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13.移住決意と、聖水と、海

 13.移住決意と、聖水と、海。





 ケウと姫に出会って十日ほど経った、ある日。


 ケウがここへ移住してくることを決めた。

 一族を説得し、ダメだったら自分だけでも引っ越してくるらしい。


 そこまで気に入ってくれたのは嬉しいが、一族の方々も困っているのだからなるべく説得して欲しいものだ。土地は空いているのだし。


 この数日で人馬族が暮らす予定地や、飲み水などの問題は話し合っているので人馬族側で移住を決めてくれればすぐにでも準備は終わるだろう。井戸も無事に掘れたしな。


 ケウの帰郷には姫も同行することになった。ケンタウロスの里で『神様』として信仰されている氷竜姫も一緒の方が早く話が進むだろうからと。


「では、ケウよ。わらわの背中に乗るがよい」


 ドラゴン姿になった姫がそう命令し、ケウは絶望をその顔に浮かべた。


「い、いえ、氷竜姫様の背中に乗るなど恐れ多いと言いますか……」


 ケウの顔に書いてある。乗りたくないと。

 まぁ、背中は吹きさらしだものな。どれだけの速度を出すのかは知らないが、下手なジェットコースターより恐いんじゃないだろうか?


「わらわが許すのだ、恐れ多いも何もないだろう。それに、わらわが飛んでいった方が速い」


「…………」


 もちろんケウに拒否権などあるはずもなく。


「みぎゃーーーーーっ!?」


 悲痛な叫び声を上げながらケウと姫は空の彼方へと飛んでいった。無事を祈る。いやマジで。





 短い期間とはいえ、共に過ごした仲間がいなくなるのは寂しいものだ。

 俺とエリザ、リュアはそんな寂しさを紛らわせるかのように昼間から酒を飲み、雑談に花を咲かせた。


 ゆるキャラ風ゴーレムも御神酒を求めたので飲ませてやる。

 材質は土なので水分を吸ったら泥になって崩れないのかなとちょっと不安になったが、リュアいわく『そこら辺のドラゴンより頑丈ですよ』らしいので遠慮なく飲ませてみた。


 なかなかの飲みっぷり。顔 (のっぺらぼう)がほんのり赤く染まっているのは気のせいかな? 土色なのでちょっと判断しにくい。


 ゴーレムには口がないので喋れないのだが、エリザやリュアとも何だかんだで意思疎通ができているようだ。……酔っ払って意思疎通とか関係なく騒いでいるだけかもしれないが。


 そんな酒盛りの中、エリザとリュアが海に行ったことがないという話になり、少々遠そうだが、岩山の頂上から海が見えたのでそこに行ってみようということになった。


 と、その前に。

 家の周りの柵とは別に、昨日作った土塁の上にも柵を作っておく。本当は古い柵は消そうと思ったのだが、まぁないよりはいいだろう。


 俺の肩の上にはゴーレム。暇をしているのかエリザとリュアも付いてきた。

 土仲間(?)として土塁が気に入ったのかゴーレムが肩から飛び降りて、土塁の上で踊ったり走ったりしている。


 なにやらペットを見ている気分になりながら土塁の上で杭を生やしていた俺は、ふと気がついた。


「うん? 堀の水が減っていないな?」


 姫が飛び込んで盛大にこぼれたはずなのに、水量が減少した様子がない。あれから雨は降っていないから補充をされたわけでもないし……。


『ほぅほぅ、興味深いですね。水量保持の魔術がかけられているのでしょうか? ……それに、なにやら神聖な“気”があふれています』


 隣で作業を見守っていたリュアがじーっと水堀を見ている。あの堀ができてから数日経っているが、家と畑からだと土塁が目隠しになっているし、もしかしたらリュアは初めて見たのかもしれない。


