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壱 1初めての外と文化交流

初めての外と文化交流



 ここに来て、早数日。

 今日こそは初日に立てた予定を実行しようと思う。


 日が昇ったのを確認して、薔薇の刺繍が施された黒いワンピースと、薔薇のコサージュが付いたリボンと靴をクローゼットから取り出して着替え、服装を整えた。


「よし。あと他にも準備して、昼前には出発かな」


 今日こそは、街に散策しに出るぞ!



★ ★ ★



 森の中、しかも異世界というイレギュラーな状況なので、まずは装備を確認することにした。

 多分だが、ゲームでよくある感じの「街の外は敵モンスターが活発」なんてことも考えられる。そうなると、何か身を守るものが必要だろう。あくまで予想だけど、備えあれば患いなしだ。


 というわけで、地下倉庫から発掘してきた短剣を、その短剣を吊るす為のベルトと共に腰に装備し、同じく地下倉庫で発見した水筒とお金らしき銀のコインと、念の為回復ポーションを肩掛け鞄に入れて持って、屋敷を出た。


 玄関ホールを抜け、門を開けて外に出る。屋敷から一歩出ただけで、何故か空気が少し変わったように感じたが、特に気にせず、あの車が一台通れそうな道があった方へ向かう。


「今更だけど、本当に異世界なんだなぁ。少なくとも、絶対日本じゃないよね」


 歩きながらもう一度辺りを観察していると、さっきは気付かなかったものが多々目に付いた。

 例えば、見たこともない木の実とか、それを持ってどこかへ去っていくリスっぽい小動物とか、見た目だけならもっと南国とかに自生してそうな花とか。


 ちょっと周りを警戒しながら歩いているとは言っても、それだけでこんなに色んなものに目がつくものなんだろうか。やっぱり冷静さか。余裕があるって素晴らしいな。

 ――なんて思っていると、突然なにかが目の前に飛び出してきた。


「……え、何これ。スライム?」


 姿を現したのは、なんだか緑の半透明で半円形の生物(?)だ。私がいることにビックリしたのか何なのか、飛び出したまま固まっている。

 と思ったら、いきなりこっちに突進してきた。


「うわぁ!」


 慌てて避けると、スライムは私の後ろにあった樹に激突した。なんかベチャッ。って音がした気がするけど、気にしないことにする。


 というか、これは攻撃して来たってことだよね? つまりは敵モンスターってことでいいんだよね? 倒していいんだよね?

