12.移住の準備と、ゴーレム
12.移住の準備と、ゴーレム。
ケンタウロス――人馬族は狩猟民族であるらしい。下半身は馬だが雑食で、肉も食べる。
近くに獲物がいなくなれば居住地を捨て、全員で新たな土地へと移住する。元々がそういう生活を送っていたのだから、一族揃ってここに移住することに反対は起きないだろうとの話だった。
俺は考えた。
新たな住人が引っ越してくるとして、まず必要なのは水と食料。
食料に関しては何とかなる。肉は鳥っぽい魔物やイノシシっぽい魔物を狩ればいいし、野菜や穀物に関しては畑の作物が順調に生育しているから、ケンタウロスたちにも畑を作ってもらえばいいだろう。
食料生産が軌道に乗るまでは俺がD.P.で食料を出してあげればいい。短い付き合いだが、家族同然であるケウの一族が困っているのだ。それくらいのことはさせてほしい。
問題は水か。
水はD.P.で井戸を作ることもできるが、俺に万が一のことがあったあと井戸が枯れたらどうしようもない。ここは普通の井戸を掘っておくべきだろう。
“神に見放された土地”なので地面は鉄のように硬い。硬いが、リュアが祝福してくれれば畑を作れる程度に柔らかくなる。柔らかくなれば井戸も掘れるだろう、きっと。
俺はさっそくリュアに井戸掘りの相談を持ちかけた。暇をしていたのかエリザも話に加わる。
『井戸を掘る前に、移住させる場所を決めるべきでは?』
「……この家の近くじゃダメなのか?」
『ケウさんの話によると、ジーン族は500人ほどの集団らしいですね。ちょっとした村ですよ。生活音だけでもかなりのものが予想されますし、我々とは生活習慣が異なるのですから、無用な諍いを避けるために少し距離を取った方がいいと思います』
「そんなものか?」
『そんなものです。前世、私の根元で多くの動物が暮らしていましたが、結構争いがありましたから。生活空間はなるべく離した方がいいでしょう』
リュアの言葉にエリザが頷く。
「庶民の方々も、領主の館の近くに住むのは気が引けると聞きますわ。ラークもその辺を気遣ってあげませんと」
「……いや、俺って領主なの? 勝手に住んでいるだけだぞ?」
ものの例えならいいんだが、エリザの口ぶりだと完全に俺を『領主』認定しているだろう。
「そもそも、ここの土地神はリュアなんだろう? だったら領主もリュア――」
俺の言葉は途中で止まった。スポットライトっぽいものが上から当てられたからだ。パァアアァァ、っと光っている。なんだこれ?
『――土地神であるウラド・リュアの名において~、ウラド・ラークを領主として認めよう~』
厳か(?)な口調でそんな宣言をしたリュアである。
ちょっと待て。ツッコミどころが多い。
「……領主ってそんな簡単になれるものなのか? どっかの国から怒られないの?」
『土地神が認めたのだから正当ですよ。むしろ勝手に国を作っている連中こそ恥じ入るべきです』
「……この光は何?」
『演出です。雰囲気重視で』
「……ウラド・リュアって何?」
『結婚したら夫の名字を名乗る。この世界でも同じです』
「結婚していないんだが?」
『雰囲気重視で』
「雰囲気で結婚させられた!?」
俺が愕然としているとエリザが割り込んできた。
「ですから! 抜け駆けは止めてくださいまし!」
『……ならエリザも名乗ればいいだろう?』
「むぅ?」
『ウラド・エリザベート。いや、この世界風ならエリザベート・ウラドかな?』
この世界って重婚O.K.なの?
