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10.新しい住人(?)




 10.新しい住人(?)




「ぬぅ! 腹をくすぐる蠱惑的な香りに、ピリリとした刺激! 人族の料理はここまで進化していたか!」


 ドラゴン(気軽に『姫』と呼んでくれと頼まれた。全然気軽じゃ無いと思う)がカレーに舌鼓を打ち、


「オーッホッホッ! わたくしの料理はついに種族の壁を越えたようですわね!」


 エリザが調子に乗っていた。ものすごく悪役っぽい高笑いをしながら。


 色々と言いたいことはあるが、今まで料理をしたことのない公爵令嬢が短期間でここまで腕を上げたのだから素直に褒めるべきか。カレーしか作れないけど。


 エリザの頭を撫でながら俺は姫とケウがカレーを食べているテーブルに御神酒を置いた。カレーに日本酒はちょっと珍しい組み合わせだが、ないよりはいいだろう。気に入らなければ飲まなければいいだけだしな。


 カレーを食べ、御神酒を飲んだ姫は、叫んだ。


「うーまーいーぞーっ! ぬぅ! 何という組み合わせ! 米と米の合わせ技! カレーのピリッとした辛さと酒のキリッとした飲み口、そして最後にやって来る酸味が何ともいえない相乗効果を生み出すのぉ!」


 なにやら料理バトルマンガみたいなことを口走っていた。マリアージュってやつか? そこまで深く考えて出したわけじゃないんだが……。喜んでくれたのだからよしとするか。


「決めた! わらわ、ここに住む!」


 なにやら決断している姫と、驚愕に口を開いているケウ。うん、居館の部屋はまだ空いているからいいけれど、まずはケウと話し合いをしてからにしような?


 不思議と気が合うのか姫はエリザと酒を飲み始めてしまったので、俺は放置された格好となったケウの近くのイスに座った。そんな俺の横にリュアが腰を下ろす。


 ちなみにケウの下半身は馬で、普通のイスには座れないので今は俺が出した大きめのソファに下半身を横たえている。それでやっとイスに座った俺たちと同じくらいの目線になるのだからケンタウロスの大きさはかなりのものだ。