 そう結論付けて、腰に吊った短剣を抜いて、形ばかりだけど構えをとる。


「RPGのチュートリアルみたいだな。初遭遇の相手がスライムってところとかさ」


 幸い、さっきの突進であまり動きが速くないことは分かった。あれなら運動が苦手な私でも何とかできそうだ。

 スライムがむにょんと動いて、再びこちらに突進してくる。それをまた避けて脇を通り過ぎたスライムに、振り返りざま振りかぶった短剣を突き刺す。


 ぶにょん。


「ひぇあ!?」


 音にするならこんな感じの感触が手のひらに伝わって、思わず飛びのいた。なんか変な叫び声が出ちゃったけど、そんなことはどうでもいい。それよりも。


「なにいまの…… すごいヘンな感触した……」


 あの何とも言えない、ぶにょんとした感触にちょっと引いた。これ、出来る限り早く倒したいな。


「そうと決まれば、先手必勝!」


 駆け出して、さっき短剣を突き刺したダメージが残っているのか、更に動きが遅くなったスライムに追い撃ちをかける。


「えい! てりゃ! この!」


 生き物(かどうか怪しいけど)なら、たいていは身体の中心に心臓があるものだろうという判断で、スライムの中心に向かって短剣を突き刺す。

 ぶにょぶにょん、と短剣越しに伝わってくる何とも言えない感触に耐えながら、六度目の攻撃。そこで変化が起こった。


『ピギィッ!』


「うわ!?」


 スライムから悲鳴のようなものが上がり、半固体状だったものがどろどろに融けて液体状になり、半円形は崩れて見る影もなく地面に染みこんでいく。

 驚き飛びのいて様子を見ていたら、スライムはそのまま水をまいた跡のようなシミと、小さな緑色の石を残して完全に消えてしまった。


「た、倒したのかな」


 まさか復活したりなんてしないよな? と、ちょっと警戒しながらスライムのいた所に残った石に近づいてみる。


 近づいても特に変化はなく、緑色の石も何の変哲もない。しいて言うなら、普通の石とは違ってちょっと透明感があるように見えるぐらいだ。


「これは、ゲームでいうドロップアイテムって、やつなのかな?」


 よく分かんないけど、そんなものだろうと当たりをつけて、手に取って見る。半透明な緑色の石は、特に何の異常もなく手のひらに収まった。


「うーん…… とりあえず、折角だから拾っておこう」


 もしかしたら売ってお金に出来るかもしれないし、と呟きながらスマホが入っているのとは逆のポケットに石を入れる。


「よし。この調子で街まで頑張ろう!」


 どうにかなりそうだと自信がついたので、その勢いのまま道を急ぐ。

 あ、町に着いたらどうするかも考えておかないとな。






 その後、短剣じゃなくて魔法で撃退すればよかったじゃん! と思い至って、またしても突撃してきたスライムを、今度は魔法で撃退したり。


 目的だった道に出たはいいけど方角が分からなくてスマホのマップを活用したり。


 カチューシャみたいにして結んでいたリボンが解けてしまったり…… って、リボンは別にどうでもいいか。


 とにかく、そんなこんなで結構歩いているのだけど。


「まだもう少し距離があるなぁ…… 今度からはもっと水とか用意した方がいいかも」


 道端の木陰で休みながら、スマホのマップアプリで確認する。街につくまであと二十分は歩かないといけないらしい。中々の距離だ。


 水筒の水を飲んで、ひと息つく。ここまで来るのにも二十分は歩いているので、大分足に負担は掛かっていた。スニーカーではなくパンプスのような革靴っぽいものだったのも、理由かもしれない。


「ま、だいたいの距離とかかる時間は解ってるわけだし、頑張って行くか」


 気合いを入れ直して、水筒を仕舞い立ち上がる。どっちにしろ食糧を買わないといけないんだから、頑張って歩かないとな。


「ん?」


 また道に沿って歩き出そうとしたと同時に、後方から聞き慣れない音と聞いた事がある音が同時に聞こえてきた。どちらもこっちに向かっているらしく、音は段々近付いていた。


「これ、なんだろ? 台車の車輪みたいな音と、動物の足音みたいな音がするけど……」


 気になって立ち止まり、後方を振り返って見る。と、こっちに向かって来るものが見えた。


「あれは…… 馬車、かな?」


 二頭の馬の後ろに大きな荷台。よくアニメなんかで見かける馬車そのものが道の真ん中を歩いていた。


「あ、邪魔になるか」


 前世では見ることのない珍しさについ呆然として見つめてしまったが、今私が立っている場所は馬車の車輪の位置と一致しているから、このままここにいたらとても邪魔だろう。

 道の端に寄って、一応馬車が通り過ぎるのを待つことにする。正直な話、馬車を間近で見てみたかったしな。


「(にしても立派なものだなぁ。これが普通なのか、それともこの馬車の持ち主が裕福なのかな?)」


 この世界の平均も一般も知らないから解らないけど、そんな私から見ても立派な馬車だと思うぐらいにはいい馬車なんだと思う。


「(なんにせよ、乗り物に馬車があるって知れたのは収穫だな)」


 そんな事を確認している間に、馬車は目前まで来ていた。

 ガラガラと音を立てる馬車を見ていると、何気なく「やっぱり乗り物があるっていいなぁ」とぼんやり思う。


 別に歩くのは嫌いじゃないし苦でもない。でも、せめて自転車みたいな長距離移動に便利なものぐらいは欲しいものだ。


「これを売ったら、そういう乗り物がないか調べてみようかな。というか、考えてみると色々と調べなきゃいけないことって沢山あるよね」


 はぁ。と小さくため息をついて、ポケットからスライムが落とした緑色の石を日に翳してみる。太陽光がよく当たるかどうかの違いだけで、透明度が段違いだ。まるで全くの別物のようにも見えるのだから、ただの石じゃないのかもしれない。


