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壱 6 騎士団長と盗賊団

   騎士団長と盗賊団



「この度は助力いただき、感謝する。あの者達は数か月前から騎士団が追っている盗賊団の末端でな。今回確保できたことで、ようやく壊滅に追い込めそうだ」

「お気になさらず。たまたまですし、この子のおかげですから」

「〈僕はスノウの使い魔だもん、当然だよ!〉」


 えっへん! って感じで胸を張り、「どうだ! すごいでしょ!」とアピールするアキトに癒されながらも、現状に内心でため息をついた。


 現在私がいるのは街の中に点在する騎士団の詰所、前世で言うところの派出所みたいなところでもてなされている。

 さっき私が転ばせてアキトが頭突きを見舞ったモブ盗賊共は、とある盗賊団に所属する三下だったそうだ。


 ここのところ街だけでなく国中を騒がせていたため、騎士団は対処に追われていたのだとか。騎士っつっても街の中だと警察だもんな、お疲れ様です。


 で、私が騎士団詰所にいる理由だが、目の前に座り私をもてなし礼を言った男性のせいだったりする。

 モブ盗賊共を捕まえたあと。逃げようとした私に、この男性、もとい騎士団長が声をかけてきたのだ。



   ★ ★ ★



――回想


 目が合ったからといって、律儀に何かリアクションを返してやる義理はない。

 ということで、スッと目を逸らしてその場から退散するべく踵を返したのだが。


「待ってくれ、そこの黒犬を連れた魔女よ」

「……はい、なんでしょう」


 正に「魔女」と呼べそうな出で立ちに、黒犬もといウィングウォルフを連れている私以外に、そんな呼ばれ方をしそうな人影はこの周辺に存在しない。

 仕方なく、嫌々ながら、遠ざかろうとした足を止め振り返った。


 こちらに寄って来る男性に、アキトが喉を鳴らして唸り、威嚇する。それを宥めるように撫で付けて抑えながら、目の前に立った男性を観察した。

 見るからに騎士といった格好で、こげ茶色の髪にブラウンの瞳、整った眉目秀麗な顔は厳つく男らしい。正に歴戦の騎士とでも言おうか、そんな風格が感じられた。


「この者たちに魔法を使い、捕縛に協力してくれたのは貴女だろう。騎士団長として礼がしたいのだが」

「お気になさらず。ただ偶然見かけたからってだけですし」

「いや、それでは我ら騎士の士道に反する。是非とも礼をさせてくれ」

「気持ちだけで充分ですから、お構いなく……」


 どう言っても引いてくれなさそうな態度に、内心どうしたもんかと頭を抱える。

 別に計算も下心もなく、本当に目に入ったからつい首を突っ込んだだけなわけで、お礼をされるほどじゃない。バイト学生時代に「万引き滅べ‼」と全力で叫んでいた時期があった身としては、ごく当然のことをしただけだと思うし。

 何より、これ以上目立つ真似はしたくない。今更かもしれないけど。


 どうやって逃げ切ろうかと考えていれば、唐突にアキトが吠えだした。


「〈お前、何かスノウに隠してる! スノウに何する気だ‼〉」

「ちょ、アキト!?」


 驚いて強めにアキトを呼ぶ。いきなり何を言い出すんだ、この子。

 騎士団長だという男性が目を丸くしてアキトを見ているのは、言われた内容にか、それともアキトが喋ることにか解らない。けど、そんなことは一切気づかないアキトは、止まることなく尚も言い募る。


「〈だってスノウ! コイツ噓つきの匂いがした! 僕にいじわるした奴らとおんなじ匂い! 絶対何か隠してる!〉」


 それを聞いて少し悲しくなると同時に、警戒も増す。きっと、アキトのこの直感とも言える嗅覚の鋭さは本物だ。そういう負の感情や裏があることに敏感になることで自分を守っていたんだろう。

