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壱 5 依頼達成と窃盗犯

   依頼達成と窃盗犯



「〈ここがギルド?〉

「あぁ。此処で仕事が終わったって報告したら、今日はもう終わり。あとは買い物して家に帰るだけだ」


 仔犬モドキ、もといアキトを拾って、真っ直ぐ街まで戻ってギルドに直行した。帰りはどういうわけか全く魔物にエンカウントしなかったのが不思議だったが、楽だったのでまぁよしとする。


 ギルドに戻って、先ず最初に行くのは受付だ。サクッと納品依頼を終わらせて、早く必要なものを買い足さないと。

 そう思いながら、肩の上を定位置にしてすっかり落ち着いたアキトへの説明もそこそこに、足を急がせる。


 名前を付けてあげた瞬間、アキトはそれはもう喜んだ。小さな翼をパタパタと動かし、尻尾をぶんぶん振って、私の周りをぐるぐる回っていたのだから、その喜びは推して知るべし、というやつだろう。

 ちなみに、アキトというのは前世に実際にあった白薔薇から名前を貰った。理由は翼の色と直感だったけど、結構似合ってると思うから私としては良いネーミングだったと思ってる。


 ついでに、アキトが私を「〈ご主人!〉」って呼ぶもんだから、結構強めに「スノウと呼ぶように」と言い聞かせたりもしたが、それは割愛。


 で、そのアキトだが。魔物の類であることは間違いない。いや、言葉を解する知能があることを踏まえると、アキトは魔族の類だろう。魔物は言ってしまえば本能で生きる動物で、魔族は理性的な考えなんかが持てる種族だ。

 けど、そんな基本知識とメジャーな種族に関しては地下書庫の本で知っていたが、それ以外に関しての詳しい種族名とかはまだちゃんと調べていなかったし、正直ノーマークだった。


 だから、アキトに関しても魔族だということは分かるが、種族やなんやについては全く分からない。それを調べる為にも急いでいた。


 ギルドには図書館兼資料室があり、そこには沢山の図鑑や教本などがある。そして、ギルドカードを持つギルドメンバーはこの図書館にある本や資料を自由に閲覧出来る。


 しかも、冒険者ギルドとあって、魔族・魔物についてのもの、魔法に関するもの、サバイバル知識などといったものの資料が格段に多いそうだ。

 そんなギルドの図書館なら、アキトの種族に関しても分かるんじゃないかと思ったわけだ。


 屋敷に帰ってから地下書庫で調べてもよかったが、先天的な異常だという翼の色が、何らかの病気である可能性もあるので、念のため早く確認したかったのだ。


 そういうのを調べる魔法とかあればいいけど、今のところ類似した魔法は【スキャン】ぐらいしか知らないからなぁ。


「(ちゃんと情報があればいいんだけどねぇ……)」


 あぁ、もう。忙しないなぁ、本当にやること多いし。ってか、やること増えたし……。






「うちの屋敷の地下書庫ほどじゃないな」

「〈そうなの?〉」

 思わず呟いてしまった感想にアキトがキョトンとした調子で訊いてきた。

 いや、違うんだ。うちの地下書庫がオカシイだけで、ここも立派な図書館ではあるんだ。いや、本当に。世辞ではなく。


 受付でヒーリングリーフを納品して、すぐに図書館を利用したい旨を伝えたら、カードの提示を求められただけですぐに使用許可が降りた。防犯とか大丈夫なんかね。

 疑問に思いつつも、二階そのものが図書館だというので二階に上がると、学校の図書室にあるような貸出カウンターがあるのが目に入った。ちゃんと管理はされてるってことか。


「〈凄いねー! 森じゃないのに木の匂いでいっぱい! でも、ちょっと知らない匂いもいっぱい〉」


 ああ。そういえば紙って木で出来てるよな、確か。知らない匂いっていうのはインクのことだろうけど。そういえばインクって何で出来てたっけ。


「図書館っていって、色んな事を知ることができる場所だよ。といっても、知りたいことが絶対に分かるってわけでもないんだけどね」

「〈ふぅん。凄いところなんだねー〉」


 解ったのか解ってないのかよく判らん感想を貰ったが、取り敢えずは魔族に関する本を探すことに集中する。といっても、【サーチ】で一発だけど。


 目的の本を手に、読書スペースと思われるテーブルの席に腰を下ろして本を開いた。

 アキトも本に興味があったのか、肩から降りて開いた本を覗き込む。


 魔族について図鑑のように書かれた本は、ありがたいことに姿絵つきだ。ヴァンパイアやらダークエルフやら前世でもメジャーだったものから、ちょっと聞いたことがない名前もあった。


