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壱 8 【イディオム】と考察

かなり久々な上に長くなりました。今回は魔法に関する話。

   【イディオム】と考察




 外観通り、結構な広さのある馬車に乗り込み、膝にアキトを乗せて一緒に乗り込んだウルカさんと向き合う。

 切れ長の目に、スッと鼻梁の通った凛々しく涼しげな顔は整っていて、改めて凄いイケメンさんだと思う。いや、どっちかというと美人って言った方が合ってるかも。


「スノウ殿? 私の顔に何か?」

「え!? いえ、何でもありませんよ!?」


 ついついジッと見つめてしまって怪訝な顔をされてしまった。気をつけねば。

 改めて気を引き締めると同時、膝の上でお座りしていたアキトがこっちを見上げてきた。


「〈スノウ~。僕眠くなって来ちゃった。寝てもいい?〉」

「え? ……あぁ、そっか。うん、いいよ。お休みアキト」

「〈うん。おやすみなさ~い……〉」


 如何やら慣れない馬車の揺れが揺り籠みたいになってしまったようだ。

 目をしょぼしょぼさせて膝の上にくてっと力なく寝転がったアキトは、そのまま「くふー」と小さく鳴いて、いくらもしないうちに夢の世界へと旅立った。寝付くの早ッ。


 一応、異常がないかコッソリ【スキャン】で確認する。【スキャン】の便利なところって、使っても傍からは魔法を使ったっていうのが判らないところだよねぇ。

 特に異常がないことを確認して、アキトが起きないように数回背中を撫でてやる。夢現でも感触は判るのか、また「くふー」と満足そうに鳴いた。

 まだ仔犬だから疲れたんだろうな。もう爆睡だわ。


 そこまで見届けて、待っていてくれたのだろうウルカさんが話を切り出した。


「スノウ殿、作戦についてお話したいのですが、よろしいですか?」

「はい、大丈夫です。で、作戦とは?」

「端的に言えば、貴女に後方支援部隊と共に、援護をお願いしたいのです」


 ザックリ言うと、私がするのは盗賊団の頭領を確保する部隊の後方支援に協力することだという。その際に危険がないように、ウルカさんが私を守ってくれること、戦闘には参加せず、魔法が使えるギリギリの範囲から援護してくれればいいとのこと。


 何より一番の仕事は、突入部隊と共に行動する後方支援部隊と共に、【イディオム】の使い手である盗賊団頭領を【スリップ】で無力化することだ。


 アジトの場所は岩山の中腹、そこにある洞窟の中。下っ端が吐いた情報によれば、規模は百~百二十ほど。その中で【イディオム】が付与されたアーティファクトを持っているのは二十人ほどらしく、盗みに出ていない時は大抵アジトを守る見張り役をやっているとのこと。


「今更ですけど、本当にあんな転ばせるだけの魔法で【イディオム】とかいう魔法を無力化できるんですかね?」

「今まで、騎士団の誰がどんな魔法を使っても通用せず、捕縛しようにもまるで見えない壁に邪魔されるように攻撃が防がれたり、一瞬で遠く離れた場所に移動されたりと、手だてがまるでない状態でしたからね。今回、貴女の魔法が初めて奴らに通用した魔法なのですよ」

「ふーん…… ん?」


 ウルカさんの説明に、思わず首を傾げる。あれ、複数の現象が起こってるってことは、【イディオム】って複合魔法なの? 無効化じゃなく?

 ……ちょっとこれは、確認しておくべきかな。


「あの、【イディオム】とかいう魔法で、具体的にはどういう現象が確認されているんですか?」

「……もしかして、団長から何も聞いていないのですか?」

「え、【イディオム】に関して具体的なことは分かっていないって言われたんですが……」


 あれ? まさか私、嵌められたんだろうか。いやでもそれにしては対応が現在進行形で丁寧だし。まさかね?


 なんて、一人内心で混乱していた私の耳に。低い、ひっくい声が届いた。


「――あの頭でっかちのウスラトンカチが。また忘れてやがったな」


 ……なんか禍々しいオーラがウルカさんから発生しているのですが!?

 つか、あれ? 口調変わってません? さっきまでの礼儀正しい敬語口調はどこ行った!?


