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14.ドワーフと、エルフと、武器作り


 14.ドワーフと、エルフと、武器作り。




 倒れていたのは人間ではなく、亜人だった。


 一人は口元が完全に隠れるほどの髭を蓄えた男。顔つきはどう見ても成人を迎えた男性なのだが、身長は俺 (エリザの身体)の肩程度しかない。いわゆる『ドワーフ』という種族らしい。


 もう一人は淡い金髪の若い女性。気を失っているが美人だということが分かる。特徴的なのが横に伸びた耳。こちらは『エルフ』だそうだ。


 とりあえず。日差しの強い海岸で治療や看病をするのも何なので、俺たちはいったん家に帰ることにした。転移魔法(テレポート)を使えば一瞬だからな。治癒魔法をかけるにしてもベッドの上の方がいいだろう。


 すぐにとんぼ返りすることになったエリザは納得しつつも残念そうにしていたが、意識を取り戻した二人の話を聞いたら即座に海並のハイテンションになった。


「素敵ですわ! 対立し合う種族に生まれた男女! 最初はいがみ合っていたのにお互いを知るにつれて育まれていく愛情! 周りに引き裂かれる恋! そして二人で手と手を取り合っての逃避行! 素敵ですわ! 愛ですわ!」


 そういうことらしい。

 昔からドワーフの里とエルフの里は仲が悪く、恋人同士だった二人の結婚は周囲から反対された。そして二人で里を出て、新天地で暮らそうと旅を続けている間に船が難破。運良く二人とも同じ海岸に打ち上げられたらしい。


『……船が難破しているのですから、運がよいのかどうかは分かりませんけどね』


 そう言うなリュア。エリザは『運命の力ですわ!』と大興奮しているんだから。


 しかし、意外だな。婚約者に裏切られたエリザが恋物語に興奮するだなんて。


 ……いや、王太子との婚約なんてどうせ家同士が決めたものだろうからな。家に逆らい、運命に逆らい、二人だけで幸せを掴もうとしている姿はエリザの乙女心を刺激したのだろう、きっと。


 さて。二人の体調に問題はなし。となると二人の今後をどうするかという話になる。


 俺的にはここで暮らせばいいじゃんと思うが、いきなり見ず知らずの人間からそう提案されても困るだろう。するにしても実際に生活してみてもらわないと。


 ケウだって移住を決断するまでそれなりの日数をかけたのだし、ここにはエルフが好むような森なんてないからな。


 もしも二人が旅を続ける場合だが……リュアいわく『ご主人様の転移魔法は規格外ですから。欲しがる人間や亜人は多くいるでしょう。トラブルを避けたいのなら隠すべきです』とのことなので俺が“神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”の外に連れて行くのは反対された。


 二人がここに住むのなら見せても問題はないらしい。が、今の段階ではまだ気が早いだろう。


 もしここを出て行くなら魔物が蔓延る荒野を突っ切ることになるのだが、二人だけで旅を続けられるだけあって、二人はそこそこ強いらしい。


 試しにD.P.で交換した武器を貸し出して周囲の魔物を狩らせてみたところ……確かに強かった。エルフが魔法と弓で支援しつつ、ドワーフが斧でなぎ倒す。パーティーとしてのバランスもいい。


 うん、問題なく“神に見放された土地(アゥフ・ギーブン)”を突っ切って旅を続けることができそうだ。


 俺は武器を貸そうとしたのだが、遭難時に金銭を失ったために対価が払えないと遠慮された。

 また、ドワーフの方は力が強すぎるらしく、何度か使ったら斧の柄が折れてしまった。刃こぼれもひどい。


 お金を持っていないのなら旅をさせるのも気が引けるし、なによりもっと頑丈な武器が必要だろう。

 急ぐ旅でもなさそうなのでしばらくここに留まってもらうことにした。


 新婚夫婦だからと気を遣い、居館の部屋を貸すのではなくD.P.で一軒家を建ててあげることになった。新婚生活には何かとプライバシーが必要だしな。夜の生活とか。夜の生活とか。


 ドワーフとエルフは恐縮していたが、居館に比べれば大したD.P.消費じゃないので問題ない。どうしても気になるのなら狩った魔物の一部を借家料として納めてもらうとしよう。


 衣食住のうち、住居は完成。食事も魔物を狩ってもらい、肉を確保。余剰分をこちらの野菜や穀物、そしてD.P.で出した衣料品と交換するという形にした。


 こちらは別に交換してもらうほど食料に困っていないが、エルフたちは代価にする金銭を持っていないからな。表向きは物々交換という形にした方がスムーズなのだ。施すのではなく、対等な関係。ここ重要。