 俺は同情するようにケウの肩を何度か叩いた。俺も前世は“師匠”に振り回された口なので何となく気持ちは分かる。


「まぁ、なんだ? お前さんも色々大変そうだな」


 ケウは地獄で蜘蛛の糸を見つけたような顔をしたが、すぐに申し訳なさそうに頭を下げてしまった。


「ひょ、氷竜姫様がご迷惑をおかけして、真に申し訳ありません。食事をごちそうになったあげく、ここに住まおうなどと……」


「いや、住みたいってなら止めないよ。こっちも話し相手が増えるのは歓迎だ」


 ケウには言わないが、女性二人を荒野に放り出すってのも気分が悪いしな。

 ま、二人は強そうだから問題はないだろうが。実際荒野を半分ほど進んでも無傷だったわけだし

 特に姫。たぶん俺やリュアよりも強いからな。魔物や暴漢程度なら簡単に返り討ちにしてしまうだろう。


 まぁでも快く送り出せるかと言ったら否。ふとした瞬間に気になってしょうがない未来が見える。


 ケウが困ったように耳――馬っぽい耳を下げた。


「いえしかし、そういう訳にもいきません。宿泊代を払えるほど金銭に余裕があるわけでもありませんし」


「その辺は要相談だな。まぁ一緒に魔物を追っ払ってくれるだけで十分助かるが」


 現状は俺かリュアが夜中でも対応しなきゃいけないからな。これがローテーションを組めるようになればかなり楽になる。


 本来ならタダでいくらでもいてくれていいんだが、赤の他人からそんな施しを受けても戸惑うだけだろう。何か仕事をしてもらった方が後腐れしなくていい。


 その辺は後日ゆっくり話し合うことになった。まだ食事を提供しただけなのに移住の話を本格的に進めるのは早すぎる。


 酒とつまみをそれなりに消費し、お互いに打ち解けてきたので少し踏み込んだ話題になった。


「ケウはずいぶんと礼儀正しい話し方をしているな。最初のときはもっと、こう……」


 尊大だった。族長の娘であるとか叫んでいた。

 ケウが少し恥ずかしそうに頬を赤く染めた。酔っただけかもしれないが。


「いえ、最初からこびへつらいますと舐められますから。女二人旅なので少し強気に行きませんと」


「そんなものなのか。しかし、ケンタウロスとドラゴンってのは珍しい組み合わせだな」


「けんたうろす?」


「あぁ、すまん。人馬族だったな。俺の国ではケンタウロスと呼んでいたのでな」


「ケンタウロス……。なにやら不思議な響きですね。妙にしっくりくると言いますか」


 なにやら満足げに酒を一口飲んでからケウは旅の経緯を説明してくれた。


「私の住む里が、水と食料の関係で少々住みにくくなりまして。新しい移住先を探すためにジーン族で一番の戦士である私が探索者となったのです」


「ほ~ん」


 一番の戦士を旅に出して里の守りは大丈夫なのかと思うのだが、魔物もいる世界なので一番強い者でなければ旅などできないのかもしれない。新しい移住先ということは基本的に人の住んでいない場所を探索するのだろうし。


 ……あ、そんな使命があるのならケウが移住するのは無理か。姫はあの感じだと残りそうだが。


 いや、いっそのこと一族みんなでここに移住してくるのはどうだろう?

 ここは俺の土地というわけではないが、誰かが領有しているわけでもないそうだし。


 人馬族が移住先を探しているのは食料と水の関係と言っていた。

 D.P.を使えば井戸は掘れるし、飲み水の心配はない。

 畑もリュアに頼めば作れるだろう。


 肉も、イノシシ型の魔物やクマっぽい魔物なら血抜きをきちんとすれば食べられる。自給自足の一環で試したから問題はない。


 畑での農作が安定するまでは俺がD.P.で作物を出してやればいいし……と、そんなことを考えている間にケウは姫との出会いを話し始めた。


「氷竜姫様には旅の途中、廃棄された都市の神殿で出会いまして。『面白そうな出会いに繋がる未来が見えるのぅ』という理由で私の旅に付いてきて――いえ、同行していただいているのです」


 訂正した言葉にケウの本音が透けて見えるような……。いや、言わぬが花だな。


「神殿ってことは、神様扱いされていたのか?」


「えぇ。元々氷竜姫様は神話に登場するドラゴンですし」


『……神話となると軽く二千年は生きているはずだね』


 リュアが黒板で解説してくれた。二千年とか、異世界凄い。


「その都市は移住先に適さなかったのか?」


「元々住んでいたのが人間か亜人かは分かりませんが、人馬族にとっては色々と小さかったもので」


「なるほど」


 ケンタウロスはとにかく大きい。並んで立ったとき、俺の頭が大体ケウの腰くらいだからな。家などの建物はもちろんのこと、道路などのインフラも人とケンタウロスでは基準が違うのだろう。


「ふ~ん、となると一から作った方がいいのか。ならここは最適だな。土地はとにかく広いからな」


 と、俺が先ほど考えていたことを口にすると、


「――ほぅ、いいのぉそれは。あまり長々と移住地を探すのも何だし、ケウも一族と移住してくればいいのではないか?」


 いつから話を聞いていたのか姫が賛同し、


『人馬族の人数は知りませんが、一族が移住できるくらいの範囲を我々の“領土”にしてしまえば毎日のD.P.収入も増えますね。そして土地神である私も、増えた領土と暮らす民の数に比例して力を増すことができると』


 リュアも乗り気のようだった。

 というか、お前って土地神だったの?

 世界樹だし、耕作地を祝福していたから別におかしな話ではないのかもしれないが。


「…………」


 ケウが真剣な顔で悩んでいる。

 ま、酒が入っている状態で冷静な判断はできないだろうし、やはり移住の件はまた後日にした方がいいだろう。


 ちなみにエリザはいつの間にか酔いつぶれていた。姫が途中で会話に割り込んできたのはこれが原因らしい。



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