「あ、あの、ウルカさん?」


 恐る恐る呼びかけてみると、ウルカさんは瞬時に発生させていたオーラを仕舞って、私に向き直った。あ、良かった。さっきまでのクールな美男に戻った。

 ホッとした私に、ウルカさんは淡く笑って見せた。おおう、何という美人オーラ。さっきの禍々しい怒り(多分)のオーラの後だからか、余計に美しさが際立っているように感じる。

 あまりの美しさに思わずドキッとするけど、そんなドキドキしている胸の高鳴りを吹っ飛ばす発言が、微笑みを浮かべたままのウルカさんから放たれた。


「あぁ失礼。団長がまたアホなミス…んんっ。重要書類の確認を怠っていたようで、つい」

「なんか聞いちゃいけない内部事情を聞いちゃった気がするんですが!?」


 というか誤魔化せてないぞウルカさん! 思いっきり「アホなミス」って言っちゃってるし!

 それどころか自分の所の頭が無能だってバカにされても言い返せないようなこと曝露してますけど!?

 案外毒舌なところがあるみたいだってこと以上にツッコミ入れたいよ! いいのかオイ!?


 ついつい反射的にツッコミ入れたけど、その実混乱しきりで何も言えなくなった私に、ウルカさんは淡く微笑んだまま更に続けた。


「いえ、別に大したことではないですから、お気になさらず。ただちょっと今回のことに関しては、後でキッチリと躾直し…… 失礼、問い質しておきませんと」

「躾直しって言っちゃってますから!」

「あぁ、そういえば団長も【イディオム】の詳細を知らないってことですよね。これも後で注意ついでに説明しませんと。――ちっ。いらん仕事を増やしよってからに」

「もはや取り繕うことさえしなくなった!?」


 麗しいまでの微笑みがいっそ恐ろしい。背後にブリザードが吹雪いている幻覚が見えるのは魔法なのか気のせいなのか。つか微笑んだまま舌打ちとか器用だな!? どうやったのさ!?


 思わぬ事態に、今までの敬語や何やらを放り投げて素のままでツッコミを入れてしまう。しょうがないじゃん、ツッコまずにはいられなかったんだもの、この唐突なボケ()に。

 けど、そんな私の反応にウルカさんはむしろエスカレートした。


「大体、あのうっかり団長は見た目や口調に反比例し過ぎなんですよ。こういったうっかりミス、これで何度目だ。あのジジィめ」

「いや、顔と口調は性格と関係ないと思うんだけど? つか、ジジィって言い過ぎじゃね?」

「おまけに協力して頂く方に満足な説明が出来ていなかったなど。騎士というものに不信感を持たれたらどうするつもりだったんだ、ボケジジィ」

「悪口が悪化してるし! あとそういう不信感云々はあらぬ誤解を招くと思うな!? 本人の前で言うことじゃないと思うな!」

「そうでなくとも、討伐隊の編成と準備自体が急なことだったというのに。団員に招集命令出すのに私とマルセルさんがどれだけ苦労したと…… あの脳ミソ筋肉ジジィが」

「更にグレードアップしたー!? というか聞いてた話と若干違うんですけど!?」


 出撃準備万端、いつでもどうぞ! ってバンバン伝わってくるような感じで言われた気がしたのに、実際はそんなに単純なことでもなかったとか。

 ……いや、よく考えれば当たり前か。今回のことは偶然私が私怨で首を突っ込んで起こった、突発的なことだった。なのに事前準備がなんの不備もなく出来てたら怪しさしかないわな。