 衣食住はとりあえず大丈夫。

 あとは、身を守るものがないのは不安だろうから武器について考えるか。

 ドワーフの武器に関しては自分で作りたいとのこと。


 鍛冶場。  城内施設という扱いなのか現地築城(アルヒテクトゥーア)で作成可能。

 素材。   D.P.で交換可能。

 鍛冶師。  ドワーフができるらしい。


 俺も前世の関係でちょっとだけ鍛冶師の真似事ができるし、無駄にはならないだろうからあとで鍛冶場を作るとしよう。


 一応エルフに対しても武器の使い心地を聞いたところ、動物の死体を使った弓はなるべく使いたくないそうだ。

 死体というと響きが悪いが、要するに動物の骨や腱を使った合成弓のことだ。


 本当なら竹が主材料の和弓を渡せればいいのだが、俺のD.P.での武器交換はこの世界を基準にしているらしく、弓は合成弓。剣は両刃が基本で、鉄砲や大砲はない。


「となると……自分で作るしかないな」


 ドワーフの武器は(鍛冶場と素材を準備すれば)自分で作れるので、俺はエルフの方の武器作りを手伝うとしよう。


 エルフが普段使っているという、木だけで作った単弓は魔物相手だと威力が不安。毒が取れる植物も周囲にはなし。なので、単純に威力が出せる和弓――複合弓を作ることにした。


 前世、俺の実家は古武術道場みたいなものをやっていたからな。『いざというときのために』と弓も一から自分で作らされたことがある。

 絶対に役に立たない、と思っていた知識が異世界で活用できるのだから人生というものは面白い。


 和弓作成会議を設立。メンバーは弓の製作知識がある俺と、植物に詳しそうなリュア。魔法知識が豊富なエリザに、素材に詳しいドワーフ (名前はドワン)で話し合いとなった。


 自分の武器についての会議であるからか、エルフ (名前はエイル)も参加するようだ。


「ふふふ、寄せ集めの人材で『エルフの弓』を超えるものができるかしら?」


 エイルがどことなく悪役っぽいことを言っていた。夫であるドワンのことも一緒に『寄せ集め』扱いしているがいいのだろうか?


 ちなみに、ご自慢の『エルフの弓』は遭難時に海の藻屑になったという。


 結局、今ここにいる全員が揃ったからわざわざ会議を設定する必要はなかったかもしれない。


 まずは俺が和弓の基本的な作り方を説明。するとさっそくリュアが手を上げた。


『竹についてはこの世界にもよく似た植物があります。植物なら私の管轄。矢竹と一緒に庭の隅にでも生やしておきましょう。すぐに収穫できます。報酬は頭を撫でてくれればいいですよ?』


 リュアすごい。

 頭くらいいくらでも撫でてあげよう。


「竹というものを乾燥させるのでしたわね? わざわざ何年も待たずとも、水を集める『集水魔法』の応用ですぐにできると思いますわ。空気中の水分を集めるところを、竹から集水するよう術式を書き換えればいいだけですもの。わたくしも頭なでなでを希望いたしますわ!」


 エリザすごい。

 そしてお前もか。まぁいいけど。


「うむ、接着剤の“ニカワ”についてはワシが作れる。だが、エルフ的に考えれば動物を原材料にした接着剤も避けたいだろう。となると植物由来だが、ドワーフには樹液からも接着剤を作る技術があるから任せてくれ。そしてワシにも頭なでなで――いえ、すみませんでした」


 ドワーフすごい。

 そして(見た目だけなら美少女な)俺からのなでなでを希望するとは中々の『(おとこ)』である。(エイル)の睨め付けで即座に諦めたようだが。


 ドワンの発言を受けてリュアがさらに提案してくる。


『樹液なら世界樹わたしのものを使いましょう。そして、どうせ弓の弦も必要なのでしょう? 私の蔦を使えば万事解決です。……エリザは一つお役に立ち、私は三つお役に立つ。ここはエリザの三倍なでなでしてもらう権利があると思うのですが?』