「えっと、アキトの種族っぽいやつは…… え、もしかしてコレ?」


 パラパラとページを捲ってそれらしい絵を探していれば、案外あっさりと見つかった。

 見つかったが……。


「――この解説書きがマジなんだったら、アキトってば超高位魔族じゃん……」

「〈?〉」


 呆然とする私の気も知らず、アキトは普通の犬のように可愛らしく、キョトンとした顔で小首を傾げていた。






 魔族には、大別して魔人と魔獣の二種類がある。単純に人型か獣型かという違いだ。

 その中で魔族には魔族の社会的ルールやら階級なんてものも存在していて、魔人・魔獣共に階級はそのまま強さだ。


 そして、人間はその階級や強さを「レベルランク」というもので表している。レベルは下から順に

  C→B→A→AA(ダブルA)→S→SS(ダブルS)

 の六段階だ。魔族側では違う言い方があるらしいが、人間側では犯罪を犯した魔族の討伐などの事態に使われる程度で、基本魔族も人間と大差なく、レベルランクも一般的には冒険者ギルドのランクと同程度の意味しかない。


 しかし、魔族社会ではそうもいかない。ランク=階級と言えるからだ。


 そしてこのランク、魔人も魔獣もごった混ぜだったりする。何でなのかはよくわからんが。

 つまり、そのランクが高ければ高いほど強く、階級も高いということだ。いうなれば完全なる縦社会、中世ヨーロッパもビックリな貴族上位の階級制社会だと言える。


 とまぁ、長々と魔族について整理したが、肝心のアキトについてだ。


 魔獣は結構どのランクにも万遍なく種族がいる。中でも有名どころはドラゴンなんかがあげられるだろう。


 アキトも魔獣なのは間違いない。ならきっとレベルランクもあるだろうし、ランクがAA以下ならそれなりに確実な情報が得られると考えていた。

 いたのだが。


「甘かった……。まさかの展開だこれは」

「〈スノウ? どうしたの、大丈夫?〉」


 心配そうなアキトの声にも反応出来ず、ただ頭を抱えてテーブルに突っ伏す。あぁ、もう調べなきゃよかったわ。知らなければもっと平和でいられたものを。

 自分の行動を激しく後悔しながら、キリキリする胃を抑えつつ、もう一度本に目を落とす。


 そこに描かれた絵は間違いなくアキトの種族だろう。犬に翼が生えた魔獣何ぞ、アキトそのものと言っていいはずだ。

 だが、共に書かれた解説が笑えない。それはもう、口端が引き攣ってヘンな顔になるぐらいには。

 だって……


「これはないわ。ホントに」


 改めて説明書きに目を通して、変わらない現実に呻いた。


【種族名:ウィングウォルフ】

 レベルランク:S 種族特性:闇・風・土・雷ノイズレカノ魔力ヲ持ツモノガ多イ

  見タ目ハ翼ヲ持ツ犬。成犬ニナルト、鳥ノヨウニ空ヲ駆ケルコトモデキル。強靭ナ身体ト鋭イ牙ト爪ヲ持チ、翼ハ黒イ。

  シカシ、稀ニ大キスギル魔力ニ影響サレテ、翼ノ色ガ変色スルコトガアルラシイ。

  詳シイ生態系ハ解ッテオラズ、ドノヨウニ生マレ育ツノカ、マタドウイッタ環境ヲ好ムノカモ、解明ハサレテイナイ。

  千年前ニ、ウィングウォルフ ガ ワイバーンヲ倒シタトイウ記録ガアル。ソノコトカラ、レベルランク ハS相当ダロウト推測サレルガ、詳細ハ不明デアル。


 つまり、アキトはレベルランクS(もしかしたらそれ以上)の魔獣で、翼の色が黒じゃないことから魔力は規格外だと思われる、と。

 ――うん。とんでもない拾い物したな、私。


 突っ伏していた頭を上げれば、アキトが心配そうに除き込んでいて、つい小さな頭に手が伸びた。

 そのままふわふわの毛並みを堪能するように撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めて、もっとと強請るように手のひらに頭を擦り付けてきた。うん、カワイイ。


「くぅーん……〈スノウ、大丈夫?〉」

「全然大丈夫」


 小さく悲しげに鳴くアキトにすぐさま即答すると共に、もう考えることを放棄した。うん、例え何だろうとアキトは可愛いんだから、もうそれでいいや。


 パタンと本を閉じて席を立てば、アキトもまた肩に乗って来た。

 暫くもぞもぞしていたと思ったら座りのいい場所を見つけたらしく、くふん。と満足そうに鼻を鳴らして落ち着いた様子に、内心身悶える。ああ、もう、激カワ。


 さて、アキトの出自なんかを考えるのは後回しにして、今日はもう買い物して帰りますか!