 逆に言えば、そういったことに敏感になるほど、そういう悪い感情を向けられることが当たり前だったとも言えるから、出来ればこんな幼そうな時期からこんなに過敏になって欲しくはないものだけど。今更そんな事言っても仕方ないしね。


 なんにせよ、ここは穏便に波風立てないように且つ、素早く要件を片付けてしまおう。


「アキト。大丈夫だから、少し静かにしてて」

「〈!? でも、スノウ‼〉」

「大丈夫だから。ね?」


 とにかくさっさと話を進めて帰ろうと決めて、アキトを宥める。かなり渋られたし「不満です」と言わんばかりの雰囲気を滲ませたままだけど、一応は言う事を聞いてくれた。

 そんなアキトの様子に苦笑してしまうが、私を心配してのことだし気にしないことにする。

 アキトが大人しくなったタイミングに合わせて、騎士団長が話を再開した。


「何やら警戒させてしまったようだが、我らは決して、貴女たちに危害を加えるようなことはしない。ただ本当に礼がしたいだけなんだ」

「……さっきから別に構わないと言っているのに引き下がらない理由は、何なんですか?」


 どうにもしつこい上に、アキトの発言もあったので、もう直球で斬り込んで行く。

 その直球な発言に、騎士団長の眉がピクッと動いたが、反応はそれだけで特に変化は…… いや、


「(ちゃんと話す気になったか)」


 さっきまでと違い、目が真っ直ぐに私の目を見た。そこに、何かを決心したような色が見えて、これなら大丈夫かなと肩の力を抜く。

 アキトにもそれが解った、というよりは肩に乗っているから直に伝わったというところか。不機嫌そうなオーラが少しだけ和らいだ。

 アキトの様子が変わったからか、騎士団長も話を切り出した。


「貴女の魔法の腕と、使い魔の黒犬の力を見込んで、どうか協力して欲しいことがある。共に来てほしい」


 まさかの本格的なフラグが立った。

 正直、拒否してサッサと逃げ帰りたいけど…… うん、無駄っぽいな。騎士の皆様もこっちに注目してるし。


「……わかりました。話を聞いてからでよければ」

「構わない。感謝する」

「〈スノウ、いいの?〉」


 まだ騎士団長を警戒しながら、心配そうに私のことを伺うアキト。その小さな頭を撫でる。


「いいの、いいの。こういうのは逆らわない方が早く解決するからね」


 こっちとしては、あくまで向こう側がどうしてもと言うから妥協しているのだし、どんな内容が飛び出して来ても、最終手段・魔法で切り抜ける。で何とかしてしまえばいい。


 それに、実を言うとここで「騎士団」っていう警察的な組織とパイプを作っておくのは悪くない。なんかあった時の為にも、いい意味で関わりを持っておくのは悪いことじゃないだろう。


「そうだ、自己紹介がまだだったな。私は騎士団長のレオン・バレストだ」


 話がまとまったところで、騎士団長が思い出したように名乗った。


「スノウです。マキシマ=スノウ」

「〈アキトだよ〉」


 自己紹介を終えて、騎士団長もといレオンさんに先導され騎士団の方々に付いて行く。


「(しかし、こういうのって結構パターン考えられるけど…… とにかく全属性持ちだって事がバレないようにだけ気を付けないとな)」


 これからのことを考えてヘンな不安とプレッシャーと感じてため息をつきそうになるが、寸での所で吞み込んで、心配そうに見つめてくるアキトを腕の中に抱え込んだ。


 あぁ、モフモフに癒される……。


――回想終了






 そういうわけで、今現在おもてなしされているわけなんだけど、正直な話、ここからが本番である。


 ちなみに、捕まえたモブ盗賊共はここに着くなりどこかへ引きずって連れていかれた。多分、牢屋か何かに連れていかれたんだろうな。情報を引き出す為に尋問にかけたりするんだろう。まぁ、そんな事は私には関係ないので、出された紅茶をありがたく頂いた。