「……ま、まぁ! ラークがどうしてもと言うのなら! 名乗ってさしあげるのもやぶさかではありませんわ!」
望んでねー。
と、口を滑らせるほど俺はアホではない。
うん、よく考えろ俺。リュアとエリザは超美少女。性格もいいし、話していて面白い。嫁として何の不足もないというか、こっちが土下座して頼む側じゃないか? しかも一つ屋根の下で同居済みだし。エロいことをしていないだけでもう結婚しているようなものなのでは? エロいことに関しても正直もう秒読み段階だし。
やったー、モテ期到来だー。
「…………」
身体が男だったらなー。迷いなく流されるんだがなー。
窓から空を見て遠い目をする俺だった。やはり創造神はいつか殴る。
空の彼方から『私のせいにするなー、このヘタレー』という声が降ってきた気がする。ぐふっ、K.P.(心・ポイント)に甚大なダメージ。
…………。
……むずかしい問題は後回し。色々と。
細かい移住場所はあとでケウと相談するとして、実験として井戸を作ってみることにした。
場所は居館の近く、畑の隣に決めた。農作業に使えば無駄にはならないだろう。
『……固い地盤が5メートルほど。その後、柔らかい地層を30メートルほど掘り進めれば地下水脈に到達します』
リュアが根っこを伸ばして確認してくれた。
さっそくリュアに大地祝福の舞を踊ってもらい、御神酒を振りかける。固い地盤が5メートルほどあるそうなので樽で交換し、ぶちまけた。
エリザがやりたそうにしていたので、樽をもう一つ交換してエリザに渡して――あ、転んだ。
「重いですわ! なぜラークは軽々と持てますの!?」
鍛えているからな。
エリザが転んだ拍子に樽のフタが外れ、ころころと転がり、まだ柔らかくなっていない地面に酒を注いでいた。もったいない。
覆水盆に返らず。もう一つ樽を出した俺は、今度はエリザと一緒に支えつつ井戸予定地に酒を振りまいた。
『初めての共同作業』
ニヤニヤ笑うリュアにデコピンしてやりたい。
リュアの測定によると固い地盤はすべて軟らかくなったそうなので、さっそく穴を掘ってみることにする。
「エリザ。何かいい魔法はないか?」
「そうですわねぇ。地下水脈までの距離が……35メートル? “メートル”は確かヴィートリアン王国の単位だったはずですわよね」
マジかよ。メートルが単位として存在するの? もしかして以前に俺みたいな転生者が? ……いや、名前が偶然一緒だっただけの可能性もあるか。
「メートルですといまいち長さが実感として分からないのですけれど、きっと深いはずですものね。普通の土魔法では効率が悪いですから、ゴーレムを錬成して掘り進めさせるのはいかがかしら?」
「ほぅ、ゴーレムか。この世界にもあるんだな」
ゲームとかでは定番だ。
「えぇ。こちらの世界では主に土や岩を使った人工生命体ですけれど、ラークの世界ではどうなのかしら?」
「こっちも似たようなものだな。額に書かれた文字を消すと土に戻るのが一般的だ」
「……敵に消されませんの?」
「消されるなぁ」
フィクションに真っ当なツッコミをされても困る。
俺は苦笑しながら“智慧の一端”を起動し、土魔法の一覧からゴーレム錬成を選んだ。
ふむふむ、消費魔力によって大きさが変わると。サイズは、自律式だと大中小でそれぞれ5,000、4,000、3,000M.P.か。
いちいち命令するのは面倒くさいし、あまり小さいのを作って土を掘れませんでした、となってはM.P.が無駄になってしまう。ここは一番大きい5,000のゴーレムを製作しておくか。M.P.は自動回復ですぐ回復するし。
画面に電卓みたいなものが表示されたので、最大値である5,000を入力する。
む、画面の反応が悪いな。軽く触れただけじゃダメか。少し強めに押して、と……。
……あ、入れすぎた。
0が一つ多かったので訂正しようとしたのだが、なぜか消去する前に『入力完了』のポップアップ。
なにやら貧血のような目眩がした。画面右上のM.P.表示を見るとしっかり50,000M.P.が消費されている。俺の総M.P.は80,000ちょっとなので、結構な量を使われてしまったことになる。
目眩が消えるのを待っていると、エリザとリュアの雑談が耳に届いた。
「そういえば、ラークの魔力総量は80,000ほどだそうですけれど、これは多いのかしら? 普通は自分の魔力を数字で視ることなんてできないのでよく分からないのですけれど」
『多いね。数字だけなら神話に登場する勇者とか魔王並ってところかな。ちなみにエリザは8,251だよ』
「むぅ、ラークの十分の一……。少ないですわね」
『ラークと比べちゃいけないよ。あれは規格外なのだから。あと、分かっているとは思うけど魔力を一度に全部使ってはいけないよ? 魔術師にとっての魔力は、人間にとっての血も同じ。一気に失えば死の危険もあるからね。小分けに使うならともかく、一度に使用するのは半分を限度にするべきだ。それ以上使ったら死を覚悟しないとね』
死の危険があったのかー。これからは気をつけよう。
魔力のほとんどを使ったのに目眩だけで済んだのはもしかして“即死無効”の効果なのか?
