三十三話
とうぜん、灰被り嬢の継母と義姉たちも巻き込まれたのだろう。義姉たちは座り込んで泣いているようだった。怖かったのだろう。私も怖かった。
継母は娘たちをなぐさめていた。
さすがに彼女の肝は座っているらしい。泣いてもいないし、取り乱してもいないようだった。娘たちの肩をなでたり、軽く叱咤して上手い具合に気を保たせている。
なんだかなあ、と思う。
彼女は、もう一人の娘であるはずの灰被り嬢にはまったく目もくれない。
政治的意識の強い人間なら、たとえ相手が継子でも、愛情がまったくなくとも、まっさきに飛んでくるだろうに。
泣いている灰被り嬢は侍女に慰められている。
侍女がついているから大丈夫だと思うのだろうか。心配はしないのだろうか。
まあ、そういうこともあるのだろうが。
そんな事を考えていたら彼女が歩み寄って来た。
他人事なのに、すこし胸を撫で下ろす。
ドレスの裾を軽く持ち上げ、灰被り嬢に無言で挨拶する。
「あ、あの…」
なんでしょう、灰被り嬢は顔を上げ、おそるおそると声をだした。
その口調だけで、ああ仲が良くないんだなということが伝わろうものだ。
「申し訳ないのですが」
繰り出された謝罪に、この女性は何を言うつもりなのだろうと気になった。
「私の娘たちがたいそう怯えているのです。彼女達のために部屋をお貸しいただけますでしょうか」
堂々とした口調。
私はいっそ拍手をしたい感動を覚えた。
「え、ええ。もちろんです」
灰被り嬢は苦悩しているような、安堵したような奇妙な表情を浮かべて、頷いた。青い顔でほほえみを浮かべる。
後ろに控えている女給が表情も露わに目を剥いた。
「あの、お願いします」
後ろを振り向いて灰被り嬢が女給に用事をいいつける。女給ははっとした表情を隠すべく顔を伏せて、慌てて命令を実行すべくその場から離れて行った。
「お心遣い、感謝いたします」
やはり、堂々と継母はお辞儀をして、彼女が「娘たち」と呼んだ少女らの元へと戻って行った。
なんだか二の腕の辺りに鳥肌が立っている。
やばいものを見てしまった。
灰被り嬢に背を向けた継母が薄くほほえんでいたような。
厳めしい女性とはどこかそぐわない、まるで蜜をなめる子供のごとき顔だったような。
イノシシの騒動。
ネズミの騒ぎ。
王子の婚約。
リュート奏者。
義母。
そして、灰被り嬢。
これは一体、どう始末をつけられるんだろうか。
王様の注文はもしかしなくても無茶じゃなかろうか。