 自己完結して納得したのと、粗方毒を吐いてスッキリしたらしいウルカさんからブリザードの幻覚が消えたのはほぼ同時だった。


「えっと、ウルカさん。その……」

「すみません、スノウ殿。こちらの不手際で余計な不安を抱かせてしまったこと、深くお詫びします」

「え!? いやいやそんなっ、私気にしてませんし頭を上げて下さい!」


 冷静になって話の続きを、と思って声をかけたら、頭を下げられて逆に慌てた。

 確かに不安は不安だったが、そんなもの吹っ飛ぶような衝撃の二面性? を見せられて大した精神的負担にはなってないし、特に謝られることじゃない。


 でもウルカさんにとってはそうでもなかったようで。

 深く頭を下げる姿にあわあわして、とにかく気にしていないし大丈夫だということを伝える。

 少し間をおいて頭を上げてくれたウルカさんにホッとして、やや強引に話を戻そうと口を開いた。


「あー…… じゃあ、取り敢えず話を戻しまして」

「あのすっとぼけ団長への抗議内容ですね」

「違いますよ!? 【イディオム】の詳細な説明と、私の具体的な動きと仕事についてです‼」

「解ってますよ、冗談です」

「いや、冗談に聞こえなかったですよ。顔も真顔だし」

「そうでしたか? まぁ確かに半分本気ではありましたけど、そういつまでも終わったことを引きずったりしませんよ」

「あ、あはは……(半分は本気だったんかい)」

 ……うん。もう笑うしかないよ。






「ではまず簡単な動きからですが、これといった具体的な指示はありません。基本的に私がその場で動きを見極めますので、その時々で臨機応変に対応します」

「要はウルカさんの指示に従っておけばいいってことですよね?」

「まぁ、平たく言えばそういうことです」


 アッサリと肯定されたけど、これって実力があるからこそ出来ることではなかろうか。なんて内心で呟くが、はたと思い至る。


「あれ、そうなるとウルカさんって、戦闘に参加しないんですか?」

「ええ。今回私は完全に貴女の護衛に徹するために、全指揮下から外れています」


 おおっと、これは中々思い切ったな。なんと大胆な。


 全指揮下から外れることで命令系統が乱れることがないってのも凄いもんだけど、これはそういう次元の話じゃない。

 いくら戦闘に参加しないとは言っても、魔法使いであり一応は冒険者、しかもアキトことウィングウォルフを連れているという時点で「自衛できるだけの実力は確実にある」って判断を下されて、護衛はここまで実力ありそうな、しかも結構な肩書きの人じゃなかっただろう。


 しかも、全指揮下に入らない=完全に個人の判断で動く、護衛に徹する=前線に出ない。ってことだと考えていい。

 彼がどれほどの実力者かは私には解らないけど、騎士団にとって痛手であろうとは思う。なんせ肩書きが隊長だ。隊を一つ任されているのは考えなくても判る。


 でも、私一人の為に、隊長クラスの実力がある騎士を一人専属で護衛に当ててくれたことには、申し訳ないと思いつつも安堵した。本気で安全確保に尽力してくれてるってことでもあるからね。


 しかし、遠距離からの援護か。正直、ちょっと不安がある。

 今まで屋敷の中でお試し程度に使っていただけだから、限界距離は把握しているけど、精度までは把握できていない。

 唯一、射撃系魔法のバレット系とランス系は、命中率と精度調整のために撃ちまくって慣らしたけど。


 でも【スリップ】を含め、主な用途が対人系の魔法はそうもいかず、人に見立てたガラクタなんかで距離感など感覚は掴めたものの、集団戦での活用となると、不安が残る。

 もし、間違って味方に発動してしまったら? もし、肝心なところで発動しなかったら?考え出したらキリがない。


「(それでも、やるしかない)」


 流されたと言えなくもない現状ではあるけれど、自分で協力すると決めたのは事実だし、盗賊にイラッとしたのも本音だし、何よりいい機会だった。

 この世界に来てまだ数日、しかも屋敷に引き籠りっぱなし。どう足掻いてもまだまだこの世界に馴染めていないし、感覚やら価値観は現代日本人のそれだ。今回のことはこの世界に馴染むためのちょっとした荒療治だと思って割り切ればいい。


 なんにせよ、もうここまで来たら腹を括るだけだ。


「……持てる限りの全力で期待に応えるつもりです。よろしくお願いします」

「こちらこそ。ご協力感謝します、スノウ殿」


 深い色を映すウルカさんの瞳は、真っ直ぐに私を見据えていた。どうやら、彼にも何かしら思うことはあるらしい。

 とにかく、やることはハッキリしてる。なら、後はやれるとこまで頑張るだけだ。






「あ、そうだ。【イディオム】に関して分かってることを教えてもらえませんか」


 すっかり忘れてたが、【イディオム】に関する詳細な情報を私はまだ貰ってない。

 言葉の意味がそのまま魔法の内容っていうのは解ってるけど、「イディオム」って言葉の意味が解んないんじゃ内容の推測なんて出来ないし。

 現状、解ってることと「イディオム」って語感からどうにか割り出すしかないんだよねぇ。

 