ま、いいや。使ってしまったものはしょうがない。俺は地面に手を差し伸べて、言った。
「――錬成。命なき巨人」
近くの地面が脈動した。波のようにうねり、蛇のように鎌首をもたげ、くっついたり離れたりしながら次第に人型になっていく。
その様子を少し離れた場所でリュアとエリザが見守っていた。
『……材料は“神に見放された土地”の土。しかも、あの辺はエリザが御神酒をこぼした場所だよね? 鉄より硬い土に、世界樹すら育てる御神酒の組み合わせとか……』
「“神に見放された土地”の土は『死』属性でしたわよね? 『神』属性の御神酒とは混じり合わないと思うのですけれど……」
『混じり合っているね。正確を期するなら魔力で強引に混ぜ合わせている。相反する属性であるはずなのに。太陽が落ちてきたような衝撃的な映像だよ』
「ら、ラークは一体何を作っているのかしら?」
『……世界を滅ぼす魔導最終決戦撃滅兵器とか? さようなら人類、さようなら世界……』
エリザとリュアの物騒な会話は聞こえない。うん、聞こえない。もう手遅れだし。
混じり合っていた土は一度大きくうねったあと――、一つの塊として固定された。
全長は、30cmくらい?
人体を極限までデフォルメしたような見た目をしている。子供の描いた絵というか、てるてる坊主に手足が生えたというか……。
エリザとリュアの会話から想像していた姿とは『真逆』と呼べる姿だ。もっとこう禍々しくて、デカくて、怨嗟の声を漏らしているようなものを想像していたんだが。
恐くない。
まったく恐くない。
むしろ『ゆるキャラ』っぽい。
なのにリュアとエリザの反応は絶望的だった。
「ご、人造物の王……? 神話で鍛冶神を殺した『神殺し』の……?」
『……いや、アレはむしろ“人造物の支配者”とても呼ぶべき存在じゃないかな? 人間、亜人を含めたヒト科の創作物特効。人類の天敵。文明の破壊者。あらゆる武器を支配下に置き、あらゆる創作物の支配者であるとされる……』
「神話によると、神々の作った聖剣ですら人造物の王には傷を付けられませんでしたわよね? その上の存在なのですの?」
『だね。神話だと確か拾った石を投げて倒したのだったかな? 人類の作った武器ではない、自然の中で生まれたものとして』
「……生まれたばかりの今なら、投石で倒せるかしら?」
『誰がやるんだい? 私は『神殺し』をやっちゃうような存在とは戦いたくないな。そもそも、私は世界樹。自然側の存在だ。人類が“人造物の支配者”に滅ぼされようが問題はない』
「わ、わたくしも悪霊ですし、自分を犠牲にしてまで人類を守る必要はないと思いますわ」
『……私は何も見なかった』
「……えぇ。ラークが可愛らしいゴーレムを作っただけですわ」
なにやら現実逃避している二人だった。こんなに可愛いのになー。
一応確認。ゴーレムに視線で語りかける。
人類滅ぼすの?
滅ぼさないー。
創造神をぶん殴るなら協力するぞ?
面倒くさいー。
……よし、問題はないな!
「大ありだと思うのですけれど……」
『というか、“人造物の支配者”と意思疎通? しているね。言葉を介さず、目の前のすべてを破壊し尽くそうとしたと伝わる存在なのに』
「どうしましょう? ラークの様子からして、家まで持ち帰って育てそうですけれど」
『ペット感覚なのかな? ゴーレムは作成後にも育つのが相場だからね。むしろラークが“親”として無用な破壊衝動を持たないよう教育してくれることを期待しようか』
「ですわね」
『それに、考えようによってはいい状況だ』
「?」
『私が土地神をしている地面に、ラークが取り出した御神酒を注いであの子は誕生した。つまり、私とラークの子供と言っても過言ではないのでは?』
いや過言だろ。何を世迷い言を……。
「……いえ、それならわたくしが御神酒をぶちまけて、そこからラークが生み出したのですから、わたくしとラークの子供なのでは?」
エリザ、お前もか……。
思わず遠い目で空を見上げてしまう俺 (本日二度目)だった。
そんな俺の背中にゴーレムがよじ登り、ぽんぽんと肩を叩いてくれた。いい子だ。
次回、31日投稿予定です。




