4月1日 夜
今夜もテントで広美と二人きりになった。
昨夜と違うのは、広美が僕の方を向いて寝ているということだ。
吐息は当たらないが、寝息は耳の中に直接届いている感触がある。
本来なら感じられるはずのない振動だ。
それはでも、単なる錯覚かもしれない。
とにかく眠ることにした。
昨夜ほどの緊張はない。
それは前日に綾ちゃんへの思いを確かめられたからだろう。
届かぬ思いでも、気持ちは変わらなかった。
好きでいることだけで、幸せな気持ちになれる。
僕にはそれだけで充分だった。
それ以上、何を望むというのだろう?
綾ちゃんがいる、ただそれだけで満ち足りた気分になるのだ。
この気持ちを、誰が否定できようか。
好きになることは、誰にも止められないことだ。
綾ちゃんが迷惑だと感じない限りは、思い続けていたいと思う。
女子とテントで二人きりだというのに、そんなことばかり考えていた。
これではせっかくのシチュエーションが台無しである。
やっぱり僕は役者に向いていないのだろう。
それでもいい。
僕は綾ちゃんが立つ舞台をこしらえる方が好きだからだ。
それよりも早めに起きて、ユウ君と朝釣りをしたかった。
もう、考え事はやめよう。
夜中に目を覚ますには、眠りを浅くする必要がある。
仰向けで眠れば、眠りが深くなることはないだろう。
早く眠りに入るコツは、意識的に寝息を立てることだ。
自分でも意識が途切れるのを感じることができる。
今日も熟睡してしまいそうな感じだ。
それならそれで構わない。
どうでもよくなったら、それが眠りの合図だ。




