黒い翼1
朝、用意して貰った朝食を食べながら愛恵は、
花音にチラチラと視線を送っていた。
目覚めてみたら愛恵が知らない間に添い寝していたので
女の子同士なんの問題も無いと思うのに
何故か花音が怒ってしまったのだ。
花音は、ムスッとした表情でその視線に気付かない振りを
して、黙々と食事をしていた。
「・・・・か・・・花音ちゃ・・・」
意を決して愛恵が話しかけるのに重ねて、
「鈴木愛恵さん、ずっと此処で滞在している訳には
いきません。・・・・・私は、元の世界に戻る方法を探す為に
旅に出ようと思います。」
サラッと凄い事を言って来る花音に愛恵は驚いて
話そうと組み立てていた言葉も吹き飛んで
口をパクパクさせる。
「鈴木愛恵さん、旅は危ないですから、
貴方は、私が方法を見つけるまで、ここで住まわせて貰えば良い」
「・・・何・・・何を・・・・・」
「この食事が済んだら、族長にそう言ってみようと思います。」
花音は、そう言って汁物を啜った。
「・・・・・・あのね・・・・花音ちゃん、
花音ちゃんが旅に出るなら私も行くよ・・・・
花音ちゃん・・・・えっと・・・私ね、元の家族の所に戻るまで
花音ちゃんのお母さんになる。」
愛恵の言葉に花音ちゃんの動きが止まった。
「花音ちゃん!私の事『お母さん』って呼んで!」
両手を胸元で握り締めて思い切って花音に言うと、
ブーッと漫画のように花音は、汁物を吹いた。
花音は、自分がそんな事をしてしまったことが信じられないのか
呆然とした表情で自分の手に持ったままの汁椀と
吹いたことによって汚れた目の前の
食事の器が置かれた布地を見ていた。
愛恵は、そんな花音に慌てて寄って行って
花音の汁椀を取って元の場所に戻して、汚れてない布を探して
花音の汚れた服などを拭いて、甲斐甲斐しく世話をした。
それにも、花音は、現実逃避したいのか顔を左右に振ると
何故だか
「寝なおします」
と言った。
せっせと寝なおす為に、布団を、
昨日結局使われる事がなかったベットへと
運んでゆく花音の背中を見ながら
愛恵は、どうして花音ちゃんは一緒に飛ばされてきた仲間なのに
置いて行こうとしたり、(私が頼りないからだろうけど)
頼ってくれなかったりするのだろうか
と哀しい気持ちになっていた。
「かお・・・・・」
言いかけて突然地震が起こった。
激しく揺れる地面に耐え切れず床に座り込む
言葉を発するにも舌を噛みそうで、歯を噛み締め頭を抱える。
(あ!花音ちゃん!)
愛恵は、花音に視線を送りかけて気が付く。
此方に大きな箪笥が倒れかけている。
花音の方に這って行きかけた体制のまま愛恵は、凍りついた。
驚きで目を見開いたまま、
何故か箪笥がゆっくりに倒れるように感じながら
ただ見ていた。
ぶつかると思った瞬間、
咄嗟に愛恵は瞳を閉じて衝撃に備えた。
が、その時、
何かに突き飛ばされた。
外の馬や羊や山羊の、家畜のけたたましい鳴き声と、
家具や柱が倒される騒音の中、
愛恵は、見てしまった。
たった今、愛恵が居た場所で
埃の中立っている花音と不自然に止まった箪笥を、
やがて箪笥は破裂音を立てて粉みじんに壊れて雨のように愛恵と
花音の上を振りそそいだ。
花音のその背中には黒い鳥の羽のような翼が生えて
紫水晶の瞳は、炎でも宿っているように光って
まるで花音では無い、別人が立っているようだった。
「・・・・か・・・花音・・・・ちゃん・・?」
「・・・・ま・・・愛恵・・・・・」
花音は、その声に振り向いて愛恵の無事を確かめると
ホッとしたようにその場に倒れた。