   ★ ★ ★



 アキトを飼うことになったという、予定外の出費もさることながら、また無駄にある部屋のリフォームが必要になりそうなことを計画しているから、ちょっとお金が必要になりそうだ。


「でも買うものは決まってるし、正直いいものを買いたいからお金がかかりそうってだけなんだよなぁ……」


 ギルドを出て街の中を歩きながら独りごちる。


「〈なぁにー? なにしにいくのー?〉」

「ん? 買い物って言って、必要なものを金や銀と交換して集めに行くんだ」


 独り言のつもりだったが、アキトにガッツリ聞かれていたようで、これから行く場所や目的を話す。生活に必要な小物類は、さっき達成した依頼の報酬でどうにかできるだろう。多分。 

 いざとなればまだ余ってるコアとか、依頼の時に倒した魔物からドロップしたものとか売ってお金に変えればいいんだし。


 スマホのマップを確認しつつ、街の店が多く集まる商店街のような大通りを目指して歩く。

 さて、目的の品は手に入るかな。






「おぉ~…… 活気あるなぁ」

「〈人がいっぱーい!〉」


 結構歩いて辿り着いた大通りは、まんま「商店街」だった。


 あちこちから客引きの声がかかり、商品をアピールする声が威勢よく飛び交っている。どうやら流通はしっかりしているようだ。もしかして商業が盛んだったりするのか?

 っと、そんな分析は今度でいいか。まずは目的のものを見ていかないとな。


「タオルやら食器やらシーツなんかは大丈夫だったし、洗剤とかは石鹸があったから今回は下見ぐらいでいいか。シャンプーは…… そもそも存在するのか?」


 いやでも、よく考えれば屋敷にあったものは初めから揃えられていたといっても、基本はこの世界にあるものだったし、お風呂場にあった石鹸だの歯ブラシだのは新品だったのを考えると、液体洗剤や専用石鹸が無い、もしくは高価ってだけなのかも。


「なら、やっぱりまずは日用雑貨か。その後で調合とかに必要なものを見て回ろう」


 ポーションなんかの材料と入れ物、アーティファクト作成のための雑貨、他にも色々と見たいものは多い。


「時間、足りるかな?」

「〈夜には買い物ができないの?〉」

「いや、出来ないこともないけど、夜の森を歩くのは避けたいから早めに帰りたいんだよね」


 なんせ、我が家である屋敷が建っているのは森の中である。いくらアキトがいた森に比べて魔物やら獣やらが少ないとは言っても、危険なもんは危険なんだし。

 ただ、森育ち(推測)のアキトにはイマイチ伝わらなかったらしく、キョトンとした顔で首を傾げられた。なんだかなぁ。


 まぁその辺の価値観の差は追々埋めて行くとして、まずは雑貨店を探さないと。


「ってことで検索」

「〈スノウ、それなぁに?〉」

「ちょっと探したいものがある時に、探し物を見つけてくれるアーティファクトだよ。あ、ここ雑貨店なのか」


 正確には違うけど、いちいち前世のことまで説明する必要もないからそういうことにしておく。面倒くさいってのもあるけど、もうどうやったって関わることのない世界の話なわけだし。


 マップにマーカーで反映された検索結果から、目の前にある店が雑貨店だと解った。

 というか、看板にも「雑貨店カナリヤ」と大きく書かれている。そりゃ雑貨店だわな、これで違ったらある意味詐欺だ。


「じゃあ早速……」


「盗人だ! 捕まえろー‼」


 入ろうか。と続くはずだった言葉は、突然の大声にかき消された。

 驚いて声がした方を見れば、こっちに走って来る二人組の男の姿があった。なんか漫画とかゲームに出てくるモブっぽい盗賊と言うのか、三下の子悪党を絵に描いたような奴らというのか。とにかくそんな感じだ。


「というか、今日は妙に色々起こるな。イベントフラグを立てた覚えはないんだけど」

「〈スノウ?〉」


 思わず呟いた独り言に、アキトが不思議そうに首を傾げてこっちを見る。けど、それには構わず、腹の立つニヤニヤとした笑いを浮かべて逃げる男共にピントを合わせ、魔力を集中する。


