居なくなった花音ちゃん1
「花音ちゃん・・・・」
運び込まれた布団の上で眠る花音の顔を見ながら
忙しなかったさっきまでの疲れが出てきたのか
愛恵はウトウトと眠たくなってきた。
お医者さんは、大きな怪我は無い、大丈夫だ
って言ってたけど・・・本当かな?
倒れる箪笥から私を、花音ちゃんが庇ってくれた
私が守らなければならなかったのに・・・
ごめんね花音ちゃん・・・・・・・・・・
「・・・・・花音ちゃん・・・ごめんね・・・。」
少しだけと思い、愛恵は、コテンと布団に頭を付けて眠りに付いた。
スゥスゥと寝息がし始めると今度は、花音の睫が揺れて
ゆっくりと目蓋が開いた。
花音は、しばらく自分の傍で眠っている花音を見つめていたが、
愛恵を起こさないようにそっと起き上がった。
「・・・・・マナエさん・・・・マナエさん」
誰かが愛恵の肩を揺す振った。
「・・・・マナエさん、カオンさん、居る、無い、どこ?」
一気に覚醒した瞳に映ったのは覗き込むフールンの真剣な顔
と空になった布団、
そこに居たはずの花音の姿が消えていた。
「どうして!どうして!」
(置いてかれた)
胸が引き裂かれる思いで、
唇を噛み締め涙を堪える。
悔しさと哀しさで目頭が熱くなる。
(そんなに頼りないの?どうして置いて行っちゃったの?)
どこに行ってしまったのか分からないけれど
追いかけずには居られなくて
腕と肩を掴んで引き止めるフールンを振り払ってでも
花音の後を追いかけようとしたが、
「マナエさん、カオンさん、追いかける、待つ、
今、探す、してる、マナエさん、追いかける、する、迷子、
狼、襲う、死ぬ」
フールンはけして愛恵を行かせまいと掴んでいた肩に更に力を加えて
正面から言い聞かせるように
瞳を合わせて引きとめる。
4,5歳程フールンさんの方が年下だと思うのに
なんて冷静なんだろうと思いながら
でも、愛恵は、聞き入れられない想いで
勢い良く何度も首を振る。
「花音ちゃんが迷子になって狼に襲われてしまいます。」
「大丈夫、大丈夫・・任せる」
唇を噛み締めて不安と哀しさ、悔しさからくる涙を
瞳にいっぱいに留める愛恵を見ながら
フールンは少し微笑み
「誓い、マナエさん、私の兄、助けてくれた。
私の恩人、一族の恩人、マナエさん、助ける、誓い」
「・・・・絶対?ホントに早く見つけてくれる?」
「誓い、見つける、助ける」
ただの応急の救命行為なのに大げさなと
愛恵は思ったが、その真剣さに打たれてしぶしぶ頷く。
そして、絶対見つけてくださいねと言う気持ちで見つめる
愛恵を見て思わず愛恵の頭の方にフールンは手をやりかけて
止めて苦笑いをする。
『あやうく頭を撫ぜてしまう所でした。』
フールンが何を言ったのか愛恵には分からなかった。
「疲れる、ここ、休む、ゆっくり。・・・
チーフォン、ケルレン、一緒、居る・・・カオン、探す」
にっこり笑ってフールンは肩を叩いてそう言うと
去っていった。
(チーフォンさんとケルレンさんも居るから
ここで、ゆっくり休めってことかな?
花音ちゃん探しておくからって)
愛恵は首を傾げて考えていたが、しばらくして
おずおずと自分に用意してくれていた毛布に包まって瞳を閉じてみた。