 一口飲んで喉を潤す。うん、美味い。やっぱりコーヒーより紅茶だな。


「スノウ殿、折り入って頼みがあります」

「話だけなら聞きます。判断がその後でも構わないなら」

「ええ、構いません」


 レオンさんが改めて口を開いたので、しっかり前置きして釘をさしてから本題に入った。


「盗賊団、【骸骨の棺】の殲滅に、貴女の力を貸して欲しい」



   ★ ★ ★



 ここ最近、この街を含み、国を騒がせる盗賊団がいる。


 その名も【骸骨ノ棺】。名前こそ中二病全開でアレな感じではあるけど、そのふざけた名前とは裏腹になかなか厄介な盗賊団らしい。

 それと言うのも、如何やら盗賊団の首領が厄介な魔法の使い手な上に、更に厄介なアーティファクトを持っていることが原因なのだとか。


 被害は貴族・庶民に関係なく、かなりの数に上っていて、国も総力を上げて盗賊団の壊滅に尽力しているし、騎士団に所属する騎士たちも日夜警備を強化してと、対策を講じている。

 しかし、その厄介な魔法とアーティファクトの力で毎回完璧に逃げ切られてしまい、捕まえることも情報を得ることも難しかったのだという。


 今回、私が【スリップ】で逃走の妨害をしたことで、ようやく末端といえども情報が入った。これで拠点の場所でも分かれば、騎士団から討伐隊を編成して潰しに掛かるそうだ。


 で、レオンさんからの頼みというのは、この討伐隊に同行して、盗賊団の捕縛及び討伐に協力して欲しいということだった。

 何で私にその話をしたかって言うと、街で盗賊共をすッ転ばせた魔法をまた使ってほしいっていうのと、もし何かあってもアキトという強力なボディーガードがいるからだとか。まぁ確かにアキトがいれば、急な不意打ちでもさっきのように守ってくれるだろうな。


 しかしそれにしても、だ。


「どこの誰とも知れない私に協力を願わなくても、騎士団や国に所属する兵士なんかに、対策が取れる人は居なかったんですか? それに、厄介な魔法って言いますけど、具体的にはどういった魔法なんでしょう」


 一応、ザックリとだがこの街に関しても情報は集めてるからこそ、とても不思議だった。


 この街が存在する国・ルメール王国は、現在この世界に存在する十五か国の中で二番目に魔法が発展している国だ。だからなのか、軍人や騎士にも魔力量が高い人が多く、宮廷魔術師という魔法を研究する専門職の人も有能な人材がかなり多いのだとか。


 そしてこの街・レレンセは王都から離れてはいるものの、流通の便が良く、騎士団員も結構人数がいるし、剣の腕があるとか魔法に秀でているとか、何かしら優秀な人材が多いらしい。


 そんな風に言われているここの騎士団が、わざわざ私みたいなどこの誰かもよく分かっていない奴に協力を求めるってのは、結構変な話だと思う。

 けどそれは向こうも解っているみたいで、私の質問にレオンさんはアッサリ答えた。


「確かに、我が騎士団にも魔法に明るい者は多くいるし、貴女が疑問に思う気持ちも解る。だが、先に結論を言うと、奴の魔法【イディオム】に対処出来た者は一人もいない」

「【イディオム】?」


 それって確か日本語で「無効」って意味じゃなかったっけ。英語嫌いだったから、ちょっと自信ないけど。

 というか、屋敷にある魔法関係の本は結構読みつくしたはずだけど、そんな魔法記憶にないぞ。どこにも載ってなかったのか、私が忘れてるのか?

 アキトはそもそも「イディオム」って言葉の意味が解ってないのか、首を傾げるばかりだし。


「えっと、聞いたことない魔法名ですから、どういうものなのか推測できないんですけど」


 取り敢えず訊かなきゃ分かんないんだし、知らないものを考えたって始まらない。

 というわけで訊いてみたわけだけど、レオンさんは難しい顔で口を閉ざしてしまった。言えないって言うよりは、言いあぐねてるっぽいな。


 ……あれ、ちょっと待て。まさか?


