誰でもない貴方1
目覚めた時一番始めに見えたのは、雨の空だった。
愛恵は、何処かの木の根元に寝かされて
傍には、狼のポチと豹のタマが眠っている様子で、
さっきまで雨が降ってなかったのに眠っている間に雨が降り出したのだろうか?
などと考えながら、暑いなと思いフールン達の所で着せてもらった
部族の衣装のズボンの裾を捲り挙げた。
まだ、春も来てない様な気候だったと思うのに今は何だか真夏のように暑いな
と愛恵が上着を脱ぎかけた所で
「ま!・・・・マナエさん!!」
という、慌てた声が聞こえて動きを止めた。
「カオンちゃん?」
どこから帰ってきたのかボーっと目の前に立っている花音を見ながら
そういえばさっき凄い夢を見たな・・
と思い出していた。
まるで映画みたいだった。
としみじみ思い出しながら
「カオンちゃんが、黒い翼を広げてね・・・・」
とか微笑みながら話しかけると、おそるおそると言ったように
「・・・大丈夫・・・ですか?
もっと、恐がって嫌がられると思ってたのですが・・・」
と花音が愛恵にそう言うのに
花音の瞳が揺れているな、
何に怯えているんだろうとのんきに愛恵は思っていた。
「大丈夫、大丈夫、恐くないよぅ~」
ヘラヘラ笑い出した愛恵を怪訝な顔で見た後に、
少しホッとしたような表情を浮かべて
花音が、
「・・・・・ここまで来たら仕方がありませんね、
お話しましょう・・・・でも、先に言っておきます。
絶対貴方を傷つけさせませんから!・・・・
貴方の身だけは守りますから誓います。・・・・そう、契約しても良い。」
花音が何を言っているのか良く理解できないまま愛恵は頷く。
「・・・・?・・・カオンちゃん?」
話すと言ったままそれでも黙り込んで戸惑っている様子の
花音を見つめて愛恵が名前を呼ぶと
「・・・・・どう・・話せば良いのでしょうね・・・
そうですね、貴方の疑問は、私達は何故こんな異世界に飛ばされたのか?
ここは何処か?何故こんな所に来たのか?・・・
それから私の黒い翼とかが何か?
そんな所でしょう?」
花音の言葉に愛恵は再び頷く。
「まず・・・・ここは何処かはまだ私にも分かりません。
何故こんな所に来たのかは、とっさに私が何処かに飛ぶように
力を使ったからじゃないかと思います。
何故こんな異世界に飛ばされたかは・・・
やはり私があの時無意識に力を使ってしまったから・・・かも知れません
後・・・・・・私の黒い翼は・・・・私の正体が」
そこで花音は切ってしまった。
言いにくそうに俯き花音は、何度も口を噛み締める。
良いよ・・・もう・・
懸命に話してくれる内容を唐突で良く分からないと思いながらも
苦しそうな花音の様子にもう話さなくても良いと愛恵は、言いかけようとして
花音に愛恵の胸元を押す手の仕草で止められ口を噤む。
「私が・・・・私が・・・・人間じゃない・・
魔族のザラドという男の子どもだからのようです。
私は・・・・そのせいで、知らぬ間に力を使って
貴方もここに連れてきてしまった・・」
済みません・・・済みません・・と
泣きそうな顔になって謝る花音に
愛恵は、しばらく静かに考えていたが
そっと花音の背中に手を回し無言で抱きしめた。
「・・・・何だか・・・突然すぎて良く分からない話だと
正直、実は、思ってしまってるんだけど、
私は、カオンちゃんがやっぱり
好きだな・・って思って今も思ってるし・・傍にずっと居たいなって思うよ」
何もかも分からない実感も無い状況の中で
愛恵は、花音の優しさ、存在の温かさだけはしっかりと感じ取れていた。
見上げてくる。何時からか、とっくの昔に眼鏡がどこかに行ってしまった
綺麗な紫水晶の瞳を見ながら愛恵は、にっこりと微笑みかけて
「カオンちゃんの紫の瞳は、綺麗でとても好き
その奥に見えるカオンちゃんの優しい気持ちとか
どんな時でも凛としてる所とか私はとても好き・・・・
他の事情がどうでも、それがカオンちゃんだと、
カオンちゃんはカオンちゃんと、私は、思う。」