四十六話
翌週。
私は、再度、例の邸宅に来ていた。
どこかスッキリしたマルティナが私を奥へと案内する。彼女は引っ越し準備に大忙しだと、苦笑してみせた。どうやら灰被り嬢の継母は、中央を離れて田舎に遁世するらしい。
灰被り嬢の継母の部屋に、今度は、正面からたどり着く。
部屋の中では、継母が長椅子に腰掛けて私を待っていた。
長椅子にすわっているのに、ちっともくつろいでいるようには見えない。背筋がぴんと張っている。
「ほんとうによかったんですか?」
挨拶もしない、出し抜けな私の問いかけに、継母もぎろりと大きな目で睨む。
「唆したのはあなたでしょう。いいのです。いい気味でした」
そして、小さく息をついた。
「もっとはやく、この屋敷からでるべきだったのですわ」
あの月夜の出ている晩。
私は彼女と約束を交わしていた。
「『悪者』になってください。あなたの望み通りでしょう?」
悪役になること。
それを私が提案し、彼女が了解した。
「わかりました。いいでしょう」
意地悪な継母は、もはや意地悪な継母以外にはなれない。
そして彼女はそのことに毅然と胸をはった。
「ただし、交換条件はまもってちょうだい。あの子にただで親切などしてやるものですか。それに気がつかせるつもりもないわ。一瞬でも、あの子がわたくしを母親だと慕うだなんていやよ」
「そこまで憎いですか?」
当然じゃない、と彼女はあざ笑った。
「私の唯一はあの人だったのに、彼はそうじゃなかったんだもの。彼はわたくしを愛してはいても、他の誰かと置き換えることができる程度だったのよ。わたくしは彼女が存在することを許さないわ」
「あなたの恋人は、灰被り嬢の父親は、酷い人ですね」
「ええ、そう。最低の男よ」
最初の夫より、よほどね。
継母はそう言って嗤った。
「さあ。約束を叶えてちょうだい」
望んでいた未来。
欲していた家族。
それを本当に望んでいたのは、結局誰だったのだろう?
「もちろんです。あなたに幸せな夢をみせましょう」
私は呪文を唱える。
長椅子にゆったりと横たわった彼女の周りを、やさしく、淡い光がとりかこむ。
「ゆっくりと、おやすみなさい」
継母は、ゆったりと瞼を閉じた。
夢の中では、きっとしあわせな少女として過ごせる事だろう。
完全に眠りについたのを確認して、部屋を出る。
マルティナがいたので、継母が眠りに就いたことを知らせておいた。
外に出ると、いつものようにまっさおな雲一つない空が広がっていた。