「(かもしれないってだけで、価値があるかは分かんないけど)」


 せめて二、三日分の食糧が買える程度の金額にはなってほしいなと、切実に思う。生活の為にも資金はいるしね。


「その辺も含めて、街で色々と散策しないとね」


 再び石をポケットに仕舞い、街に向かって歩き出した。



 あの後、周りの見たことのない植物だの生き物だのを観察したり、再度登場したスライムを魔法で撃退したりしつつ歩いていると、関所みたいなところが見えてきた。


「あれが街…… なんだよね? やっと着いたのか」


 結構な距離を歩き通したからちょっとばかり足が疲れた。今度から【フライ】で飛んでこようかな。飛行補助のアーティファクトも作って飛べば、魔力過剰使用で疲れることも早々ないだろうし。


「うん。今度からそうしよう」


 でも、人目に付かないように、森の中での移動限定にしとくかな。目をつけられるのはいやだし。



   ★ ★ ★



 関所には甲冑を着た男性が二人ほどいて、門の両脇に立っていた。おそらく門番なんだろうな。いや、警備兵って言うべきか?

 取り敢えず、街に入るには関所で手続きとかがいるんだろうし、まずは訊いてみるか。


「あの、すみません」

「ん? なんだ、見ない顔だな。旅人か冒険者か?」


 甲冑を着た二人の片割れが応えてくれた。人好きのする笑顔で、中々フレンドリーな雰囲気がとっつきやすそうな人だ。

 つか、冒険者ってなんだろう。旅人となんか違うんかね。


「ついこの間移住してきた者です。森の中に廃棄されたらしい屋敷があったので、そこで住まわせて貰ってます」

「ほぉ!? そうなのか!」

「最近ようやく落ち着いてきたので、そろそろ近隣の森や街の散策をしようと思って」

「そうかそうか。なら、まずは通行証を発行してもらわないとな。そこで受付てるから」

「わかりました。ありがとうございます」


 正確にいうと初日で大体の掃除やら何やらは終わっていたし、そもそも異世界からの移住者だけど、それをわざわざ言う必要はないしな。

 しかし意外とサクサク進むな。もっと怪しまれたりしないか不安だっただけにホッとした。


「でも、これって毎回手続きいるのか? それとも一回発行したらそのまま使えるのか? そのへん訊いておかないとだな」


 さて、さっさと進めますかね。






 通行証の発行は案外あっさり終わった。単純に紙に名前と年齢、種族、出身国などを書いてカードをもらうだけだったし、書けない・書きたくない場合は空欄でOKというユルさだった。


 ついでに色々と質問してみたら、どうやらこの通行証はこの街でのみ使えるものらしく、ただ関所を通った証明みたいなものらしい。


 ちなみに、この通行証の有効期限は一月。その一月の間に移住なり、冒険者ギルド所属なり、商業ギルド所属なりと、どこでも身分証明に使えるものを手に入れるのが普通なんだとか。このどれにも当て嵌まらないのが旅人で、犯罪を犯したものは盗賊、という風に分けられている。


 要するに、前世で言うところのビザみたいなものってことかな。で、冒険ギルド・商業ギルドなんかで

発行されるカードは身分証明書兼パスポートってとこかな? 多分。


「とにかく、することは決まったな。身分証明のためにもギルドカードを作ること」


 そのあと、スライムから出てきたアイテムが売れたらご飯にでも行こう。

 ――売れなかったらどうしようかな……。


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