四十三話
水晶に閉じこもったお姫さまと王子、その二人を囲むのは、本来ならあり得ないだろう、平民だけだ。しかもその内二人は悪い魔法使いたち。
奇妙な面子の揃った異空間にノックの音が響く。
それは、この部屋と他とをつなぐ、唯一の扉から聞こえてきた。
「待ち人がやっと、来てくれたようです」
扉に向かって、水晶の隣から手招きをする。
ぎいい、と軋んだ音を立てて扉が開いた。その先にあったのは、王子が通ってきたはずの王城の廊下ではなく、屋根裏へと続く階段だ。
そして、そこには、赤い水晶を抱えたマルティナが佇んでいた。
「さあ、お待ちしていました」
私の言葉にマルティナは無言で一回、頷いた。
「これをお持ちするように、奥様から、仰せつかっております」
それだけを淡々と言うと、王子たちを通り越し、近寄ってきて、赤い水晶を私に差し出す。
「やはり、貴女の主人はきませんでしたか」
私はそれを壊してしまわないようにそっと受け取った。
「はい」
マルティナは機械のように首を振る。
「それでは、」
そう言って、引き返そうとするマルティナを私は引き止めた。
「ここに残ってください。貴女の主人は、そのために貴女をここに送り込んだのです」
「……」
「あなたも、あなたが十年間、守り続けたものの姿を見る必要があるのではないですか」
マルティナは、
「わかりました」
とだけ言うと、一礼をして部屋の隅に体を寄せた。
「王子。彼女はこの屋敷の歴史の生き証人です。必要であれば、灰被り嬢がどのように扱われていたか、お話を伺ってください。きっと証言してくれるでしょう」
「今でいいじゃないか」
私は首を横に振る。
「そんなまだるっこしいことは、魔女がいないときにでもしてください」
私は赤い水晶を手にとった。
そして、水晶の中で口を閉ざし続ける灰被り嬢に向かって語りかける。
「さあ。この中に、貴女の継母のあなたに対する感情の全てが詰まっている。どうです、興味があるでしょう? 出てきてください」
「まさか。そんなことで」
私の語りかけに、エーリッヒがはんと鼻を鳴らす。
「しかも、相手は自分を虐待していた相手だろう。出てくるわけがないじゃないか」
そんなことがあるはずもない、いいや、むしろ出てこないで欲しい、そんな王子の思惑とは裏腹に、私のすぐ前にあった水晶はほのかに光を帯びた。
まるで泡が立ち消えるかのように中から、令嬢が出てくる。
「…あ」
周囲の視線を浴びた彼女は、ゆっくりと目を開き、不安そうにか細い声をあげる。
そしてまるで生まれたての子鹿のように床に座り込んだ。
「灰被り!」
王子が叫ぶが、灰被り嬢の耳には届いていない。
彼女はただじっと、私を、私の手の中にあるものを見つめていた。
「知りたいですか?」
私の言葉に灰被り嬢はこくりと頷いた。




