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四十一話

 むかし、むかし。

 心の優しい少女がおりました。

 彼女の母親は少女が幼い頃に亡くなってしまいましたが、商人である父親が母親の分も、仕事で忙しいなりに少女のことを目一杯愛してくれました。父親の愛情を浴びて少女はすくすくと育っておりました。

 そんなある日。

 少女の父親は再婚することを少女に告げます。相手は昔から縁のある貴族の女性だということでした。こうして少女には継母と二人の姉とができました。

 しばらくは幸せでした。

 新しくできた母親が優しかったからです。

 しかし、しばらくして父親が仕事で家を開けるようになると、その態度は一変しました。継母は少女に辛く当たったのです。料理も掃除もすべて、彼女の仕事になりました。

 それでも少女は耐えました。

 たまに涙が溢れたけれど、それくらい、どうってことありません。

 だって、愛する父親がいれば平気だと思えたのです。

 だというのに、ある時から父親は出かけたっきり家に帰らなくなりました。仕事中に命を落としたのです。

 少女は家族がいるのに、たった一人ぼっちになってしまいました。

 以前よりも扱いはひどくなり、貴族の令嬢だというのに来る日も来る日も、家事に追われます。

 しかし、そんな彼女の生活もついに終わりを迎えました。城で王子の婚約者を選ぶための舞踏会が行われ、そこで王子と少女は出会い、お互いに惹かれ合い、ついには少女は王子の婚約者に選ばれたのです。

 彼女は新しい生活に胸をときめかせました。

 これから王子との素晴らしい人生が始まると信じて。




 短い物語を聞いた王子の感想は非常にシンプルだった。


「これは、本当に灰被りの人生なのか?」


 彼は自分の問いかけに自分で首を振った。


「いや、知っている話もあるし、流れ的にそうなんだろうが…、俺の知っている灰被りとはそぐわない。何より、説明がつかないことがいくつかある」

「例えば?」

「まず、俺との結婚を肯定していたのならこんな風に魔法を発動させる理由がない。それから、細かいところがおかしい。なぜ灰被りは夜会に来れた? 幅広い職種の人間を招待はしたが最低限のドレスコードはあった。しかし、先ほどの虐待の話が本当なら、義母が彼女を夜会に送り出すはずがないように思えるのだが。ましてや、ドレスなんかわざわざ用意したりはしないだろう。それに結婚まで実家に居たいと告げたのは灰被りだ。虐待があったのなら、そんな家早々に見捨ててとっとと城に来ればいいはずだ」


 さすがは王子。

 ヘタレでも、細かい点にはよく気がつく。


「それには理由があるんですよ」

「説明しろ」

「もちろん。これ以上ないほど簡単な答えです。…単純に魔法使いが彼女に手助けしたのです。本来、母親が負うべき仕事を全て、魔法使いが代わりにこなしたから、王子と灰被り様は出会えたのです。そして、その魔法使いがこの一連の騒動の原因となる魔法もかけたのでしょう」

「魔法使いが? なぜ? お前たちは自分たちの利益にならないことはしないだろう」

「そういう種類の魔法使いもいるのです。そして、彼はその類に属している。要するに愉快犯です」


 ありえない、と憮然とした王子に、ふふ、と笑いが漏れる。


「第一、この国にそんな大掛かりな魔法を扱える人間はいない。ここはブランシュ王国じゃないんだ」


 何を言っているのだろう。

 彼までそんなことを言うなんて。

 魔法はどこにでも溢れている。

 魔法使いもどこにでも溢れている。

 現に、ここには、魔法使いの助けを借りて、ガラスの靴でダンスを踊り、その魔法の笑みで王子を惹きつけた少女が眠っているのに。

 きっと彼女ほど魔法によって人生を彩られた少女もいないだろう。

 ここまで来れば、彼女はりっぱな魔法使いだ。

 その彼女を妻に迎えたいと言うのなら、魔法の存在くらい全肯定して欲しいものだ。


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