同じ魔力消費で数十倍の威力ってところか。


 もしかして、ワシ、遠距離攻撃武器に革命を起こしちゃったかもしれない。


 ワシが冷や汗を流していると、ゴーレムが自慢げに胸を張っていた。




次回、12日投稿予定です。

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