「【スリップ】」


「「うぎゃっ!?」」


 パチン。と指を鳴らすのと連動して、魔力が連鎖的に放出され、男共がすッ転んだ。

 そこに、男共を追いかけていたのだろう騎士っぽい制服と鎧を着た男たちが追い付き、盗人の男共を縛り上げていく。


「ふぅ。よかった、どうにかなって」


 無属性魔法【スリップ】×2。名前の通り滑らせて転ばせるだけの魔法なんだけど、意外と使える場面は多そうで覚えたんだよね。うまく発動してよかった。


「でもやっぱり、まだまだ無属性魔法の連続発動は苦手だな。他の属性は詠唱一回で連続発動とか簡単に出来たのに」

「〈すごい! スノウ、すごいね!〉」

「ありがとう、アキト」


 無属性以外なら、例えば炎の弾丸を撃ち出す魔法【フレイムバレット】を一回唱えれば、その後何回だって詠唱無しで連続して【フレイムバレット】を撃てる。

 なのに、これが無属性魔法になるとてんでダメなんだよな。何らかのモーションを入れたり、唱える時に「×何回」って言ったりすると、上手いこと発動するんだけど。


「(ま、その辺は今後の練習次第かな)」


 今のところ不便はないし、特に困っているわけでもない。気長に習得すればいいだろ。


「〈スノウ!〉」


 一人で勝手に考え込んで結論を出したところで、肩に乗っていたアキトに叫ぶように呼ばれてハッとする。


 眼前に、迫る銀色のナニカ。


「このアマァァァッ!!!」


 野太い叫びが響いて、漠然と「あぁ、さっきのモブ盗賊か」と思う。多分、縄抜けでもして拘束から脱出したんだろう。そのまま逃げればよかったのに。

 となると、迫る銀色はナイフか短刀か、とにかく何らかの刃物だろう。捕まった腹いせってとこかな? 一応は私の魔法のせいだし。


 そんなことをつらつらと考えるけど、普通なら恐怖して動けなくなる状況。命の危機が迫る中、私はとても冷静だった。


 だって……。


「〈スノウに触るな!!〉」

「ぎゃふっ!?」

「おおう。【シールド】より先にアキトが反応しちゃったか」


 依頼から戻ってもかけっぱなしだった無属性魔法【シールド】。

 物理・魔法に関係なく、あらゆる攻撃を防ぐ魔法の盾に守られている以上、例え喉元に伝説の剣を突き付けられたとしても平然としていられる自信がある。だって人間じゃどうやっても【シールド】を破れないし。


 けど、アキトが【シールド】の効果範囲に入る前に、男に思いっ切り頭突きをお見舞いしたことで、その絶対的な魔法の盾の出番もなく終わった。

 てか、アキトってば凄く勇ましかったんだけど。見た目ポメラニアンの仔犬なのに。


 アキト渾身の頭突きを喰らったモブ盗賊Aは、勢い良く吹っ飛ばされて地面に転がり、そのまま伸びてしまった。あらま、脳震盪かしらん?


「〈スノウ! 大丈夫だった?〉」

「うん。アキトのおかげで怪我一つないよ。ありがとう」

「〈本当!? よかったぁ〉」

「ふふ。カッコ良かったよ~。凄かったねぇ」

「〈え? 僕、すごかった?〉」

「うん。すごかった」


 定位置である肩の上に戻ってきたアキトを労わるように撫でてやりながら褒めると、目をキラキラさせて翼をパタパタ動かしながら、嬉しそうすり寄って来る。

 僕すごい? すごい? と訴えかけてくるその目は、かなり純粋で雄弁だ。惜しみなく撫でて褒めてやれば、翼がより一層パタパタと動いた。


「(けど、これである意味面倒事に巻き込まれたなぁ)」


 ちらりとアキトが吹っ飛ばしたモブ盗賊の方を見れば、騎士と思しき人達が再び縄で縛り上げていた。


 そして、彼らのリーダーか何かなんだろう。こちらを見る、ちょっと他より立派な鎧を着る男性と目が合ってしまった。

 興味深そうに見つめてくる目に、嫌な予感がして仕方ない。


「一日でイベント発生し過ぎでしょうよ」


 はぁ。と思わず口を突いて出たため息に、アキトがまたキョトンとした顔で私を見つめていた。



別にタイトル「アキトは可愛いけど、それだけじゃないんです。」

次回、スノウの予感が的中。また厄介なフラグ()が立つようです。

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