タイムスリップ?1
物凄い疲労っていうことだけれど
本当だろうか?
寝かせとくしかないのかな?と、
思いながら、しゃがみこんで愛恵が花音の顔を覗き込んでいると
再び背後の洞窟の入り口から声が聞こえてきた。
『ケンイチどうかしたの?』
(女の人の声!?)
狼と豹が警戒の唸り声を上げる中、
何故か愛恵は、ドキドキした。
『ケムチーぃ!<ケンイチ>』
狼と豹を宥めながら洞窟の入り口に向かった兄の健一と
健一の腰に飛びついた小さな影を愛恵は、
時間が止まったかのようにじっと見ていた。
『チールン!大丈夫って言うまで来たら駄目だろ!』
健一に抱き上げられて洞窟の中に入ってきた
クリクリした顔の幼子の顔を凍りついたまま愛恵は、ただ見ていた。
抱っこされて嬉しいのかニパッと笑った
愛らしい顔、クリンと所々がハネた長い栗色の髪と
焦茶の少し目尻が釣り目になった大きな瞳、
赤ちゃんと幼児の間のような子ども、
父親ででもあるような健一の姿と、聞こえてきた女の人の声、
「・・・・お・・・・に・・ちゃ・・・・その、それの、その子は?」
搾り出した愛恵の声に振り向くと健一は、実に爽やかに
アハハハッと笑うと
「かわいいだろ?チールンって言うんだぜ、よく似ているだろ?」
と言った。
『・・・・こら、チールン、勝手に駆け出したらいけないでしょ
森の中では大人しくする約束だったんじゃないの?』
洞窟に入って来て、健一とその幼子に寄り添う影、
結わずに流した栗色の腰まで届きそうな長い髪、
スラリと伸びた肢体に頭が吹っ飛んでしまいそうになる。
「・・・・・お・・・・に・・ぃ」
失恋だ・・・・
恋だったかは分からないけれど恋の花が蕾のまま散ってしまった。
そう強く思って涙がほんのり滲みそうになった。
ゆっくりと愛恵の声に振り向いた女性の影は、
パチクリと長い睫を瞬かせた後、ふんわり笑った。
「・・・ま・・マナエ・・マナエさん?!」
「!!・・・・あ、・・・え・・あの・・
健一お兄ちゃんが、お世話になっています。
お姉さん」
傷ついた心を押し隠して愛恵は、兄、健一の奥さんに挨拶を
しなければと思った。
「・・・!?・・・・・お姉さん?・・・
大丈夫だった?あれから時間を越えてすぐに此処に来たの?」
怪訝な顔をしたけれどすぐにその女性は真剣な顔になって
愛恵に駆け寄り徐に抱きしめた。
「チーフォンと、私を助けてくれた礼も出来ないままだった
貴女のお陰でチーフォンは命が助かった・・・。」
抱きしめられながら愛恵の頭の中にクエスチョンマークが
飛び交った。
「あの場で死んで居たらここにチールンは居なかった
ありがとう!」
にっこり笑った間近の顔に何処となく見覚えがあった。
凄くお世話になった人と同じ面影が・・・
「・・・・!!・・・・・ケル・・・えっと・・・フールンさん所の??」
「うん・・・ケルレンです。」
びっくりした。