全ての始まり2
遊牧の民族ハンガイ族の若長の婚礼の儀式が行われているゲルから
少し離れた、前族長にして、若長の長兄である彼のゲルでは、
ゲルの主である彼と、若長とよく似た面影を持っている
彼らの従妹が、面と向かっていた。
「だから、無理しないで、寝てろって!
お前まだ、体が戻ってないんだぞ!」
「でも、寝てばかりは居られないって」
どうやら、指にたくさんの刺し傷を作りながら、
彼の服の紐の取れたところを縫おうとしているようだが、
まったく進んでない上に、赤い染色が付きそうだった。
「意外に難しいね」
剣ダコだらけで、硬くなった手の平で、彼女は、四苦八苦する。
そんな彼女にため息を付くと、彼は、自分の服を彼女から取り上げて
スイッと彼女を横抱きにし、奥に一つだけある、
自分のベッドに押し込んだ。
「!!・・・ち・・チーフォン兄上、兄上のを借りなくても、
床ででも、自分の所に帰るのでもするから!」
とたんに身を硬くして、起き上がろうとする彼女に、
ちょっと躊躇って、額に口付けを落とすと、
案の定、ビクッとした彼女を、怯えさせないように
柔らかい声で、
「ケルレン、フールンを忘れさせて、
お前を、俺の嫁にするって言ったけど、無理やりどうこうしないから、
それに、お前の部屋だった、長のゲルには、戻れないだろ?」
だから、気にしないで寝てろ、
と、頭を撫ぜて、彼は、少しだけ力を入れて、
彼女をベッドに押し付けた。