「ああ、そうでしたね。では、そちらの説明に移りましょう」


 ウルカさんも、「うっかりしてました」なんて小さく呟きながら、説明を始めた。


「奴らが使う【イディオム】という無属性魔法についてですが、解っていることはそう多くありません。ただ、目撃証言や実際にかかった部下からの話を総括して魔術師部隊の者たちが考えた結果、複合魔法である可能性が高くなりました」


 複合魔法。

 その名の通り、複数の属性魔法、又は現象を連続して起こせる魔法を呼ぶ。主なところで言うなら雷属性そのものがそれに当たる代表的なものだ。アレは光と風の二つがないと発動しないサブ属性だからな。

 ちなみに、同じような感じで木属性は土と光の、音属性は水と風の属性がないとそもそも使えない。何でこの組み合わせなのかは知らん。


 で、無属性には現象を複合して起こすものは意外と多い。今日使った魔法でなら【シールド】がそうだし、他にも無機物に複数の設定を組み込んで動かす【プログラム】とか、複数の有機物に任意の行動を二つ以上同時に起こす【ツインズ】とかもある。

 今回は無属性魔法だってことは解ってるから、属性は度外視でいい。


「複合魔法ってことは、何らかの現象、または行動の制限を受けるってことですよね? どんな感じだったんですか?」

「報告に上がっているのは、走れなくなる・武器を持てなくなる・詠唱ができなくなる。といったものが多かったですね。総括すると、「何かを禁止する」ことが【イディオム】の効果なのでしょう」


 つまり、今回の【イディオム】の場合は、概要的には多分【ツインズ】に近いようだ。

 けど、そうなるとまた別に厄介な問題があるんだよなぁ。


「禁止する…… それは、一度に複数の行動がですか?」

「ええ、はい。どうやら使い手が禁止したい行動を無制限に。ただ、「その場に居た者たちのみ」というルールはあるようです。応援に駆け付けた者たちには効果がありませんでしたから」

「なるほど。空間指定型の魔法じゃないってわけか」


 ちょっと安心した。これで【ツインズ】みたいに一つの魔法で複数の効果があるものだったり、【サーチ】みたいに効果範囲の対象が空間って魔法だったら、ややこしいことになってたところだ。なんせ対処が面倒くさい。

 とにかく、概要は掴めた。それに、今の話で何となく【イディオム】の具体的な内容も解った。私の記憶が間違っていなければ、だけど。


「(でも、それなら納得がいくんだよねぇ。【スリップ】が効いた事も、ほかの魔法が効かなかったことも)」


 予測の段階ではあるけれど、ほぼ間違いないと思う。【イディオム】は恐らく日本語で「意味」とか「熟語」とかのことだろう。多分だが。

 でもそう考えれば辻褄は合うのだ。具体的なことが解らなくても、これを仮定して考えると、全てに納得が行く。


 まず、「無制限に行動を禁止する」というが、地下書庫の魔法書を読み漁った私に言わせると、そんなもの不可能に近い。

 無属性魔法は別名を個人魔法と言われるほどに同じ魔法を使える者が少ないが、だからと言って使い手が必ず使いこなせるかと訊かれると、それは否だ。

 魔法を使うには必ず魔力が必要で、魔力量によって使える魔法の威力は左右される。言ってしまえば職業と一緒だ。どんなに知識があっても向き不向きで出来栄えに差が出来る。


 例外と言えば、私ほどの魔力量を持つ者、会ったことがないから断言は出来ないけど、例えばエルフとか。フェアリーを筆頭にピクシーとか妖精族とか。魔力量が高いと言われる種族や、魔法との親和性が高いと言われる種族なら大抵は使いこなせたり、無属性魔法を複数使えたりはするらしいけど。


 そして、魔法ってやつは魔力量で強弱が決まる。無属性魔法は特にその傾向が強い。

 つまり、まとめると「無属性魔法であろうと強力な魔法にはそれなりの魔力量がいる」ということだ。

 そして人間の場合、基本的に使える無属性魔法が一人一つという時点で魔力量が高いとは言い難い。ゲームのMPなんかで例えると、エルフ等が5桁、人間はせいぜい2,3桁程度だ。


 それを踏まえると、「複数対象に二つ以上の現象を起こせる魔法」とは結構高度なものと言えるのだが、例外的にある分類の魔法は「複数対象に複数現象」が基本形な場合がある。

