小さな君3
花音は、ゲルからは、少し離れた場所で、
オラーンと、豹のタマと狼のポチと共に立っていた。
「私を連れて行って・・・今すぐ・・」
その瞳に自分達に与えられたゲルを映しながら小さく呟く花音に、
オラーンは言葉を返す。
「・・・・・しかし、若様は、向こうには行きたくないと、
あの、マナエとかいう人間を、花嫁に迎えるから
人間達の所で暮らすのだと・・・我らの言葉を聞かずに
戻られたのではないですか?」
オラーンの言葉に、花音は、みるみるうちに、
頬を真っ赤に染めた。
「・・・・・うそ・・・だったんです。」
オラーンを含め6対の驚きで見開いた瞳を
視界の片隅で感じながら花音は、続けた。
「愛恵さんは、私の事を女の子だと、
只の、義兄の教えている子どもとしか思ってなくて・・
花嫁も何も・・・人の世界から離れたくなかったんです。」
オラーンは、俯いてそういう花音に、何か言おうとしたが、口を噤み、
花音をそっと抱きしめた。
(愛恵さん、何も言わずに去って行く私を許してください。
フールンさん、義兄上になって下さったのに、このまま去っていきます。)
花音は、オラーンの腕の中で瞳を閉じた。
次に瞳を開いた時には、花音達は、暗闇に立つ
大きな城の前に立っていた。
「若様、地の王、アメイモン様と、
お祖父様の、アスマデウス様がお待ちです。」
「姫さま、行きましょう!」
「姫さま、僕と一緒に~」
オラーンの言葉に、いつの間にか、
毛色は、そのままに、幼い少女と少年の姿になった
魔獣の狼と豹のポチとタマが花音の手を引いた。
「若様が、居られる場所は、あんな人間達の世界ではない、
やはり、此処なのですよ。」
俯いたまま、両手をポチとタマに引かれながら進む
花音の耳に、オラーンの声が入ってくる。
「貴方様は、夜と夢、そして欲望を司る黒の伯爵ザラド様の御子。
雄でも雌でもあり、どちらでもない、
まだ、夜色の翼も小さい、雛のコルナッキア<夜の凶鳥>なのですから」