 リュアが流れるような鮮やかさで自分の欲望を炸裂させ、


「くっ! 筋が通っていますわ!」


 エリザが悔しそうに歯ぎしりしていた。若い娘さんが歯ぎしりしちゃいけません。


 そして、


「え? 世界樹の樹液と蔦を使うの? ……ごめんなさい、調子に乗っていました。エルフの弓なんて子供のオモチャですよ、はい」


 エイルが手のひらを返していた。自然と共に暮らすエルフだからな、世界樹は特別な存在なのだろうきっと。……さっき『寄せ集め』扱いしていたような気もするが。


 なにやらすぐにできそうなのでさっそく作ってみることにした。

 リュアが素材を準備し、エリザが乾燥。ドワンが接着剤を製作後、材料も加工して組み立て。

 接着剤は元々リュアの一部だったおかげか、彼女の意志ですぐに固まった。


 ……あれ? 俺いらない子? 俺なしでも製作できるじゃん……。


 悲しい現実から目を背けているうちに弓は完成した。見た目は完全に和弓。俺の得意武器は槍だが、弓もそれなりに使えるのであとで貸してもらおう。


 できあがったのなら試射をしたくなるのが人情だ。さっそく外に出た俺たちは土塁の上に登り、ちょうどよくこちらに接近してくるイノシシ型の魔物を発見することができた。


 名前は知らないが、凶暴で、走りも速く、体高が人間よりも高い。そして――味噌漬けにすると美味い。ちゃんと血抜きをすれば生臭くもならないし。


 イノシシ型の魔物の美味さを知っているドワンとエイルの目の色が変わった。『必ず仕留めろ!』、『任せなさい!』と息ぴったりなやり取りをしている。


 今さらだが、エルフが肉食っていいのだろうか? 森の中で山菜や木の実を食べているイメージがあるんだが……。


『ヒト科なのですから、動物性タンパク質は必要でしょう』


 リュアのツッコミは鋭かった。もう少しファンタジーのイメージを大切にして欲しいし、こういう中世風ファンタジー風の世界観で動物性タンパク質とかいうリアルな言葉を使わないで欲しい。


 俺が嘆いている間にエイルは矢をつがえた。ちなみに矢はD.P.で交換したこちらの世界のもの。矢竹は準備できたが鏃はまだ作れないからな。

 もちろんこの世界の矢なので和弓用じゃないが、一応改造はしたのでまぁたぶん飛ぶんじゃないのかな? ぶっつけ本番だけど。


 エイルが弓を引き、


「うわ!? 軽っ!?」


 予想以上に弓力(弓を引くときに必要な力)が弱かったのか驚愕しつつ何とか冷静さを取り戻し、一呼吸置いた後に矢を放った。


 射法よりも速さを重視した実戦型。かなりの腕前であることは察せられるのだが、いかんせん初めて使った弓のせいか、それともやはり矢がダメだったのか、放った矢はイノシシから少し離れたところへと飛んでいき――


「――え?」


 その言葉を発したのは誰だったのか。


 地面へと突き刺さるはずだった矢が、曲がったのだ。ぎゅわん! と。ほぼ真横へ直角に。


 そしてイノシシの脇腹、おそらくは心臓に命中する矢。途中で曲がったにもかかわらず威力はまったく衰えておらず、人間よりも大きなイノシシの、ぶっとい胴体を軽々と貫通した。


 うん、突き刺さったのではなく貫通。役目を終えた矢は深々と地面に突き刺さっている。全長の四分の三ほどが。


「…………」


「…………」


「…………」


 顔を見合わせる俺と、ドワンと、エイル。


「凄いですわ! これが『太陽すら落とす』と称えられるエルフの弓術ですのね!」


 エリザが目を輝かせ、


『命中補正に、威力補正と言ったところでしょうか。威力補正は私の蔦と、私が生みだした竹を使ったからと推測できますが……。あの命中補正は何でしょう? 一番可能性が高いのはご主人様がD.P.で交換した矢だから、というのが考えられるのですけれど』


 リュアがそんな分析をして俺の方を見るが……困る。D.P.交換は不思議な力であるものの、いくら何でもあんな素っ頓狂な矢は出てこないだろう。そもそもD.P.交換の武器があんなに凄いのならドワンが使った斧だって壊れるはずがないし。


 むしろエリザが言うようにエルフの特殊な弓術と説明された方がまだ納得できるのだが……と、俺がエイルを見ると彼女はものすごい勢いで首を横に振った。


 とりあえず色々検討してみて原因を追及することになったのだが、その日はここで終了となった。


 人馬族の元へ戻っていたケウと姫が戻ってきたためだ。


 うん、しばらく忙しくなりそうだな。






ブックマーク、評価などいただけると嬉しいです。


次回、6日更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 杭のこともあるからねぇ…魔を滅する自動追尾機能ありそう(小並感)
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