お兄ちゃん2
「・・・愛恵?・・・・愛恵か?」
シルエットから聞こえた懐かしい声に胸がドキンとする。
まさか・・・・愛恵は首を振って両手で瞳を隠してからもう一度相手を見る。
シルエットの相手は、見えにくいのが分かったのか
狼と豹に唸られながらも、少し洞窟の中に入り
見えやすいように愛恵の目線と同じ位置になるように
膝を少し曲げてこちらを見た。
その笑顔と、懐かしい顔に涙が溢れそうになった。
「・・・・嘘・・・・嘘、お兄ちゃん?」
知っている顔よりほんの少しだけ
大人びたような顔になっているけれどそれは兄の健一の顔だった。
グシャッと笑顔が崩れると健一は持っていた剣をその場で離し、
愛恵を力いっぱい抱きしめた。
「よかった。・・・本当に、心配してたんだぞ馬鹿妹、
あんまり可愛いからどうにかされてるんじゃないかって・・・・」
懐かしい健一の匂いに存在感に涙が滲みそうになる。
ああ・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・会いたかった。
「・・・そうだ!それより、お兄ちゃん」
愛恵は、ハッと気が付くと、
健一の腕から抜け出し、健一の服の裾を引っ張って
花音の方を指差した。
「お兄ちゃん、花音ちゃんが、花音ちゃんが倒れちゃったの!」
「ん!?・・・一条?・・一条花音か。」
健一は、一瞬花音を見て驚いたように目を見開いた後、
直ぐに下に寝かされている花音に近づくとしゃがみ込んで
額に右の手の平を当てた。
「・・・・うん・・・・熱は無いな・・・むしろ少し低めになってるな。」
愛恵は、花音の様子を診る健一の背中を見つめながら
息を潜めて、緊張のあまり一つ唾を飲み込んだ。
「・・・・息は・・・あんまり無いな・・・お~い~生きてるか?
一条!・・意識はあるか?・・・心臓はぁ・・ちょっと弱いな・・・」
健一が花音の胸元に耳をやって言った言葉に愛恵の指先が
ピクリと反応した。
愛恵の目頭が徐々に熱くなってくる。
「花音ちゃん・・・花音ちゃんはぁ・・・お兄ちゃん・・。」
(熱が低めで、息があんまりなくて、心臓が弱くて・・・
意識が無いなんて・・・花音ちゃんどうしたの?)
愛恵の胸が不安でジリジリしながら健一に聞いてみると、
「・・・・・俺は、医者じゃないからあんまり詳しい事は
分からないけど、疲労だな・・・物凄い疲労。
とりあえず静かに寝かしとくしかないだろ・・・」
あっさりと健一はそう言った。




