四十五話
エーリッヒに肩を抱かれ、立ち上がった灰被り嬢が私と赤ずきんに向かって声をかけた。
「あの、…ありがとうございました」
「どういたしまして」
「灰被り。礼を言う必要はないぞ」
さんざん、虚仮にされたんだからな、と、エーリッヒがふん、とそっぽを向く。
そんなエーリッヒの様子を見て、灰被り嬢がくすくすと笑い声をあげる。その目尻は泣きすぎて真っ赤に腫れ上がっている。
魔術師はいつの間にか消えている。
どうせ、罰に問われる前にとっとと抜け出したのだろう。
なにせ奴には、魔法を暴走させただけではなく、おそらくネズミを各地から連れてきた罪、それから子供を攫ってきた疑いもある。
はあ、とため息をつく私に、灰被り嬢が恐る恐ると伺いを立てた。
「なんでしょう?」
私の言葉に灰被り嬢がポッと頬を染めた。
「あのね、わたしずっとあなたのようなお友達がほしいと思っていたの。お友達になってくださる?」
今度は母親、王子に次いで『友達』が欲しくなったらしい。
このお姫さまは大人しそうな性格に反して貪欲だ。その欲深さが私は嫌いじゃない。
「そりゃあ、怯えないのなら」
そう伝えると、にこにこと嬉しそうにほほ笑んだ。
「ありがとう」
胸の前に手を当てる。
「そっちの弟子は特に近づく必要はないぞ」
「まあ、エーリッヒ様。魔女さまのお弟子さんはとっても優しい方よ」
「だからだよ」
なんだかイチャイチャし始めた。
連れ立って、部屋から出て行く。
扉から出る瞬間、エーリッヒが私を振り返り、
「呪いは成立しない。そう言うことだ」
と言い捨てていった。
赤ずきんと私だけが残される。
背を向けていた赤ずきんが、くるりと私に振り向く。
「なあに?」
何か言いたげだ。
赤ずきんは少しあわあわとした後、
「師匠。俺、別にあの子のことなんとも思ってないよ」
とだけ言うと、
「俺、後片付けしてくるね!」
と顔を真っ赤にして出ていった。
後片付けが必要なものなんて特にないのだが。
私は一人、部屋に残されてしまった。
「…『解決』はさせていただきました」
城でこの様子を、私の胸元に付けられた機械の通信機ごしに、観察しているであろう国王に告げる。
「この国に起きた呪いは全て勘違い、単なる事故のようなものです。廃被り様は悪意をもって騒動を起こしたわけではない。魔法をかけた魔術師は、…まあ、罰していただいて構いません。何れにしても、もうこのような騒動が起きることはないでしょう。一度解けたまじないはもう効きません。つまり、何が言いたいかと言うと、」
見ているだろう方向にニヤリ、と笑う。
「まさか、ようやく己の区分を取り戻した灰被りさまの未来をお取り潰しなさるなんて、そんな酷いことはいたしませんよう、願っております、と言うことです」
この言葉を最後に、向こう側から通信が途切れたのを感じた。




