絶対に3
「・・・・・・お願い・・・助けて・・
私と二人だけで、・・一緒に来てください。」
花音の言葉に、思いつめた顔に、
愛恵は、一瞬、息を詰めた。
口元をムニャムニャさせて、瞳をさまよわせて、
愛恵が、やっと口を開いた時に、
「・・・いいです・・・済みません。
来てくれるわけありませんよね・・、
やっと、大好きな義兄ちゃんと出会えたわけですし、」
愛恵の様子を下から窺っていた花音が、そう言った。
パッと繋いでいた愛恵の手を離し、
俯いて諦めモードになっている花音を躊躇ったあと、
そっと、抱きしめて、愛恵は、
「ううん!良いよ!二人だけで行くのに迷ったわけじゃないの
私、花音ちゃんと二人だけで、一緒に行っても良いよ!
その事については、あんまり何も考えてないよ!
花音ちゃんが、沈んでいると言うか、辛そうだから、
どんな言い方が良いかな・・とか、そんなことを考えたりしていたの」
あんまり考えてないって・・・
愛恵の言葉に、花音が驚いたように目をパチクリさせる。
貴女という人は・・・
呟いて、突然、花音が、愛恵の腰にぎゅっと抱きついた。
「・・・か・・かかか・・かお、花音・・ちゃん?」
突然のことに驚いてワタワタとする愛恵を余所に、
花音はそのまま無言で、愛恵の胸に顔を埋めていた。
愛恵は、暫くすると、少し落ち着いてきてオズオズと、
花音の背中に腕を回して、
花音の頭が、自分の顎の位置より低い事に、
(大きいように見えるけど、花音ちゃんの背って
随分低かったんだな・・・)
等と、ボウゥと、考えていた。
「・・・・貴女が・・・嫌いです・・・。」
やがて、搾り出すような花音の声が、胸元で
響いて、思わず愛恵は、聞き返した。
「え?何?」
「・・貴女のそういう、お馬鹿な所が嫌いです・・。
絶対、絶対、貴女を好きだなんて言いません!」
抱きつきながらの花音の嫌いという言葉に、軽く傷ついて、
愛恵は、涙が零れそうになった。
そして、次の瞬間、愛恵は、長い髪を花音によって下に引っ張られて、
痛さに瞳を瞑った。
(・・・!?・・)
唇に何だか柔らかい感触があって、
愛恵は、慌てて瞳を開けた。
直ぐ下にある花音の瞳と、まだ握られた
自分の髪に愛恵は、瞳をパチクリとさせる。
「嫌いです・・
嫌いです。
私は、お父様とお母様の、娘なのに・・
貴女の、綺麗な少し柔らかくて、長い漆黒の髪が嫌いです。
少し茶色の、優しい黒い瞳が嫌いです。
笑顔と、何でも受容してしまうようなそのぼんやりさが
大嫌いです・・・どこまでも、私を掻き乱す・・。」
愛恵は、花音に、嫌いとか大嫌いと言われているのに、
見上げてくる、花音の瞳が、あまりに綺麗で、
表情は、泣きそうで、
愛恵は、何だか、花音に大好きだと
言われている気がして、顔が火照ってきた。
「だから・・・・だから、
愛恵さん、大好きな義兄さんと結婚して、
二人で、元の世界に戻ってください。」