「……スノウ殿には申し訳ないが、【イディオム】に関する詳細な情報は解っていない。確かなのは、無属性魔法であること、使い手が首領の男であること。この二つだ」


 予感的中。


「(まさかとは思ったけどさ。魔法を使われてもそれによって何が起こったのか理解出来てない、そして「イディオム」って単語の意味も解ってないと)」


 正直、妙だなとは思ってた。


 言葉は普通に通じるし、文字の読み書きも不便がない。言葉が通じるって部分はあの女の子の計らいかも知れないから判断材料には弱いけど、本とか看板とかの文字を見る限りだと、この世界の言語というか語学というかは、現代の日本語とそう差異はない。


 なのに、どうにも違和感を感じて仕方ない所がいくつかあったのだ。主に魔法に関してのみの話だが。

 どの魔法書を読んでみても、必ず現代日本ではそれなりに意味が通るカタカナ語や外来語があった。けど、普段日常的に使われるような単語じゃないし、呪文としての意味合いが強いからか、魔法書以外であまり見たことがない。そりゃあ理解不能具合に拍車をかけるだろうな。


 要するに、前世では当たり前のように存在し使われていた言語がここでは馴染みのないもので、しかもその馴染みのない言語が魔法を使うのに際して重要なんだという現実がここで明らかになったわけだ。あぁ、なんて面倒な。


 けど、これで彼からの依頼をどうするのかは決まったな。そうとなれば、まずはちょっと試させてもらおう。


「……詳細な情報もない。危険もある。更に言ったら、私は実戦経験が皆無に等しく戦力という意味ではほぼ役に立ちません。誰よりも私自身が足を引っ張るだろうと解っている以上、力に成れることはないでしょう。すみませんが、お断りさせてください」


 アキトを肩から膝の上に移動させつつ、そう言って頭を下げる。

 これは駆け引きだ。ここで向こうが私の望む条件を汲み取って、それでもなお協力を求めるのなら、力を貸すのも吝かじゃあない。この街とはこれから長い付き合いになる予定だし、治安が良くなるなら願ったりだ。


 でも、そうでなかったなら、この話はここで強制終了だ。持てる魔法全てを駆使してでもここから脱走を図るつもりだ。


 なんにせよ、私が言いたいことは「協力を求める限りこっちの身の安全ぐらいは確保しやがれください」ってことだ。

 正直、【シールド】があれば並大抵の危険は回避できるはずだけど、盗賊団が使うという【イディオム】という魔法の詳細が解らない以上、絶対はない。もし私が知る言葉通りの魔法だったなら、その効果はなんとなく予想できるし、最悪私は完全なるお荷物に成り下がる。

 こちとら冒険者といえど、成り立てほやほやの初心者だし、元々が戦争や凶悪犯罪とは縁遠い現代日本で生まれ育った一般人だ。


 仮にも街と市民の治安を守る事を仕事にしている騎士ならば、最低限の誠意ぐらいは見せてもらわないと。信用大事。

 だから、反応を見るためにキッパリと断りを入れてみた訳だが。さて、どう来るか……。


「……貴女の言いたいことは解った。しかし、こちらもやっと見えたかも知れない光明をみすみす逃すわけにはいかない」


 暫く固まっていたレオンさんがそう言って、私は顔を上げた。すると目の前には真剣な表情で私を見据えるレオンさんが。

 如何やら、私の言わんとしていたことはちゃんと伝わっていたようだ。

 レオンさんは綺麗に姿勢を正して、頭を下げた。


「貴女の身の安全は、我々が絶対に守ると約束します。どうか、盗賊団討伐に力を貸して頂きたい」


 ――ここまで言われちゃ、しょうがないか。


妙に難産だった……。しかもあんまり話が進んでない……。

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