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此処は何処だろう?
目の前には緑の草原が広がっている。
地平線が見えて何だかとても綺麗だとは思うけれど
こんな所に来た覚えは彼女には
(たぶん・・・絶対と言えるほど自信が無いけど)
まったくなかった。
ああ、そうか!
彼女は、思った。
夢よね、
うん、夢に違いない。
確信の元、自分の頬を抓ってみる。
「おとうさん~!おかあさん~!
おにいちゃん~!おねえちゃん~!」
一気に彼女の瞳から涙が溢れ出た。
「・・・・うるさいですね・・・・。」
そんな彼女のすぐ後ろでやけに冷静な
甲高い声がした。
振り向くとお姫様が居た。
驚いてじっと見ている彼女に怪訝な顔をしていた
お姫様は、やがて「ああ・・」
と何か気付いたように近くに落ちていた欠けた黒ぶちの眼鏡を
その耳に掛けた。
そして両手で自分の肩を覆うほどの髪の端を左右に分けて束ねて握り締めた。
「これで分かりましたか?」
「・・・・い・・・一条・・・えっと・・・花音・・・ちゃん?」
彼女は思い出していた。
確か、私は・・・・・・・・今日、小学校の先生であるお兄ちゃんに
忘れて行ったお弁当を届けようとしてエリート私立学校である
あの校門を潜った。
お兄ちゃんには、部外者は立ち入り禁止の厳しい学校だから
絶対来てはいけないぞ・・と言われていたけれど
最近お兄ちゃんが忙しそうにしていて会ってない事もあって
思い切って行ってみたのだった。
一条花音ちゃんは、職員室に案内してもらおうとして彼女が呼び止めた
女の子だった。
「・・・・・えっと・・・・良く分からないけど
こんな良く分からない状態に小学生の貴女も巻き込んでごめんなさいね」
草原にしゃがみ込んで訳の分からない状況ながらも
ひとまず小学生なのだからきっと自分以上にこの子は不安に違いないと
彼女が、目線を合わせてそう言うと、
「巻き込んでって・・・・この状態は貴女のせいだと言うのですか?
鈴木健一先生の妹さん」
「・・・ああ、ごめん・・私は、
鈴木愛恵よ・・・ごめんね名前言ってなかった?
私のせいではないと思うけど・・・・」
何故か目線を合わせずに斜めを向きながらの一条花音の様子に
首を傾げて尋ねる。
「どうしたの?花音ちゃん」
「・・・・・私の目気持ち悪いですから」
一条花音の瞳は綺麗な紫水晶の瞳だった。
「ううん・・・・綺麗な瞳、眼鏡ごしでも綺麗だけど
眼鏡をしていない瞳はもっと綺麗でお姫様みたいよ花音ちゃん」
その言葉に一瞬息を吸い込むような仕草をした後、
しばらくして見る見るうちに、薄っすらと一条花音の頬が
ピンクに染まっていって
恥ずかしげに彼女に背中を向けてしまった。
「目が悪いのだからしょうがないけど
眼鏡無しでもっと見ていたいくらいよ」
自分の瞳が気持ち悪いと言う一条花音を元気づけるように
言うその声に重なるように少し慌てた調子の声で一条花音が
「目は悪くないです。伊達眼鏡ですよ、
眼鏡をして髪の毛を縛っている方が周りが真面目だと思うでしょ」
ちょっとツンケンした一条花音の言葉に、
しかし、少しの照れを感じた。
私は、お兄ちゃんと同じように小学校の先生を目指しているのだから
それぐらい見抜けちゃうよ
と一条花音の可愛さに彼女は、微笑んだ。
「と・・・とにかく、今はこんな事をしている場合じゃないでしょ?
如何したら良いか考えましょう。」
一条花音の言葉に、
確かに・・・・・小学生に指摘される短大生って一体・・・
と彼女は、苦悩したのだった。