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二十七話

 送り出した赤ずきんが帰ってこない。

 すっかり出入り口専用となった窓から帰還した後、陽がくれかけても赤ずきんは帰ってこなかった。

 そわそわと部屋の中を行ったり来たりする。

 探しに行こうか、とした時に、部屋にノックの音がした。

 返事を待たずして、中に人が入ってくる。


「殿下」


 それはエーリッヒだった。

 慌てて周囲を見回すがお付きの人はいないようだった。

 エーリッヒが察して、言う。


「だいじょうぶだ。ばれないようにやってきた」

「なにが大丈夫なんですか。どこに人の目があるか分からないのに。灰被り嬢が知ったら浮気かと悲しみますよ」

「俺はそんなことしない」

「そう思われるって話です」

「まあ、いい」

「知らない所で泣いてるんじゃないですか、彼女。エーリッヒさまの事だから、会いに行くくせに気恥ずかしくて会えてないんでしょ」

「そんなことは、ない。彼女は会うたびに屈託のない笑顔で俺をちゃんと迎えてくれてる。それにそんな話をしにきたワケではないのだ」


 勝手に会話を区切ると、エーリッヒはぐっと声を潜めた。


「原因は分かったか?」

「おそらく」


 ただし、確証はない。

 確証がないのに、ああだこうだと言うのは危険だ。

 べつにどんな波乱が起きようがどうでもいいが、場合によっては私の首が物理的にふきとんでしまう。

 それよりは無能のレッテルを貼られる方がよっぽどいい。私は基本的に保守的なのだ。

 口を噤んだ私を、エーリッヒがもどかしげに見つめる。


「なにか?」

「いや、なんでもない」


 ため息をつく。


「それだけの為にここに来たんですか?」


 報告なら伝令をちょくちょく飛ばしているのに。

 まったく、ほんとうに未来の国王だろうか。

 嘆く私に、エーリッヒはそんなワケないだろうと鼻を鳴らした。


「母上からお前に招待状だ」


 もったいぶってわざわざ言葉を区切る。


「今夜行われる演奏会にお前も来い」

「いやだ」


 間髪いれぬ返事に、エーリッヒが目を見開き、そして呆れたように大げさに首を振った。


「子供か」

「だいたいなんで当日に言うのです。女性の身支度に時間がかかるのはご存知でしょうに」

「お前、魔女だろ。そのローブ上から羽織るだけじゃないか。それにお前もアポイントとらずに俺の所に来ただろ」


 無礼はお互いさまだろ、とエーリッヒが笑う。


「……あなたにも苦手なものがあるように、私にも苦手なものがあるのです」


 ぼそりと呟いた言葉に、王子が耳聡く反応する。

 そしてあからさまにワケが分からない、と表情に出す。


「苦手、なのか…? 楽しいのに」

「そりゃ、王子さまなら仕事も多くて、あっという間に時間も過ぎるでしょうよ。考えても見てくださいよ」


 指をぴんと立てる。


「広いパーティ会場。楽しそうに会話する人々。一人ぽつねんと食事をする私。なにあの子、と白目で見られるんです。話しかけても無視するくせに。哀しいでしょう?」


 自信満々に言うと、エーリッヒは哀れむような目つきで私を見た。


「…魔女だからな。気にするな。それにお前そこそこもてるだろう」

「変なのにはね。だからいやです」

「お前の弟子を連れて行ってもいいから。とったんだろう? 連れて来ていると聞いている」

「駄目です。あんな魔窟に連れて行けるか。置いて行くのが心配だから連れて来たのに、わざわざ危険な場所に連れて行くわけがない」

「過保護だな」


 舌打ちをする。


「エーリッヒさま」

「なんだ」

「魔女とは、狡猾なる者です。

 誰にも忠誠を誓わぬ者です。

 ただ、己の欲望にのみ忠実な者の事です」

「何が言いたい」

「くれぐれも選択を間違わぬよう。…つまり、魔女をパーティに連れ出そうと無理じいするなんておすすめしませんってことです」


 ちちち、と指を振る。

 エーリッヒはげらげらと笑うと、言い放った。


「一国の王子を脅すだなんて、お前が魔女で、俺の友人ではなかったらとっくに首を刎ねられていたぞ」


 フン、と鼻を鳴らして答えてやる。


「うひひ。それは残念でしたね。あいにく私はそうですので」

「まあ、俺は王子だから権力があるんだ。命令だ。パーティに出ろ。母上が楽しみにしている」


 勝ち誇って言うエーリッヒに私は歯嚙みした。

 これだから王子だなんていう粗暴な人種はきらいなんだ。自分が一番だと思っていやがる。


「食べ物もたくさん用意した。きっと、お前の好物もあるぞ。貴族たちも来るからな。紹介してやってもいい」

「行けばいいんでしょ、行けば。紹介はしなくていいです」


 むくれて言うと、やっぱ子供だな、とエーリッヒが追い打ちをかけてきた。

 うるさい。

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