 例えば【スリップ】は相手ではなく地面に掛ける魔法だし、【マルチプル】【アンコール】【エンチャント】など、物や魔法に重ね掛けするタイプもある。


 そして肝心の【イディオム】だが、コイツは恐らく【ツインズ】と同じタイプの「対象固定型魔法」だ。

 コイツはざっくり言うと「決まった条件下で予めプログラムされた事象を起こす」って感じの魔法だ。

 そして、「対象固定型魔法」であると仮定して、【ツインズ】と違って対象や事象が複数であることから、魔法の発動条件的なものが【プログラム】に近いと思われる。

 ちなみに、【プログラム】は無属性魔法の一種で、無機物に命令をプログラムして自動で動かす魔法だ。


 で、ここからが肝心なところで、【ツインズ】も【プログラム】も「文章」が鍵になる。

 命令や条件を明確にしないと発動しない魔法だし、逆に言えば細かい指定さえあれば結構どんなことも出来る。それでも相応の魔力量は必要だけど、MPギリ三桁あるぐらいの奴なら使いこなせる程度の魔法だ、大して難しいものじゃない。


 相手の魔法【イディオム】が「意味」とか「熟語」じゃないかと思ったのも、それが理由だ。意味を明確にした言葉、あるいは決まった熟語、特定の言葉なんかで発動する無属性魔法は結構多い。

 そして、【イディオム】が「対象固定型魔法」だとすると、その弱点は【ツインズ】や【プログラム】と同じ、「急な変更が効かない」「固定した対象以外には効果がない」の二つが言える。

 言葉にするとなんのこっちゃと言いたくなるが、簡単な話。「あらかじめ決めた対象以外は攻撃も防御も出来ない」ってだけの話だ。


 街で逃亡を邪魔する時に【スリップ】が効いたのは、もろにその弱点を突いた形になったからだろう。なんせ【スリップ】の対象は「盗賊」ではなく「盗賊が立ってる地面」なんだから。

 自分を守るようにかけていた「対象固定型魔法」では“対象外”から“間接的”に攻撃されても反応出来ないからね。


「(……と、地下書庫で得た私の知る限りの知識から考えられる結果はこんなものかな。ほぼ予想とか推測とか、根拠になりそうなものが無いから何とも言えないんだけど…… 状況的にニアピンなんじゃないかなぁ。クッソ、何でもいいから確信が欲しいわ)」


 そこまで考えをまとめて、内心で悪態をつく。今更ながら、もっと全力で逃げるなり何なりしとけば良かった。過去の行動が悔やまれる。

 長ったらしくなったけど、つまりは【イディオム】は「対象固定型魔法」で、有効な手段は間接的な攻撃だと思われるってことだ。

 以上のことを踏まえて、ウルカさんに説明するべく、憂鬱ながら口を開いた。


 あぁ、もう。本当に面倒くさい。



   ★ ★ ★



「なるほど。私は魔法の適性がありませんから詳しくは知りませんでしたが、そう考えると辻褄は合いますね」

「あくまで推測ですけどね。私だって独学で知識を身につけただけのひよっこですから、専門家のようにはいきません」

「いえ、たったあれだけの情報でここまでの分析が出来たことは凄いことです。王宮の魔術師にも引けを取らないと思いますよ」

「ウルカさんってお世辞が上手いね?」


 まさかの、専門家であろう王宮の魔術師にも引けを取らない、なんて賛辞の言葉に内心ビクつきながら、適当に言葉を返してお茶を濁す。こんな所でチートがバレたら目も当てられない。

 ウルカさんに適性が無いっていうのは驚いたけど、よく考えれば私が異常なだけで、魔法を使えるかどうかって先天的な才能やセンス次第だしね。


 取り敢えず、魔法での確保なら【アイスロック】や【ロックブレイク】なんかの間接的な魔法、物理での確保なら何らかの罠(確保主体のもの)を使うことをオススメしておいた。


 しかし、こうなると面倒なのはアーティファクトよりも【イディオム】の使い手の方だな。

 アーティファクトの性能は解らないけど、本来の使用者ならアーティファクトの使用者よりも魔法に融通が利くだろうし、バリエーションもあると考えて間違いない。

 魔力量で負ける気はしないけど、魔法使いとしてはまだまだ経験の浅いひよっこだからねぇ、私。


 ……でも、簡単に負ける気もサラサラ無いんだけど、ね。



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