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十一話

 首都にようやくついたのは、その二日後のことだった。

 獣の襲撃を受けることもなく、ただただのんびりと道を進んだ結果だ。


「師匠! 見て、大きな街」


 荷馬車の屋根から赤ずきんが声を張り上げる。

 中にいた私は荷物の一つに腰掛けて、小窓から外を覗く。

 心地の良い風が初夏の香りを運んできた。太陽が眩しい。

 山間の盆地に広がる街は確かに圧巻だ。

 周囲の自然とから境界線を引いたようにして人間の住む区画が出来上がっている。この凹凸の激しい土地によくこれだけの人間が住もうと思ったものだ。

 その奥の小山の頂上には縦に伸びる大きな石造りの城が建っている。

 距離の離れた馬車からでも城下に広がる庭が確認できた。


 「中でおとなしくしていてくださいね」


 アーノルドの言葉で荷馬車の中に戻ってきた赤ずきんは、それでもこらえきれずに懸命に小窓から外を覗く。

 ちらほらいる見物人に向かって赤ずきんが手を振る。


「王都のお城とはぜんぜん違うね!」


 街を通り抜けながら、だんだん近づいてくる城を前にした赤ずきんの感想だ。

 赤ずきんの言う王都とは、こちらではなくブランシュ王国の方だろう。

 たしかに全然違う。

 こちらの城は縦に伸びている分、どこか威圧的だ。石造りなのもそれに拍車をかけている。

 威圧的で、堅牢だ。

 実際、見た目だけではなくて、有事の際には要塞として使えたのだろう。技術が発達した今でも、その名残として城の周りには掘りがある。城門の前には持ち上げ可能な橋がかかっている。


「こっちの城のがだいぶ古いんだ」

「へえ…、おっきいなあ」


 馬車がその橋を通過する。

 広い中庭に出た。


「ブランシュ王国の騎士の方々。ようこそいらっしゃいました」


 出迎えた位の高そうな男が優雅にお辞儀をする。

 かくしゃく、と音がしそうなその動作は、どこかマリオネットのようだった。




* 

 半円の柱を交叉するようにしてその空間は作り出されていた。

 大広間として使われているその部屋は、直接日光が城を照らしていても、石に囲まれているお陰で大層涼しい。


「よくぞ参られた」


 玉座に鎮座する王が、重々しく口を開いた。


「王子をお祝いしにきて下さった事、とても嬉しく思います」


 隣に座る王妃が花が咲きそうなほど、あでやかに笑う。

 彼らは万人が思い描く王と妃のイメージ、それをそのまま体現している。

 王と王妃を前に騎士団たちは膝をついて、彼らに敬意を表す。

 私と赤ずきんも最後尾にひっそりと参列しているが、そろそろ足が痛くなりそうだ。

 ローブで足下は見えていないから、こっそり腰を下ろしても分からないかもしれないが、ばれたら大変なことになってしまう。


「陛下と王妃様もますますご健勝のご様子で」


 アーノルドが口を開いた。貴族だからというより、むしろ、彼はこれをこなすために来たのだろう。


「ときに…、」


 決められたような定句通りのやり取りののち、おもむろに王が口を開いた。


「そなたたちの中に魔法に長けた者はいないだろうか?」


 場が一瞬、ざわつく。

 機械の国が魔法に頼るなどと、という言葉が聞こえたが、すぐにマリオネットに似た男が場を一括して収めた。どうやら彼は身分の高い男らしい。

 アーノルドは先ほどより、いくぶんか考え込む素振りを見せた後、振り返り、勢い込んで私を指し示した。


「はい、それでしたらこの者が。先だって、魔獣の襲撃を受けました折もこの者が活躍をしまして、そのお陰で我々は無事にここまでたどり着けたのでございます」

「ほう。それは頼もしいな。名はなんという?」

「ソルシエールでございます」

「…ほう」


 アーノルド。なんで、お前が答える。


「それはいい。ぜひ話をきかせてもらいたいものだ」


 いやだ。

 厄介な流れだ。

 これ以上の仕事はいらない。

 とはいえ、これがチャンスかもしれないのも確かなのだ。王が私に何をさせようとしているかを知る手がかりになるかもしれない。あの王がたかだか石一つのために魔女を脅して、わざわざ契約なんかをするはずがないのだ。石は建前で、これが本来の目的である可能性は充分にある。だとしたら、話を伺わなければ先には進めない。

 それに相手は他国の国家権力である。この公の場でヘタな事を言って、ブランシュ王国の立場が危うくなるのもいやだ。イヤミな王にあとで何を言われるかわかったものではない。

 でも働きたくない。

 やっぱり断ろう。

 なにせ、依頼はあくまでも『石探し』なのだから。


「しかしながら、」

「はは、慎んでお受けいたしましょう」


 アーノルドがきっぱりと言い切った。


「それは良かった。後で遣いをやろう。ブランシュ王国のたぐい稀なる魔女よ」


 この親父。

 『ブランシュ王国の』という所に強調がついた言葉に、騎士たちは目を輝かせている。いや、見えないけれど、どんな顔をしているのか想像がつく。褒めてくれるのが王ならだれでもいいのか。

 本人の意志を抜きにして話が進んでいく。当人もその場にいるのだが。いったい、どうなっているのだろう。

 しかし、この空気に逆らう勇気は私にはない。

 もうやぶれかぶれだ。


「かしこまりました」


 従順な奴隷のように頭を下げる。

 仕事人間やっほう。


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