お兄ちゃん1
「・・・・・カオンちゃん・・あえて言わせてね
信じるって言った直ぐ後にって思うかも知れないけど
もちろん信じてるから、付いてくから・・・言うだけだから良い?」
愛恵の言葉に花音は面白そうににっこり笑ってどうぞと言う。
「・・・・うそー!」
世界を飛ばされておいて今更だけれども、
タイムスリップと言われて言わずには居られなかった。
「マナエが目覚める前に、オラーンに周辺を少し見てもらっておいたので
危険は無いと思うのですが、注意して行きましょう。・・・・こっちですよ」
「・・・・そう言えば、ポチとタマは居るけれどオラーンは居ないね
今、何処に居るの?」
「一度報告に戻ってくれたのですが、
また見に行ってくれています。この先に都合よく誰かが狩をする為に
使っている小さな洞窟があるそうなのでそこで合流しましょう。
そこに置いてあったものからして国から出てないと思ったのですよ」
「何で?何で?・・・落ち着かなきゃ!落ち着かなきゃ!!!」
そして、しばらくして洞窟に着いた愛恵は、
花音を寝かせる為に動き回っていた。
距離は山歩きやハイキングなどしない愛恵でも
何とかたどり着ける程だったが、
洞窟が見えたと思ったとたんにそれまで
なんとも無い顔をしていた花音が急に倒れた。
ヒッヒッフーヒッヒッフー
と、落ち着こうとして何か間違った呼吸をして
愛恵が、花音を比較的平らで、柔らかそうな場所に寝かせてみると
青ざめ脂汗を掻いて気を失っていた。
不意に、狼と豹が吼えた。
「え!!・・・何?」
半泣きべそを掻きながら入り口を振り向いた愛恵の視線の先に居たのは、
逆光の為に顔が見えない背の高い黒いシルエットと
世話になって義兄弟になったフールン達が着ていた
民族衣装に似た、黒地に、赤の糸で胸や手首の所が刺繍された衣装と
手に握られた抜き身の剣だった。