一話
爽やかな朝である。
かん高い鳥の唄が、国の外れにある街に太陽が昇った事を告げる。
木骨造りの建物や、街のまん中に走る穏やかな川がその光に照らされる。
おとぎ話なその街に、香ばしいパンの香りが満ちた。
そこに暮らす鉱石掘りの小人たちや、カフェの女給たちが香りにつられて目を覚ます。
人々が、それぞれに活動を開始する。
ところが。
町外れに一軒、木造の粗末な小屋がある。
こじんまりした二階建ての小屋で、道路に面した側にネコの額ほどの畑がある。野菜の他にハーブなども植えてある。すこしばかり奇異なのは、本来屋根の上に乗っかっているべき風見鶏が、まるで郵便受けの代わりだ、とでもいうように地面に刺さっていることだ。ちょうど大人一人分くらいの高さの、その風見鶏の首の部分には麻で木板がくくりつけられ、『魔女の家』とだけしるされていた。
ここにはパンの香りは届かない。
もっとも、その家の持ち主は、パンの匂いを嗅いだ所で目を覚ましたりはしないだろう。眠ることに貪欲なのだ。
なにはともあれ、その小屋の持ち主たる『魔女』は眠っていた。街の人たちも慣れたもので、こんな早朝には頼み事をしにやってはこない。火急の用でもないかぎりは。
魔女の寝床は、小屋の二階にある、寝台と鏡が置いてある簡素な部屋だ。そこでふとんにまみれて眠っている。
魔女だからしわくちゃの老婆と思うことなかれ。
見た目だけなら、少女と言ってもいいくらいだった。
背丈も小さく、子供のように手足は細い。
今はその小さな体を丸めて眠っている。
時の音を告げる教会の鐘が響いても眠っている。
小人が仕事に出発しても眠っている。
その眠りが覚めたのは、生え変わり前の大きな角を持った雄鹿が力任せに、木製の玄関を打ち破った時だった。
あまりの衝撃に、たてつけの悪いドアは蝶番ごと外れ、内側に倒れ込む。
雄鹿は鼻息も荒く、ふん、と息をつくと、悠々と中に入り込んだ。続いて、小兎やリスが鼻をひくひく鳴らしながら、跡につづく。最後に入ってきた野ネズミは空中に漂う薬香に鼻がくすぐられたのか、ネズミらしい小さなクシャミをした。
小屋の主人はと言うと、自宅がギシギシと歪む音に、目を緩慢にしばたかせ、体を起こそうとして身じろぎをする。
寝台に広がるいかにも適当に切りそろえられた黒髪が、魔女の動きに合わせて波打つ。
なにが起きたのか。
階下に様子を見に行こうと、寝台から這い出ようとして、ずり落ちた。
お腹を床に打ち付けた痛みで、ようやく頭も体も目覚めたのだった。