 リュアがその場で足を地面に叩きつけた。ほぼ同時、水堀のすぐ脇から蔦が生え、水の中に突入していく。


『水質保持に、水量保持……。それにこれは、――聖水?』


 なにやら不穏当な発言があったような。


『いえしかし、いくら善人とはいえ“魔王”が聖水を作り出すというのはあり得ませんね。……ご主人様。少しでいいので、別のところに水堀を作っていただけますか?』


「同じものでいいのか?」


『はい』


 リュアからのお願いなのでもう一つ水堀を作る。今ある水堀よりさらに荒野側に一本。防衛力の強化を考えれば今の水堀をぐるりと囲ってしまいたいが、東西南北のうち南側だけ作る。現状必要もないのにD.P.を無駄遣いする必要もないだろう。


 先ほどと同じように、できたばかりの水堀に蔦を入れるリュア。


『水質保持……水量保持は同じ……。ですが、これは聖水ではありませんね。綺麗ですので飲料水にはできるでしょう』


 あの量の水を飲料水にできるとか凄い『チート』じゃないか? しかも水量保持で減らずに、水質保持で腐らないとくれば……。いや、今はそれよりも気になることがある。


「聖水ってのは何だ?」


『神の祝福を得た水。傷ついた善人の傷を癒やし、悪しきものを滅する奇跡。神の涙が水に溶け出した~だの、神が心身を清めるために使った水だ~などの説があります』


 心身を清める……禊ぎというものだろうか?


 なんだか嫌な予感。


「あの堀は、姫が水浴びに使っていたな」


『あぁ、あの無自覚神アホ――じゃなかった、天然聖遺物製造器トラブルメイカーですか。ならそれが原因でしょうね』


 ひどい言いぐさである。

 まぁ、水浴びしただけで『聖水がたまった水堀 (長さ500m×500m、幅100m)』を作ってしまうのだからさもありなん。


 しかし、土地神であるリュアに、竜神(?)である姫か。神の密度が高すぎだな。俺も魔神あたりを名乗るべきか?


「……あと、『悪しきものを滅する』のか? 俺は昨日思いっきり聖水を浴びてしまったんだが?」


 俺、魔王。忘れがちだけど魔王。


『ご主人様は善人ですので大丈夫でしょう』


「聖水ってそれでいいのか? 魔王だぞ? 創造神に認められた魔王だぞ?」


 聖水の効果についてはイマイチ信憑性がないが、あとで小瓶に取ってみて色々試してみよう。


 それよりもまずは海だ。さっきからエリザが目をキラキラさせているからな。これ以上待たせるのは忍びない。さくっと転移魔法(テレポート)で移動してしまおう。


 “智慧の一端”によると、俺の転移魔法(テレポート)は行ったことがある場所か、目視できる場所、それと転移に同行する者が行ったことのある場所に瞬間移動できるらしい。


 もちろん同行する人数や移動距離が増えるほど魔力消費は大きくなる。


 海まで歩くと何日かかるか分からないので、まずはゴーレムを肩の上に戻し、エリザとリュアの手を握って、岩山の頂上まで転移する。その後、海岸を目視。その海岸まで一気に転移した。


 一瞬、視界が『ぐわん』と回った。


 熱い日差し。

 潮の香り。

 ゆらゆら漂う海鳥たち。


「おおー! ですわー!」


 初めて海に来たエリザが子供のようなハイテンションで砂浜を駆け抜け、


「…………」


『…………』


 とある“もの”に気がついた俺とリュアは思わず顔を見合わせた。



   見間違いじゃないよな?


   私にも見えています。


   何でエリザは気づかないんだ?


   海に夢中で視野が狭くなっているのでは?



 そんなアイコンタクト(?)をした俺たちである。

 リュアに頷いてみせて、同時に“それ”へと視線を移す俺たち。


 ――土左衛門?


 水死体の第一発見者になっちゃった?


『いえ、かすかにですが息があります』


 リュアが伸ばした蔦が水死体――じゃなくて、海岸に倒れる二人を突いたり引っ張ったりしている。


 生きているなら助けるか。見捨てるのも目覚めが悪いしな。


 俺はポリポリと頭を掻いてから倒れる二人に足を向けたのだった。






次回、11月3日投稿予定です

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